うちに住み着いた幽霊が、人気配信者になってチャンネル登録者100万人???:29
ピピピピピピピ......。
アラーム音で目を覚ます。
枕元のスマホに手を伸ばし、それを止めて身体を起こそうとして思い出した。
そういえば、昨日絵里が...と思ったが特に感触は無い。
ゆっくりと起き上がり、部屋の中を見渡したがその姿はなかった。
「おはようございます、陽介さん。」
キョロキョロとしていると、遥が声を掛けてきた。
「おはよう、遥。あれ?絵里ちゃんは?」
そう問いかけたが、遥は返事をしなかった。
何かあったんだろうか?
「遥?」
催促をすると、遥は話し始めた。
「絵里なら、早めに起きて帰って...。ぷっ。帰っていきましたよ。」
やはり何か様子がおかしい。
改めて遥に尋ねた。
「何かあったの?大丈夫?」
そうすると、遥は今度ははっきりと答えた。
「いえ、特に何も。何もなかったですよ。」
いつもは私が起きてからすぐは、寝ていた間に見ていた動画の話だったりと、割と口数が多いのだが、今日はなんだか静かだった。
やはり、何か言いづらいようなことでもあったのだろうか?
モヤモヤとしながら、煙草を一本吸い終わると洗面所へ向かった。
電気を点け、鏡を覗き込むとそこには。
"泊めてくれて ありがと"
左右の頬に分けてメッセージが書き込まれていた。
どうやって書いたのか。口紅のようなもので書かれた赤い文字が、少し滲んでいる。
子供みたいないたずらをしやがって、と思いながら顔を洗っていったが、頬がどんどん赤くなるだけでほとんど取れない。
一旦諦めて部屋へ戻る。
「これを黙ってたから、なんか口数少なかったの?」
それを聞くと遥は笑って答えた。
「ふふっ。うっかり言ってしまいそうで、我慢してました。メッセージは見ていただけたんですね。」
まったく、遥は嘘は苦手だろうとは思っていたが、そういう時は静かになるのか。
次にそういうことがあれば、気を付けておこう。
ただ、この顔だと外にも出られないので、遥に相談してみた。
「これ、取れないんだけど、どうしたらいいの?」
そうすると、遥が助け舟を出してくれた。
「絵里がメイク落としと洗顔の残りを置いていったので、取れなかったらそれを使ってって言ってました。」
それを聞いて洗面所へ戻ると、封の開いていない小さい袋がいくつか残っていた。
使い方がわからないので、遥に聞きながら洗っていくと、なんとか顔は元の色へと戻っていった。
そうして、また部屋へ戻っていくと、何やら声が聞こえる。
「Hey Siri! 絵里にメッセージを送って。」
"はい。内容をお願いします。"
「ドッキリ大成功。陽介さんも喜んでたよ。」
"ドッキリ大成功。陽介さんも喜んでたよ。 この内容でよろしいでしょうか?"
「大丈夫だよ、Siri。送信!」
"メッセージを送信しました。"
いや、喜んではないよ?
しかし、いつの間に連絡先を交換していたんだろう。
私は絵里の連絡先は知らないんだが、寝ている間に何があったのか。
そして、今日もバイトだったので、夕方になるといつものように家を出た。
牛丼を食べて、駅前の喫煙所で煙草を吸って、普段どおり職場へと向かっていく。
店に着くと店長だけがいて、開店の準備をしていると先輩も出勤してきた。
開店時間直前になると、また裏口のドアが開き絵里が入ってくる。
「お疲れ様でーす。」
仕事モードなのか、テンションの低い挨拶をすると、ロッカーの方へ進んでいく。
その途中で、こちらの姿に気付くとニヤニヤしながら小さく手を振ってきた。
営業が始まると、忙しくバタバタとしながら時間が過ぎていった。
ふと、仕事の合間に先輩が小声で聞いてくる。
「何?どうした?絵里ちゃんと何かあった?」
絵里が出勤してきた時の様子を見ていたのか、気になっていたようで。
「何かあったと言えばあったけど、何もなかったと言えば何もなかったし。」
説明しづらかったので、濁して答えると余計に興味を惹いてしまった。
「今日、バイト終わったら飲み行くぞ。全部吐くまで帰さないからな。」
閉店の時間になると、私たちが片付けをしている横で、絵里はいつものように先に帰っていく。
ただ、その帰り際に私に視線だけ投げて。
ドアが閉まって、階段を降りていく音が聞こえると脇を肘で突かれた。
「ほんとに何もなかったのか?後でみっちり聞くけど。」
先輩の好奇の目に居心地が悪さを感じながら片付けを終えると、遅い時間でもやっている居酒屋へと歩いていった。




