うちに住み着いた幽霊が、人気配信者になってチャンネル登録者100万人???:12
バイト帰りにコンビニに寄って、適当に食べ物やお酒を買って帰る。
いつもは2本しか買わないのだが、先輩は遅れると言っていたし、1本多くカゴに入れツマミも買って。
家へと歩いていくのだが、その歩幅はわずかに広がっていた。
早く帰りたいのだろうか、歩くペースは上がっていく。
歩いていると、少し汗ばんできてだんだん楽しくなってきていた。
急いで家に帰るだなんて、小学生以来かも知れない。
そう思うと、余計に笑えてきて、誰もいない夜道で一人微笑んでいた。
家に着くと、鍵を開け戸を開く。
「ただいま~。」
部屋の奥からは返事は無い。
靴を脱ぎ、部屋の中へと入っていくと、なにやらすすり泣く声が聞こえてくる。
暗い部屋の中に、PCのディスプレイだけが煌々と光を放っていて。
恐る恐る、部屋の電気のスイッチを入れ、PCの方へ向かって行く。
「遥?」
声を掛けながら、ディスプレイを覗き込むと俯きながら目尻に手を当て、泣いている遥の姿が映っていた。
どうしたのだろうか?何かあったのか?
様子を尋ねようと思っていると、こちらに気が付いたのか遥が口を開く。
「あ゛ぁ、ようずげさん、おがえりなさいぃ。ふえっ、ぐすっ...。」
大丈夫?と声を掛けながら、流れている動画を見ると、南極観測隊の解説動画が流れていた。
「タロとジロがぁ...。大変だったけど、ちゃんと生きて戻れたんですね...。」
遥が涙を拭いながら、鼻を啜っている。
その姿を見て、少し胸が痛くなった。
感情をあらわにする遥の姿はいくつか見てきたが、私はどうなのだろうか。
遥と違って、私はまだ生きているのに。
そうだね、とよく分からない返事をして、買ってきたものを冷蔵庫へ押し込むと、汗を流しにシャワーへ逃げていた。
蛇口を捻ると、冷たい水が噴き出す。
しばらくすると、水の温度は上がってお湯になり、身体に張り付いた汗を流していく。
髪や身体をサッと洗うと、赤い蛇口を閉めた。
浴室のドアノブを回そうとして、ふと、止まってしまう。
ドアノブから手を離すと、青い蛇口を思いっきり開いた。
夏でも肌寒い、冷たい水を全身に浴びる。
暑い、冷たい、熱い、寒い。
こんな事をしても、意味が無いのはわかっていても、自分の身体の形を確かめたかったのかもしれない。
浴室から出ると、冷蔵庫から缶を1本取り出し、PC前のチェアに腰かけた。
画面を見ると、また遥が泣き出しそうな動画が流れていたので、適当に違う動画に変え缶のプルタブを開ける。
缶がプシュっと、炭酸の吹き出す音を立てると、遥が話しかけてきた。
「陽介さん、お疲れ様です。今日のお仕事はどうでした?」
そう問われると、急に現実に戻ってきたような感じがして、何故か嬉しくなった。
「今日も大変だったよ。キッチンとホールを行ったり来たりしてね。」
簡単にどんな感じだったのかを伝えると、遥は唸っていた。
「居酒屋って大変なんですね。やったことはないけど、私には務まらないかもしれませんね。」
そう言われると、報われたような気がしつつも、遥の物言いが少し気になった。
「あれ?遥はバイトとかしたことないの?」
問いかけると、遥は頭を掻きながら恥ずかしそうに答えていた。
「私は家が厳しくて、アルバイトとかはさせてもらえなくて。まぁ、やってみたかっただけで、そんな余裕もなかったんですけど。」
そんな話をしていると、PCから通知音が鳴る。
デスクトップを片付けると、Discordのチャットルームに先輩が入っていた。
急いで入室すると、先輩の姿が映っている。
「お待たせ陽介。おっ!幽霊ちゃんもいるのね。」
私が簡単に挨拶を返していると、遥が真面目に挨拶をしていた。
「先日は驚かせてしまって申し訳ございませんでした。菅 遥と申します。今後ともよろしくお願いいたします。」
それを聞いた先輩は爆笑していた。
「そんな気を遣わなくていいよ。陽介だって、先輩って言いながら俺の扱いは雑なんだから。」
遥はどう接していいのか、私と先輩の方をキョロキョロと見ていると、先輩が切り出してきた。
「で、本題なんだけど、イラストってどんな感じのが要るんだ?」
「そうですねぇ。画面共有で出すんで、ちょっと待っててもらえます?」
私はそう答えると、いくつかのブラウザの画面を見せていった。
あと、昨日調べていた、スマホのバーチャルライブの仕組みとかを伝えていく。
「OK。だいたい分かった。じゃあ、用意してたのを見てくれるか?」
先輩はそう言うと、ライブのポスターやチケットの画像を出してきた。
いくつかは幾何学模様やデザインだけだったが、中には女性のイラストが描かれていたものもある。
「これ、俺が作ってるんだよ。専業の人には敵わないだろうけど、このくらいだったら作ってやれるぜ?」
想像以上だった。
配信で多いようなアニメ調とは違って、スタイリッシュな感じではあったが、プロが作ったものと言われても全くわからないくらいの出来で。
「もちろん、配信用に作るっていうんだったら、テイストは寄せられるよ。」
先輩は自慢げにそう言うと、それでと付け加える。
「いくら陽介の頼みとはいえ、タダでとはいかないから、酒の一杯でも奢ってもらうけどな。」
願ってもない申し出だった。
イラストの依頼をすれば、数万は掛かると思っていたが、それが酒を奢るくらいで済むなら安いもので。
先輩のことだから、そんな高いところには連れていかれないだろうし。
お願いしますと返事をしようとすると、遥がそれを遮って答えた。
「先輩、陽介さん。お願いします。今はすぐに返せないかもしれないけど、頑張って恩に報えるよう頑張りますので、私のわがままを聞いてください。」
それを聞いた先輩は、茶化していた態度を改めて、ゆっくりと答えた。
「これは、俺がやりたいのもあるんだ。遥ちゃんが配信するのを、俺も見てみたい。」
一拍置いて、続ける。
「陽介もだよな?」
その問いに頷き、私も思いを伝える。
「もちろん。遥がやりたいと思ったのはきっかけだったかもしれない。でも、これは俺がやりたいことだよ。だから、遥は頭を下げなくてもいいんだよ。」
私と先輩は微笑みながら、画面越しに目を合わせる。
遥は両手の拳を握りしめていた。
「私、頑張ります。今度こそ。期待に応えられるように。」




