うちに住み着いた幽霊が、人気配信者になってチャンネル登録者100万人???:2
PCのファンだけが静かに鳴る部屋に、スピーカーから女の声が響く。
ディスプレイの中には、何もないはずの空間にそれが映っている。
目の前の信じられない出来事に、声も出せずに固まっていると、その幽霊は画面から少し離れ、俯いて肩を落とした。
「あのー・・・。声、聞こえているん、ですよね・・・?」
さっきよりは小さかったが、またスピーカーから声が流れてくる。
何故か、幽霊は落ち込んでいるようで、先輩と私は焦ってフォローする。
「聞こえた!聞こえたよ、バッチリ。なぁ、陽介も聞こえたよな?」
「え?あ、うん。聞こえた聞こえた。大丈夫大丈夫。」
何が大丈夫なのかわからないが、とりあえず大丈夫という言葉しか出てこなかった。
必死のフォローが功を奏したのか、幽霊は顔を上げると、髪に半分隠れた口角がゆっくりと上を向いていく。
喜んでくれたのか?
しかし、ディスプレイに映る絵面は、ジャンプスケアの一秒前のような様相で、こちらの表情はむしろ強張っていた。
ビクビクしながら待っていると、幽霊はまた口を開いた。
「あぁ、良かったぁ。私、ちゃんとここにいるんですよね?」
一瞬沈黙が流れるが、ディスプレイ越しに先輩と目が合った。
とりあえず、何か返事をしないと。
頭の中は真っ白だったが、言葉は口から出てきてくれた。
「いるいる。ちゃんと見えてるし、聞こえてるよ。ねぇ、先輩。」
振られると思っていなかったのか、先輩はわずかにビクッと身体を動かし、ゆっくりと返した。
「う、うん。見えてる、聞こえてる。えーっと・・・あ、大丈夫!」
この状況はどうすれば終わるのだろうか。
何かを切り出すにしても、何を言えば良いのかわからず、手を上げかけては降ろしたりを繰り返していると、ディスプレイの向こうからわざとらしい声が聞こえてきた。
「あっ!もう、こんな時間か。陽介は明日休みだろ?俺は、明日も仕事だからそろそろ寝るわ。」
幽霊が居るのはこちらだからか、先輩は逃げようとしている。
置いていくなと呼び止めようとしたが、
「じゃあ、また明後日な。おつかれ」
そう言い終わるのが早いか、ウィンドウが消えるのが早いか。
先輩はディスプレイの中からいなくなり、残った画面の中には大きくなったセルフビューに幽霊だけが映っている。
肉眼には見えないが、目と鼻の先には幽霊がいる。
何から話した方が良いかわからなかったが、いつの間にか自分の部屋だというのに、立ちっぱなしになっていたので恐る恐る声を掛けた。
「えーっと、椅子に座ってもいいかな?それでもうちょっと、そっちにズレてくれると嬉しいな。」
幽霊はディスプレイとこちらの方を見ると、肩をすくめてスーっと動いた。
「ごめんなさい。」
別に責めているわけではないのだが、また少し落ち込んでしまったようで。
椅子に座り、すっかり温くなってしまった缶チューハイで唇を湿らせると、震える手で煙草を一本取り出す。
なんとかそれに火を付けると、ひと口吸って、吐いて、灰皿の縁に置いた。
「突然の事で、ビックリしてるんだけど、君は幽霊なのかな?」
直接は見えないので、隣にいるはずなのにディスプレイ越しに問いかける。
それを聞いた幽霊は、俯いて、黙り込んでしまった。
何秒経ったか。
私は、灰皿に置いた煙草を手に取ると、またひと口ゆっくりと吸い込む。
チリチリと煙草の葉が赤く燃える。
灰皿に置くと、火種の先の灰が、力なくポロリと落ちていった。
煙を吐き出すと、もう一度口に運ぼうとしたところで、幽霊が語り出す。
「はい。私は・・・死んでいるんだと、思います。」
その声は、今までよりも重く、震えているようだった。
幽霊はゆっくりと続けた。
「私はここにいます。陽介さんの声は聞こえるし、姿も見える。」
「でも。」
「他の人には、私の声は聞こえないし、見えない。」
「私はここにいるのに!叫んでも、目の前に行っても届かない。」
「だけど。」
幽霊が顔を上げる。
黒く、長い髪がなびいて、隠れていた顔が見えた。
泣いているような、笑っているような。
青白く塗られた白い肌に、黒い瞳が輝く。
「今は声が届いて、見てもらえる。ちゃんとここにいるんだって。」
「死んでるかもしれない。幽霊かもしれない。でも、ちゃんとここにあるんだって。」




