うちに住み着いた幽霊が、人気配信者になってチャンネル登録者100万人???:37
ピピピピ...ピピピピ...ピピピピ...
電子音で目が覚める。
なんだか腕と腹が重いと思って見てみると、絵里が私の腕に頭を乗せ、私の腹に足を乗せて寝ている。
目が覚めた時に絵里がいるのは初めてなのだが、今までもこうだったのだろうか。
先に起きて、いなくなっていた理由が少しわかったような気がした。
起こさないように気を付けながら、ゆっくりと腕を引き抜き、足を押しのけて身を起こす。
伸びをしながら、あくびをしていると遥が声を掛けてきた。
「おはようございます、陽介さん。今日はのんびりでしたね。」
のんびり?今は何時だろうかと、スマホを見てみると既に午後一時だった。
昼ご飯を食べて、買い物して、日が落ちる前くらいには帰ってこようかと考えていたが、予定よりは2~3時間は後ろ倒しになりそうで。
とはいえ、急ぐわけでもないので、別に遅くなってもいいのだが。
ベッドから立って、水をコップ一杯飲み干すと、顔を洗いに洗面所へ行く。
今日は出かけるしな。
休みの日はあまり髭は剃らないのだが、カミソリで伸びた髭を剃りあげた。
滑らかになった頬を撫で、寝ぐせを直すと部屋へと戻る。
台所で換気扇を回しながら、煙草を吸っていると。
「あーーーーーー!」
バサッという音と、大きな声が狭い部屋の中で響く。
「あ、おはよう絵里ちゃん。」
「おはようございます、絵里。」
私と遥が朝の挨拶をすると、絵里は両手を頬に当て、俯いていた。
「あ...あぁ...。寝顔、見た?」
目が覚めた時に見たのは、幸せそうに寝ていたなぁと思い出す。
「うん、幸せそうに寝てたけど。」
素直に感想を述べてみたが、どうやらその答えは求めていなかったようで。
「嫌!嫌!なんで見るの!?恥ずかしいじゃん!」
そう言われたものの、恥ずかしいの基準が全くわからなかった。
すっぴんでジャージ姿で胡坐をかいている姿や、酔っぱらって抱き着いていたのは良いんだろうか?
いや、と言いかけたが、余計めんどくさそうな事になりそうだったので、
「ごめん。」
と、とりあえず謝っておくことにした。
そこから絵里はベッドから飛び起きると、バタバタと身支度を整えていく。
「どっちが良い?」
絵里はそう言うと、大きなリュックサックから水色のワンピースを取り出して拡げて見せ、それが終わるとTシャツとショートパンツを縦に並べて見せてくる。
どっちも可愛いなぁと思いながら眺めていると、遥も会話に入ってきた。
「今日はデパートに行きますし、ワンピースの方が良いんじゃないですか?Tシャツでも良いですけど、少し浮いてしまうかも。」
こういう時は女性の意見を尊重するべきだろう。
私も遥に同意して、返事をすると流れ弾が飛んできた。
「陽介さんもTシャツとジーンズじゃなくて、落ち着いた格好をしてくださいね。」
自分の服は何も考えていなかったので、慌てて衣装ケースを漁る。
最近あまり着ていなかったが、ポロシャツとチノパンが出てきたので、遥にこれで良いか聞いてみると。
「うーん。まぁ、ギリギリですかねぇ。出来れば半そでのYシャツとかあれば良かったですけど。」
赤点は回避できたが、及第点は貰えなかったようで。
そんな会話をしているうちに、絵里の身支度が整っていく。
バイトでは適当にポニーテールでまとめていたりするが、セミロングの髪はヘアアイロンで真っすぐ伸ばされ、日頃の派手めなメイクとは違い、落ち着いたナチュラルメイクが出来上がる。
普段はギャルや地雷系のようなイメージだったが、気付けば良家のお嬢様のようなテイストになっていて、ただただ感心していた。
「遥、これでいけそう?」
澄ました顔で、絵里が遥に尋ねると。
「バッチリです!綺麗ですよ、絵里。」
それを聞いた絵里はニンマリと笑って、綺麗なお嬢様は少し幼くなっていた。
そういう崩した表情の方が絵里らしいなぁと眺めていると、こちらにも矛先が向く。
「陽介はどう?これで良いと思う?」
正直、女性のファッションの良し悪しは分からないが、こういう姿の絵里も良いと思った。
「うん、綺麗だよ絵里ちゃん。」
私がそう言うと、絵里はますます笑顔になって、身体を左右に回しながら、ワンピースの裾をヒラヒラと振り回す。
「でしょ?でしょ?陽介が思ってるより、私は良い女なんだから。」
そのニヤニヤとした表情だと台無しだなぁなんて思いながらも、喜んでいる姿に釣られて微笑んでしまう。
そして、遥の姿と声を拾うための、スマホとワイヤレスイヤホンを装備して家を出る。
秋も近づく夏の終わりに、人間二人と幽霊でまだ暑い昼過ぎの道を歩いていった。




