うちに住み着いた幽霊が、人気配信者になってチャンネル登録者100万人???:40
三人でのお出かけから家に帰り着くと、絵里は置いておくもの、持って帰るもの、と大きいリュックサックに出し入れして、帰り支度を整える。
その帰り際に。
「明日のバイトは楽しみにしててね。バッチリ盛ってくるから。」
そう言い残して、手を振りウインクをしながら去っていった。
絵里がいると何かと騒がしかったが、遥と二人になると穏やかな空間が戻ってくる。
最初は何を話して良いかと迷って喋れなかったのもあったが、最近はお互いの反応を覚えてきて、それはそれで口数が減ってきていた。
過ごした時間としては、まだ何カ月も経っていないのだが、毎日いっしょにいるとそうなってくるものなのだろうか。
普段の遥の配信の時間までは時間があったので、今の間にコンビニに買い出しに行こうと思い、
「遥。」
と、名前だけ呼びかけると遥は察して返してくる。
「行ってらっしゃい陽介さん。」
さらに続けて。
「あ、今日は暑かったですし、久しぶりにコーラも買ってきてくれるとうれしいです。」
その声を聞いて、私は軽く頷くと暮れたばかりの夜道をコンビニへと歩いていった。
コンビニに入ると、良く冷えた空調に生き返るような感覚を覚える。
一息吐いて、飲料コーナーへ向かった。
今日も暑かったし、ビールでも買おうかと棚を眺めていると、いくつか値段の違うものが並んでいたが、手は一番安いものに伸びていく。
たかが数十円しか違わないのに、高いものは贅沢な気がして、安いものを求めてしまう。
たった数時間前まで、その何十倍、何百倍も違う金額を小さい差だと思っていたのに、今は数十円の差がとても大きく感じていた。
そのギャップに可笑しくなって、一人で苦笑してしまう。
まだまだ、貧乏性が抜けないなぁなんて思っていると、コンビニの棚にあるものを見つけた。
少し高級な缶詰。
日頃はそんなものを買うことはないのだが、今日は少し違った。
別に無理に買う必要はないし、そんなに欲しいものでもない。
だが、これを買わないと、自分が小さいものだと認めてしまうような気がして立ち止まってしまった。
その缶詰に手が伸びた。
しかし、手に取ろうとした瞬間、絵里の姿を思い出して手は止まってしまった。
これは本当に欲しいものなんだろうか?
デパートでコスメを買う絵里は真剣に悩んでいた。もしかしたら、私が出さなくても自分で買ったり、差額を払ったりしていたかもしれない。
でも、他を犠牲にしてでも私はこれを欲しいのだろうか。
そう考えてしまうと、自然と手は止まり、足はレジへと向かっていた。
生活の中で、身の丈に合ったものを選ぶようになってしまっていたが、それは良くなかったのかもしれない。
美味しい食べ物、自分のための服飾や道具、広い家や車だったり。
何か思いつく贅沢はないかと思案したが、出てきたのは特盛の牛丼や、少し良いお酒くらいで、自分の欲の小ささにまた苦笑してしまう。
会計を済ませ、家へと戻ってくると遥が出迎えてくれた。
「お帰りなさい陽介さん。」
今はまだ、遥にコーラを買ってきてあげるくらいが、私にとっての一番の贅沢なのかもしれない。
宝くじでも当たれば少しは変わるのだろうか?
そんなことを考えながら、買ってきた弁当を食べたり、シャワーを浴びたりしていると、いつもの遥の配信の時間が迫ってきていた。
その間に見ていた絵里の配信が終わると、遥が声を掛けてきた。
「それじゃあ、私もそろそろ始めましょうか。みなさんに聞いてもらいたい話はいっぱいありますし。詳細は話せないですけど。」
そうして、今夜の遥の配信は始まっていった。
この後、過去と向き合うことになるとは知らずに。




