うちに住み着いた幽霊が、人気配信者になってチャンネル登録者100万人???:16
翌日。
いつものようにバイトに行くと、今日は先輩は休みで、店長がホールに出ていた。
そんなに忙しくはないので、あまりキッチンから出なくていいのだが、それでも時折ホールに呼ばれる時がある。
ハイボールやカクテルを両手に持って、テーブルの合間を進んでいくと、大学生のグループなのか騒がしい声が聞こえてくる。
「この前言ってた推しって誰だっけ?」
「ナギちゃんだよ、ナギちゃん。ライブチケット当たったから、しばらくもやし生活だよ(笑)」
「お前、貢ぎすぎだろ(笑)この前、赤スパ投げたとか言ってなかったっけ?」
「誕生日は投げるだろ。そういや、お前は誰推しだっけ?」
「ツバキ様。寝坊とかしないし、そこら辺の社不Vtuberとは違うから。」
「で、新衣装の時にいくら投げたんだよ。」
「3万。新衣装とか、歌ってみたとか金掛かるからしょうがないだろ。」
「人のこと言えないだろ(笑)」
自分自身が配信をしているわけではないが、こうやって人が話しているのを聞くと、こういう人たちが見てるんだなぁと実感する。
そこからしばらくは忙しくしていたが、終電も近くなってくると、客も疎らになってきて暇な時間もできてきた。
空いたテーブルの片付けも落ちついてくると、キッチン前に店長が立っていたので、ふと聞いてみた。
「店長はライブ配信とか、Vtuberとかって見ます?」
そう聞くと、店長はうーんと考えた後、ぼそぼそと答えた。
「流行ってるのは知ってるけど、見たことはないねぇ。釣りとか料理の動画しか見ないし、そういう系統はあんまり得意じゃないなぁ。」
釣りが好きで、休みのたびにあちこちに釣りに行ってるとは聞いていたので、イメージ通りといった感じで。
40歳を過ぎて、日頃の激務の中、休みのたびに遠出するバイタリティはさすがブラック企業戦士なのかもしれない。
改めて、店長に尊敬の念を抱いていると、今度は絵里ちゃんが暇そうに立っていた。
また、同じように声を掛けてみた。
「絵里ちゃんはVtuberとかって見てる?あと、ゲーム実況とかライブ配信とか。」
そう聞いてみると、日頃は落ち着いてクールに返してくるのだが、なんだか様子がおかしい。
「えっ?Vtuberですか?えっと、見たことはあるけど、よく知らないです。」
目も合わせず、テーブルチェックしないと、と言い残してそそくさとどこかへ行ってしまった。
あまりそういう方面は好きではないのだろうか?
絵里ちゃんが店に来てから半年以上経つが、そういえば趣味の話とかはしたことがなかった気がする。
毎日のように顔を合わせているのに、どんな人なのかよく分からない。
意識していなかったが、ちゃんとコミュニケーションを取れていなかったのだと、少し寂しくなってしまった。
あとは、キッチンに田辺さんが洗い物を終えて、だらりとしていた。
この人は・・・。別に聞かなくてもいいか。
ギャンブル以外の話を聞いたことがないし、参考にならなさそうだし。
それを横目に、細かい片付けや明日の営業の準備を、先に行っていく。
閉店前には店の中は空になり、普段は閉店後に行う作業もほとんど既に終わっていた。
いくらか残業することが多いのだが、めずらしくぴったり定時で終わり、タイムカードを切ると絵里ちゃんといっしょに雑居ビルの階段を降りていった。
通りまで出ると、不意に絵里ちゃんが声を掛けてきた。
「小柳さん。」
なんだろうと振り向くと、絵里ちゃんは続けた。
「小柳さんは、配信とか見てるんですか?」
苦手なのかと思っていたが、そういうわけではないのだろうか?
隠すようなことでもないので、最近のことを話す。
「先輩に勧められて、少し見るようになって、最近はスマホアプリの配信とかも見てるよ。」
私がそう言うと、絵里ちゃんは驚いたようにビクッとして、視線を外す。
「!?・・・そうなんですね。お疲れさまです、また明日。」
そう言い残すと、絵里ちゃんはそそくさと駅の方へと消えていった。




