うちに住み着いた幽霊が、人気配信者になってチャンネル登録者100万人???:32
あれから一ヶ月くらいが経って。
遥の配信は順調そのもので、毎回それなりのスターが飛び交いながらフォロワーもじわじわと増えていき、配信アプリ上で1,000人以上。Xでは五桁に届きそうな勢いだった。
しかし、順調に見える裏でちょっとした問題が浮上していた。
「LINEで送ったじゃん。シャンプーとトリートメント買っておいてよ陽介。」
絵里が不満そうに続ける。
「化粧水ももうちょっと良いやつ置いておいてよ。私の肌がガサガサになってもいいの?」
そう、遥と仲良くなった絵里が休みのたびにうちに来るようになり、部屋を侵食していっていた。
「タバコ臭いんだから、消臭剤も置きなよ。壁も拭いてないから黄ばんできてるしさぁ。」
気付けば洗面所には洗顔にメイク落としに化粧水に乳液が並んでいて、部屋には絵里専用の衣装ケースが置かれていた。
いつの間にか充電器やマグカップも増えていて、ヘアアイロンだったり、マスカラも転がっている。
放置されているのを見つけると、空いている絵里用の衣装ケースにそういった小物を詰めておくのだが。
「信じらんない!いっしょに入れてたら匂いが移るでしょ?そんなんだからモテないんだよ陽介はさ。」
かと思えば、コンビニの袋を下げてきて。
「ビール買ってきたよぉ。キリン派だったでしょ?あと、フライドチキンも割引だったから買ってきたよ。」
と、土産を買ってくるし。
「あ、今日は逆。私こっち向くから、陽介もこっち向きね。変なことしたら怒るから。手はお腹くらい。そうそう。」
何故だかベッドに潜り込まれ、体勢も指定されてという、年頃の男性としては拷問のような所業を強要され。
どういう距離感で、どう扱えばいいのか遥に相談してみたものの。
「えっ?絵里が言うのに合わせてたら良いと思いますよ。陽介さんは少し気配りが足りないところもありますし、良い機会なんじゃないでしょうか。」
そんな調子で味方にはなってくれなかった。
そうして、さらに数日が経って、バイト終わりに絵里が直接家に来た日。
だいたい絵里が家に来る日は、先に絵里が配信をして、それが終わったら遥の番と順番に一時間ずつ配信を行っていく。
それぞれコラボ配信という形を取ることで、多少遥のフォロワーが絵里へ流れ、逆に絵里のフォロワーが遥の配信にも来たりと、相乗効果は生まれていた。
もちろん、バズった遥側から絵里の方へ流れる方が多かったが。
そして、絵里の配信が終わったタイミングで、一旦落ち着くと遥用のiPadと絵里のスマホが鳴る。
"リワードのお知らせ"
画面には配信アプリからの通知が表示されていた。
それを見た絵里は、笑顔で言う。
「おっ!きたきた!今月は遥のおかげもあるし、けっこう溜まってるかも。」
そう言いながら、スマホを操作していくと数字が表示された。
"今月のリワード:13,001ポイント"
「やったー!一万超えとかすごいんだけど!今までよくて800ポイントとかだったのに!」
絵里が全身で喜びを表現しながら、近所迷惑になりそうな声を上げていると、遥も「おめでとうございます!」と祝福していた。
控えめに拍手しながら、それを聞いていると絵里が言う。
「遥はもっと多いんじゃない?数えてないけど、私より多いでしょ?」
そう言うと、絵里は私と遥に確認を求めてきた。
「見てみていい?あの勢いだったら、けっこうリワード跳ねてると思うんだよね。」
よく分かっていない私と遥が頷くと、絵里が遥用のiPadを操作していき、リワードの画面を開いていく。
「!?これ...。えっ!?嘘でしょ...!?」
開いた画面を私と遥に見せてくる。
そこに表示されていた数字は。
"今月のリワード:814,533ポイント"
「何?これ何かすごいの?」
私が初心者丸出しの質問を投げかけると、絵里は食い気味に返してきた。
「すごいなんてもんじゃないでしょ!80万だよ、80万!」
その言葉に私も遥もよく分からずに顔を見合わせていると、絵里は続ける。
「1リワード1円だから、配信で80万貰えたってこと!バイトなんてしてる場合じゃないって!」
ようやく意味がわかり、実感の湧かない大金に困惑していると、さらに絵里は言う。
「口座登録してる?設定してないと出金できないよ?」
口座?出金?とりあえずなんとかしないと、と通帳を引っ張り出し、iPadの画面に数字を打ち込んでいく。
その様子を眺めながら、遥がつぶやいた。
「そんなに貰えるんですか?ただ、お話してただけなのに...?」
遥の言葉を聞くと、絵里は何故か私の背中をバシバシと叩きながら、興奮しながら言う。
「そりゃ、万バズ飛ばして、あんだけスター飛んでたらこうなるって!思ってたより一桁多かったけどさ!」
まだ、私が現実に着地できずにいると、芝居がかった調子で絵里は続けて言う。
「別に私のおかげって言うわけじゃないんだけど、ちょっとくらいおすそ分けしてほしいなぁって。」
私はキョトンとしながら遥に良いかと問うと、頷いていたので絵里に言った。
「いろいろ配信ではお世話になったし、それは良いんだけど何が欲しいの?」
私がそう問うと、絵里は悩み込んで動かなくなった。
しばらくすると、絵里は希望を決めたのかゆっくりと口を開く。
「えーっとぉ。デパコスのセットで良いのがあってぇ...。」
よく分からない単語が出てきた。
もう、その前の段階からあまり頭が働いていなかったので、そのまま聞いてみる。
「それはどんなものでいくらくらいするの?」
聞いてみると、スピーカーから遥の声も聞こえてきて。
「デパコス!私も...。その、付けられないですけど...。」
なんだか、女子たちはその価値がわかっているようで。
絵里が口を開くのを待っていると、ポツポツと話しだした。
「そのぉ...。ディオールのやつで、その、えーっと、三万くらいするんですけど...。」
三万。
日頃の生活費から考えたらかなりの大金だが、目の前には80万が落ちている。
それと比較すると、大した金額ではないので、すんなり快諾していた。
「良いよ。それで良いの?」
聞き直すと、絵里は再度悩み込んでから返してきた。
「うん...。うん。ありがとう陽介。遥。」
そして、遥の配信が始まると、絵里は遥をフォローするように会話をしていたが、配信の合間にこちらへ寄ってきて、こっそり聞いてきた。
「いつ行く?たしか、次の月曜日は休み被ってたっけ。」
絵里の休みは把握してなかったが、自分の休みは覚えていたので適当にOKサインを出すと、絵里は配信に戻っていった。
私の休みに予定を埋め込んで。




