うちに住み着いた幽霊が、人気配信者になってチャンネル登録者100万人???:27
冷房が効き始めてきた部屋で、絵里は浴室へと歩いていくが途中で止まる。
「服乾くまで、何か貸してください。」
そう言いながら、片手を出しつつ戻ってきた。
何かあったかなとプラスチックの衣装ケースを開けるが、もちろん女性用の服なんて入ってはいない。
どうせ、寝間着のようなものだし、と適当に白いTシャツとジャージを引っ張り出して差し出したが。
「え?これ透けるじゃないですか。普通に嫌なんですけど。えーっと、これで良いか。」
絵里は私が渡した白いTシャツを放り捨てると、黒いTシャツを摘まんで、また浴室へと歩いていった。
そして、浴室のドアノブを掴むと。
「覗かないでくださいね。フリじゃなくて、ガチで。」
絵里が浴室へと消えて行ったのを見送ると、置いたままにしていた弁当をレンジに入れてスイッチを押す。
それが温まるのを待っていると、遥が申し訳なさそうに聞いてきた。
「あのぉ...。清水さんとはどういう関係なんですか?」
その質問はなんとも答えにくかった。
だが、期待されているような関係でもないので、この状況に至るまでの経緯を話していく。
「さっき簡単に紹介したけど、バイト先の同僚。別に仲が良いわけでもなくて、プライベートで遊んだこともない。」
遥が頷きながら聞いているので、続きを話す。
「あまり接点もなかったんだけど、今日の帰りに絵里ちゃんが配信してて、それが甘音さんだったってのがわかり、話し込んでたら終電が無くなって、無理やり押しかけられたというか...。」
そんな感じで説明していくと。
「えっ!?清水さんが甘音さんなんですか!?すごく気さくな方だとは思ったのですが、実際にお会いできるだなんて。」
遥の気さくという評価には同意しかねるが、配信をしている感じには近いかもしれない。
日頃のバイト先で見ている姿の方が、猫を被っているんだろう。
温め終わった弁当を食べながら、今までの絵里のバイト先での様子などを話していくと、遥はうんうんと何かに共感していた。
「わかります。私も出先だと、身構えてしまって大人しくなりますし。」
どちらかというと、遥はあまり裏表は無い方だろう。
たまに無邪気なところが出ることはあるが、こうやって話しているのも丁寧でその姿勢は変わらないし。
遥の自己認識のズレに、笑ったりしながら話していると、浴室から絵里が出てきた。
ふぅと息を吐きながら、濡れた髪をワシワシとタオルで拭きながらこちらへ近づいて来る。
いつもは部屋の中には無いシャンプーの香りに、少しドキドキしていると、絵里は言う。
「小柳さんもシャワー浴びたら?汗臭いよ。」
棘の無い言い方はできないのかと苛立ったが、汗臭いのはそうなので渋々私も浴室へと向かって行った。
洗面所には絵里が使ったメイク落としの残骸や、脱いだ服が吊るされていて。
そこだけ見れば、何かに期待してしまう状況なのだが、いろいろと問題があって複雑な気持ちでシャワーを浴びていた。
頭を洗っていると、部屋の方からはなにやら楽しそうな声が聞こえてくる。
よく聞こえないが、遥と絵里が何か話しているんだろうか?
浴室を出て、部屋に戻ると二人は爆笑しながら話していた。
「唐揚げって、皿が出てくるんだけど、キャベツとレモンしか乗ってないのよ。唐揚げはどこにいったのよって。」
「それは面白いですね。私も二度見してしまうかもしれません。」
どうやら、私の昔の失敗を弄って楽しんでいたらしい。
だが、あれはしょうがない。山ほど揚げ物のオーダーが積まれてて、フライヤーが間に合ってなかったし。
私が戻ってくるのに気付くと、二人は私に声を掛けた。
「おかえり~。」
「おかえりなさい、陽介さん。」
それぞれ一言こちらに告げると、また二人の話に戻っていった。
自分の部屋なのに何故か蚊帳の外になっていて、なんとなくスマホを弄っていると。
「そういえば、今日は配信しないの?私はスキップチケット使ったけど、遥はやらないと連続配信切れちゃうでしょ?」
「そうですね。いつもは配信してる時間ですし、一時間だけ配信しようかな。」
「そうそう、やった方が良いって。そうだ、コラボ配信にしちゃおうか?お泊りイベントみたいな。小柳さん家だけど(笑)」
「いいですね!絵里がいっしょにいてくれたら心強いです!」
そうして、初のコラボ配信が始まろうとしていた。




