うちに住み着いた幽霊が、人気配信者になってチャンネル登録者100万人???:11
家を出て、駅前のバイト先まで歩いていっていると、コンビニに貼ってあるポスターに目が止まる。
有名なVtuberのコラボ商品の告知だった。
何年か前までは考えられなかったが、最近は増えてきていて、お菓子のラベルにたまに付いていたり。
興味がなかったので、気にしていなかったが、こうして見てみるとずいぶん生活に近いところにも浸透していた。
知らない人の目にもつく。有名になるとはこういうことなのだろうか。
駅前まで着くと、バイト先の居酒屋の入った、雑居ビルの階段を上がっていく。
早くバイト終わらないかな。
最近はそんな事を考えることも減っていたが、今は早く家に帰りたかった。
家にというか、遥の居る家に、なのかもしれないが。
階段を上がり、ガチャリと裏口のドアを開けると、田辺さんが居た。
「おはよう、小柳君。元気そうだね、何か良いことあった?」
良いことといえば、良いことなのかもしれないが、幽霊がうちに居ると言っても信じてもらえないだろうと、適当な言い訳を考えていると田辺さんが続ける。
「俺は良いことなかったけどね。自信のあるレースで、第一ターンまでは完璧。そのまま決まれば万舟だったのに、軸が転覆して台無しだよ。」
ハハッと自嘲気味に遠い目をしながらそう語る田辺さんは、日頃よりも頬がこけてゲッソリとしているようで。
これはまた食費を削っているんだろう。まだ給料日まで遠いのに。
料理の仕込みや、卓上の紙や調味料を補充したり。
開店の準備が一通り終わると、仕事前の一服をしようと裏口を開ける。
火を付けようとしたところで、足音が聞こえ、浜野先輩が上がってきた。
「おっ!おはよう陽介。」
「おはようございます、先輩。」
簡単に挨拶を交わすと、先輩が聞いてきた。
「そういえば、幽霊はどうなった?まだお前の家に居るの?」
「まだ居ますよ。」
そう答えて、昨日、一昨日のことを簡単に説明する。
そして、配信を始めようとしていることを告げ、
「イラストが要るんですよ。簡単な立ち絵一枚で良いんですけど、先輩の知り合いでイラストレーターの人とかいませんか?」
私がそう言うと、先輩は笑いながら答える。
「めっちゃ面白そうじゃん。バイト終わったらDiscordな。他に用事はないだろ?」
そこから、また店の準備に戻り、開店の時間が近づいて来ると、もう一人出勤してきた。
「・・・おはようございまーす。」
ダウナーな女性の声が聞こえてくる。絵里ちゃんだ。
顔はかわいいんだが、接客は塩対応で、しばしば急に休むのが玉に瑕。
稀にある、仕事後の飲み会にも全く顔を出さないので、みんな少し距離を感じていた。
とはいえ、仕事自体はテキパキと真面目にこなしてくれるし、バイトだからそんなものなんだろう。
営業が始まると、今日は予約も多く、店の中はドタバタとしていた。
私のメインはキッチンなのだが、あわただしくホールとキッチンを往復していると、次々に声が飛ぶ。
「陽介ー!ファーストドリンクがいくつか出てない。ハイボール3つ急ぎで!」
「小柳さーん!刺し盛り上がってます?6番テーブルがまだ来てないって。」
店長が居るともう少しマシなのだが、残念ながら今日は休みで余計に忙しい。
田辺さんは調理は上手なのだが、ホールは苦手で全く外に出られないし。
そうして時間は過ぎていくのだが、何か違和感を感じていた。
この声、最近どこかで聞いたような。絵里ちゃんの声?何かに似ているんだろうか。
そして、最後のお客様を送り出すと、絵里ちゃんはそそくさと帰っていった。
残った男三人で、片付けをしていると、先輩が近寄ってきてこっそりと囁いてきた。
「洗い物とか終わったら、後は田辺さんに押し付けて帰っちゃおうぜ。どうせ、あの人は俺たち関係なく一人でボチボチ仕事やってるし。」
まぁ、営業後の燃え尽きている田辺さんのペースに合わせてやっていたら、帰るのは遅くなるし、残業しないといけない理由もないし。
私は静かに頷いて、手早く残りの片付けを進めて行く。
大きいところを片付け終わると、先輩と揃って挨拶して、店を後にした。
「おつかれさま~。また、明日ね~。」
田辺さんの疲れた声を背中に受けながら、階段を降りていき、表に出ると先輩が言った。
「ちょっと準備するものがあるから、Discord入るのは遅めで良い。風呂入ったり、飯食ったりして待っててくれ。」
なんだろう?よくわからないが、先輩のことだから何か見せたいものでもあるんだろうか?
わかりました、と返事をするとお互い手を振って、深夜の街中から帰路に就いた。




