うちに住み着いた幽霊が、人気配信者になってチャンネル登録者100万人???:36
あれから2日が経ち、日曜日の深夜。
明日は二人揃って休みなので、絵里は仕事帰りに私の家へ直行していた。
だが、いつもとは少し様子が違って、大きな荷物を持ってきている。
日頃は何か家に置いておきたい物があっても、せいぜいスーパーの買い物袋で収まるくらいなのだが、三泊四日は出きそうな大きなリュックサックを背負って。
お出かけとは言っても旅行に行くわけではなくて、せいぜい電車で片道30分の日帰りなんだが、どこへ行くつもりなのだろうか。
そんなことを考えながら、夜更けに交代でシャワーに入っていると、その一部がさっそく出てきた。
ドライヤー。それにいくつかのスキンケア用品。
そして、トランプとテキーラ?
絵里は肌をコーティングし、髪を乾かすと、狭い部屋の床に胡坐をかいて座った。
「明日は早起きしなくていいし、寝るまで遊ぼうよ陽介。」
明日のお出かけが楽しみで、遠足や修学旅行みたいなノリなのだろうか。
しかし、遠足にも修学旅行にもテキーラは無い。
「トランプとテキーラ?何をするの...?」
嫌な予感しかしなかったので、何をするのか聞いてみると、絵里はニコニコしながら答えた。
「ポーカーに決まってるじゃん。100ドル持ちで、飛んだらテキーラ一杯ね。」
そう言いながら、絵里はリュックサックからポーカーチップも取り出して、カードをシャッフルしだす。
良いのか悪いのか、対象年齢はもう少し上の、大学生の合宿みたいな遊びが出てきた。
やる気満々な絵里を前に、やらないという選択肢はなさそうだったので、ルールを聞いてみる。
「普通のテキサスホールデム?それともなんか別のルール?」
そう聞くと、絵里はさらに笑顔になって答えた。
「一から説明しないといけないかと思ってたけど、ルール知ってるじゃん。親が一巡したら、アンティ倍ね。降りてばっかりだと面白くないし。」
あっという間にどちらかが飛ぶルールだった。
これはずいぶんと飲まされることになりそうだと思ったところで、ひとつ気になったので聞いてみた。
「絵里ちゃんはお酒強いの?飲んでるところ見た事ないけど、テキーラショットとか大丈夫?」
それを聞いた絵里はニヤニヤとしながら返す。
「弱いよ?でも、飲むのは陽介だけだから大丈夫でしょ。」
そうして、よくわからない戦いの火蓋が切って落とされると、遥が応援してくれた。
「ファイトー!陽介さん!絵里!」
こういう時は飲めない幽霊がうらやましい。
不毛な戦いに巻き込まれずに、端で見てれば良いんだから。
さっそくカードが配られていくが、お互いに勝負手のタイミングが合わないのか、ショーダウンまでは行かずにアンティの額だけが上がっていく。
この巡までは凌げても、次のアンティで逆転が難しくなるので、ハンドは最高というわけではなかったが勝負を仕掛ける。
私がレイズの宣言をすると、ノータイムで絵里がコールした。
この勝負が始まってから、ほとんど見ることのなかったリバーが開くと、私の手はワンペアで、それほど強い手ではない。
「チェック。」
私がトントンと床を叩くと、絵里はまたノータイムで返してきた。
「オールイン。」
ここで勝負するべきか?
だが、絵里は自信満々にプッシュしてきていて、こちらのハンドはそんなに強くはない。
勝率は低いが、ここで勝負するよりは次に期待した方が良いかと思い、降りると絵里はニヤっと笑った。
まさかブラフ?
私に飲ませるだけだと豪語していたのは、冗談ではなかったのかもしれない。
その後は手が入らず、私が飛んで1セット目は終わった。
「はーい。飲んで!飲んで!飲んで!そうそう、良い飲みっぷりだねぇ。」
私がショットグラスを飲み干すのを、絵里は手を叩きながら笑っていた。
1セット目は負けてしまったが、私も一時期はやり込んでいたのでこのまま負けるつもりはない。
昔覚えた表を思い出したりしながら、2、3、4、5セットとゲームを続けていった。
しかし、絵里は強かった。
結局、全てのセットを落として、一方的に飲まされて酔いが回ってきていた。
そして、第6セット。
戦略やプレイングを変えた方が良いのか、なんて考えながら絵里のベットを待っていると、ある事に気がついた。
ディスプレイにチラチラと映っている遥が、こっちとあっちを行き来している?
それぞれの手が気になって、覗いているんだろうか。
もしかしたらと思い、小さなベットで勝負を掛けてみた。
こちらの手はそこそこ良い。
絵里がそれに乗ってきたところで、ディスプレイの方をちらりと見てみた。
遥は絵里の方を不安そうに見ている。
そのままベットが膨らまないように、ショーダウンまで進めていくと、絵里の手はブラフでポットはこちらのものになった。
そこからは遥の様子を伺いながら、こちらのハンドが勝ってそうなところを押していくと、絵里が飛んで、6セット目にしてようやく初勝利となった。
「これ、飲むの...?」
絵里がショットグラスを片手にためらっているところに、私は催促した。
「俺はもう5杯飲んだし、絵里ちゃんが決めたルールでしょ?グイッといきなよ。」
絵里は目を閉じて、鼻をつまむとショットグラスを一気に飲み干した。
「おー!やるじゃん!さすがギャンブラーだね。」
私がよくわからない感想を述べていると、絵里は荒い息を吐きながら言った。
「次よ次!負けてあげるのはこれが最後なんだから。」
だが、そのやる気は実らず、続く7、8セットは私が連勝して絵里が飲む量が増えていった。
それも私の実力というよりは、遥を使ったゴースティングが効いているせいなのだが。
少しズルをしているので、悪いなぁとは思いながらも、次々と飲まされるわけにもいかないし、しょうがないと思っていると絵里が3杯目のテキーラを飲み干した。
顔はすでに真っ赤になっていたのだが、絵里は次のゲームを始めようとはせずに固まっていた。
これは限界を超えてしまったのか?
「大丈夫絵里ちゃん?お水持ってこようか?この辺で終わりにする?」
私が声を掛けると、絵里は床を見つめながらコクンと頷いた。
台所でコップに水を注ぎ、絵里に飲ませると続けて尋ねた。
「そろそろ寝ようか。明日、二日酔いで周るのも嫌でしょ?」
それを聞いた絵里は言葉は発さず、首だけでうんうんと返事をする。
飲み終わったコップをシンクに置いて、戻ってくると絵里は両手を私の方へ伸ばしていた。
「だっこ。」
だっこ?
え?いや、それはどうすれば良いんだろうかと、動けずにいると絵里は続けてくる。
「立たせて。ベッド。」
そんなに酔ってるのかと思いつつ、触るところに気を付けながら、脇を抱えてベッドに放り込む。
絵里を先に入れないといけない都合上、普段とは逆の配置になっていた。
絵里をベッドの奥側に押し込み終わると、部屋の電気を落として私もベッドに入る。
絵里はこちらの方を向いていたので、私が背を向けようとすると脇の辺りを掴まれた。
「だっこ。」
そう言うと、絵里は身を寄せてきて、私の身体をガッチリと捕まえる。
私が戸惑っていると、既に限界だったのかすぐに絵里は寝息を立てて、頭をこちらに預けていた。
その様子に少し微笑ましさを感じて、空いた手をその背中に回すと、私も眠りについていった。




