表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
[愛の形、孤独の形]  作者: 情緒不安定
『廻る命と帰る場所』
28/31

#27『もう一つの死の匂い』

オブシディアンが塀の外を進んでいると、倒れている人を見かけた。


『......そういえば、人に着いた呪いは取った事無かったな。』


その人もやはり病に侵されており、試しにオブシディアンが細い針を形成し、文様に軽く当てると、それはオブシディアンの右目に移り、倒れていた人は目を覚ました。


「......?寝てたの?私、こんな所で......」


オブシディアンはその人に見つかる前に、その場を後にした。



〈金魚寺〉



オブシディアンが寺院に戻ると、瑪瑙(メノウ)は脇殿の入口の前にある階段に座り、春巻きを食べていた。


(本当に住職なんだよな?)


「ん?」


瑪瑙はオブシディアンに気付くと、春巻きを平らげ、オブシディアンに歩み寄る。


「驚いた。本当に買って来るなんて。店の店員、結構難しい人なんだけどね。」


『これでいいのか?』


オブシディアンは絵画の入った袋を手渡す。瑪瑙は中の絵画を見ると、満足そうな表情を浮かべた。


「これは凄い!海蓝(ハイラン)は今回はこう来たか!!やっぱり彼の絵は見てて飽きないな!」


『......』


(そういえば、何故この海蓝という人のサインを、黑珍珠が持っていたんだ?)


「おっと、失礼。とりあえず、君は信用に値する人間だと分かった。」


『俺が金を持ち逃げしていたらどうしてたんだ?』


「なに、その時は紙幣に紛れさせた毒がそいつを殺していたまでよ。あの店の店員とはグルなんだ。毒を消す方法は店員と私しか知らない。まぁ私に寄り縋っても、そいつは私を騙し、信用を失ったのだから、優しく弔ってあげるだけさ。」


『......』


「さて、患者の治療だったね。着いてきなさい。善は急げだ。」


瑪瑙とオブシディアンは主殿に足を踏み入れた。



〈金魚寺、主殿、大仏前〉



「いやー、生憎広々と使えるのがここしか無くってね。神頼みってやつさ。」


主殿の奥に鎮座する大仏は、眠っている患者を優しく見守っており、その表情は悲しくも見えた。


『.....あの大仏は?』


「あぁ、神子を模したものだよ。確か名前は...竜胆と言ったかな。」


(抵抗むなしく、竜胆は铃兰の前で波に飲まれ、铃兰は竜胆が死ぬ間際に突き飛ばしたことによって助かりました。)


オブシディアンは少しその大仏と目を合わせた後、患者の手当てを始めた。


『......』


瑪瑙に手元を見られないように、指先に針を形成し、患者の文様に当てる。それは見る見る内にオブシディアンの針を伝い、オブシディアンの右目に移った。


「これは...!?」


『ここに居るので全員か?』


「あぁ、頼む。」


『分かった。』


オブシディアンは次々と患者の呪いを払っていく。呪いが解けた患者達は、次々目を覚まして行った。

やがて全員の呪いを自身に移すと、右目を髪に隠し、瑪瑙の方に戻った。


「一体どうやったんだい?こんなに一瞬で治してしまうなんて。」


『秘密だ。』


「まぁ、それだけの技術があれば、儲け放題だろうからね。礼はどうしたら良い?」


『必要ない。そうだ、これはさっきの絵画のお釣りだ。』


オブシディアンは懐から紙幣を渡すと、寺院を後にした。


「安く済んだにしては...多すぎないか?贋作と言う訳でもない様だし...毒を塗った紙幣は店員の方か......彼奴、本当に何者だ?」



〈黑云母〉



オブシディアンが道場に戻ると、翠が門下生を入り口前の広場に集めていた。


「主ら、休みの間は何しておったんじゃ?」


「えっと......私は...読書を」

「俺は例の流行り病で、金魚寺で世話になってる家族のお見舞いに行っていた。」

「僕はずっと絵を描いてた」


「うむうむ、世間が病んでおると精神まで病んでしまうからの。皆大丈夫そうで何よりじゃ。じゃが、いつまでも休日気分じゃ駄目じゃぞ。今日からびっしり稽古じゃ!」


「「よろしくお願いします!!」」


「元気があってよろしい。それじゃあ早速道具の準備を手伝っとくれ!」


「「はい!!」」


門下生たちは建物に吸い込まれて行き、中から活気あふれる声が聞こえ始めた。


「ん?おぉ、確か、オブシディアンじゃったな。患者の具合はどうじゃ?」


『全員治して来た。』


「もう全員治ったのか!?神子が自分に病を映したのも刹那の出来事じゃったが。お主、もしや......」


『俺は神子じゃないし化け物でもない。やるべきことをやりに来ただけだ。』


「そうか。秘境の外の技術も侮れんって所かの。」


『......何故俺が外から来たと?』


「前にお前と似た格好の奴を見ての。ここいらじゃ見ない恰好じゃし、そいつが島の反対側から来たとも言っておったわい。」


『......』


「とりあえず、そうなれば後は黑珍珠の薬だけじゃの。彼奴なら今厨房で色々やっとるから、様子を見て来とくれ。」


『あぁ。』


オブシディアンはそういうと、翠に背を向け道場の入口に向かう。


「時に、」


『......?』


「お主、嘘をついておるな?」


『......』



〈黑云母、厨房〉



厨房からは香辛料と山菜の匂いが漂う。黑珍珠は帰りに買った梨を摘まみながら、食材同士の組み合わせを色々試していた。


「一旦一通り茹でてみたけど...出汁とか要るかな?あの本に書いてたのだと......そうだ、これと―――」


厨房から漂う香ばしい匂いに誘われて、休憩中の門下生が入口から黑珍珠を眺める。


「おなかすいてる?悪いけど今は料理じゃなくって薬作っててさ。どうしても何か食べたいなら作り置きしてるそこのお菓子かごに入れて持ってっていいよ」


「...!」


こちらを向くまでもなくに居るのがバレた門下生は、黑珍珠に一礼すると、袋詰めのお菓子を1掴み分木の器に入れ、他の仲間たちの方へ持って行った。


「えっと...どこまでやったっけ。そうだ、この山菜は葉に毒があるから......そうだ、この毒使えないかな。確かあの本に―――ん?」


黑珍珠は振り返る。門下生と入れ替わりで来たのか、オブシディアンが音も無く入口に立っていた。


「あ、おかえり。終わった?」


『あぁ。そっちはどうだ?』


「今の所は順調だよ。ただまだまだ時間かかるから、じいちゃんの方で時間潰しといて」


『...分かった。』


オブシディアンはその場を去ろうとしたが、背を向ける前にもう一度黑珍珠の方を向いた。


『......』


「...?」


『黙ってて悪かった。』


「あぁ、もしかしてじいちゃんから聞いた?」


『...まぁな。』



〈数分前、黑云母入口〉



『嘘?』


「その嘘は、ワシらには害をなすものではなく、お主の敵意を現す事ではない。ただ、その嘘はお主自身を苦しめる事になる。」


『......』


「単刀直入に聞くぞ。お主は、病を治す事が出来んのじゃろう?」


『......少なくとも、皆の病は治る。人も、神子も。』


「じゃが、それは消滅ではない。お主はそれらを全部背負って、何がしたいんじゃ?」


『...俺は、死ぬ為に生まれて来た。俺が死ねば、皆が助かる。これは確固たる事実で、お前達も助かる。俺は生に執着が無い。ただ少し人に親切にするのが好きなだけの、からっぽな人間だ。』


オブシディアンは正直に全てを話す。そうしなくとも、彼らは真実に辿り着いたのだろう。


「お主が死ぬ事で、悲しむ人間はおらんのか?」


『......』


(いつでもここに帰って来い。)


『さぁな。』


「...まぁ、お主の人生に口出しする権利はワシには無い。じゃが、もし目的地を決めたのなら、心残りが無いようにの。」


『......どうして、俺が死のうとしてるのが分かった?』


「ただの勘じゃよ。それと関係あるかは知らんが、黑珍珠が変な夢を見たと言っておっての。少し前にそれを絵画にして、街に出しておった。夢うつつな世界の中で、1頭と1人が、悲惨な結末を望みながら戦う。そんな絵じゃ。」


『......』


「すまんの、引き留めて。」


『...気にするな。』


オブシディアンは道場の中に消えて行った。



「まぁ、出来れば知らなくていい事は知らないままで居たかったんだけど、妙に当たるんだよね。私の変な夢。」


『......』


「でも、私もおーちゃんの人生に口出しする権利はないし、おーちゃんの選んだ道を否定する事は無い。じいちゃんから既に聞いたかもしれないけど。未練の残らないようにね。」


「...あぁ。」


オブシディアンは頷くと、今度こそ裏の格闘場へ向かった。


  To be continued.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ