うちに住み着いた幽霊が、人気配信者になってチャンネル登録者100万人???:39
デパートの中に入ると、私でも聞いたことがあるようなハイブランドの店が並んでいた。
バッグや財布だけかと思っていたが、服やアクセサリーもあるんだなと眺めていたら、一つのマネキンに目が止まった。
夏らしい涼しげな白と水色を基調としたワンピースに、薄手のショートブラウスが合わされて、手には小ぶりなバッグが下げられている。
綺麗だなぁ、なんて近づいてみたが、隣に置かれた値札に固まってしまった。
ブラウスだけで15万???
この前入ってきた遥の配信収入でも、マネキンが着ているセットには手が届かない。
唖然としていると、絵里も近寄ってきた。
「これ気に入ったの?プレゼントしてくれるんだったら嬉しいけど、汚すの怖くて着れないなぁ。」
絵里が冗談交じりに話していると、イヤホンから遥の声も聞こえてくる。
「このブランド良いですよね。ちょっと高めなので、普段着にはしづらいですけど。」
ちょっと?普段着?
あまり遥の過去の話は聞いてこなかったが、やはり良家のお嬢様だったのだろうか。
そこからエスカレーターを登り、さらに奥へ進んでいくと目当ての店が見えてくる。
このフロアは化粧品のテナントばかりで、他には男性客はおらず、なんだか落ち着かない。
絵里は店に着くと店員と話しながら、あれこれと化粧品を物色していたが、私はそこに入っても何もわからないので、手持ち無沙汰になんとなく化粧品を眺める。
口紅、ファンデーション、マスカラ、この辺りはわかるが、チューブに入ったものや、透明なプラスチックケースに入ったこれは何に使うんだろうか?
そうして見ていったが、ふと先ほどの事を思い出して怖くなり、値札を見てみる。
7000円、4500円、11000円、5000円...。
高いと言えば高いのだろうが、さっき見た金額からすると、ずいぶんと大人しかった。
その数字に少し安心していると、絵里が声を掛けてくる。
「陽介ー、ちょっと来てー。」
なんだろうかと、呼ばれて行ってみると二つの箱が置かれていた。
「これが欲しいって言ってたやつなんだけど、新しいのが出てて、色の取り合わせも良いし、こっちの方が良いなって。」
わざわざ呼ぶということは、おそらくこっちの方が高いんだろう。
「いくらくらい違うの?」
私が金額を尋ねると、絵里はわざとらしく申し訳なさそうな表情を作って答える。
「えーっとぉ、そのぉ、5000円くらい高いんだけどぉ...。良いかなぁ?」
日頃の生活の感覚だとダメだと言っていたかもしれないが、今日見てきた金額からすると些細な金額な気がしてくる。
「良いよ。じゃあ、お会計を...。」
下ろしてきていた現金もまだ余裕を持って残っているし、別にこのくらい良いだろう。
財布から紙幣を何枚か取り出して渡すと、しばらくしてお釣りとレシートが戻ってきた。
レシートに並んだ文字を眺めると、袋代が200円。
コンビニで3円の袋代をケチっているのに、200円の袋を買っていることに苦笑しつつ、店を後にした。
そこからは少し街をブラブラと歩いて、いくつかの店を周っていると日も落ちかけてきた。
そろそろ帰ろうかなんて思っていると、絵里が何かを指差しながら声を掛けてくる。
「あっ!これこれ。写真撮ってくれる?」
指差された方向を見てみると、男性のキャラクターが書かれたソシャゲの大き目の広告が映っていた。
それを遊んだことはなかったが、女性に人気があると何かで見たことがある。
私は頷いて、絵里のスマホを受け取ると、広告と絵里がいっしょに映るようにカメラを向けた。
「そうだ、遥もこっち来て。いっしょに映ろう。」
絵里がそう言うと、遥が画面の中に入ってくる。
「じゃあ、お言葉に甘えてお邪魔しますね。」
フレームに収まっていることを確認し、シャッターを切ろうとしたところで、絵里が尋ねてきた。
「遥はどっち?右?左?」
「左左。絵里ちゃんから見て左ね。」
私が答えると、絵里は右手で作っていたピースサインを左手で構え直す。
「これでどう?」
スマホの画面を覗き込むと、絵里と遥が二人の真ん中にピースサインを構えて並んでいる。
片方の手で親指と人差し指で丸を作って、掛け声をかけてからシャッターを何回か切った。
「どう?どう?綺麗に撮れた?」
絵里がこちらに来たので、スマホを返していっしょに撮れた写真を見ていく。
「おー!いいじゃんいいじゃん。こうやって見ると、ほんとにいるんだなぁって実感するわ。」
その絵里の感想を聞きながら、私は違うものを感じていた。
前に写真を撮った時より、はっきり映ってる?
動画として映っている間は割とくっきりしているのに、写真に撮ると急にぼやけていたのが、今は動いている時と同じくらい輪郭がはっきりしている。
もちろん、背景が透けてたり、完全にくっきりと映っているわけではないのだが、以前と比べてかなり質感が変わっていた。
私がそれを見ながら神妙な面持ちでいると、絵里が声を掛ける。
「陽介も入って、三人で撮ろうよ。」
そう言われて、絵里が腕を伸ばしてスマホのインカメラを構える横で、画角に入るように身を寄せると。
「遥を真ん中にしようよ。そっちの方がおもしろいし。」
今度は画面を見ながら、遥が入る隙間を開けるように調整しながら離れていく。
端から見たらずいぶん変な光景だろう。
恋人ではなく、友達だったとしても、こんなに隙間を開けて映ったりはしないわけで。
「はい、チーズ!」
私も笑顔を作って写真に映ると、私は右手、絵里は左手、遥は両手にピースサインを作った写真が映し出された。
撮影も終わって、駅へと歩いていっていると遥が絵里に。
「今日の写真、メッセージで送ってくださいね。今日のことは大事にしたいですし。」
それを聞いた絵里は笑顔で遥へ返す。
「もちろん送っておくよ。あ、陽介にも送っとくね。」
そう言いながら絵里はいくつかスマホを操作すると、私のスマホにも通知が届く。
日が落ちていく中、撮った写真を眺めつつ家へと帰っていった。




