#26『予知夢』
〈黄水晶?北部、金魚寺〉
オブシディアンは橋を渡ると、真っ直ぐ北へ向かい、寺院があるという場所へ向かった。道中、人込みで前に進めなかった為、水溜まりに潜って進むことにした。
寺院に着くと、主殿の前にある池に向かって、パンを細かくちぎって投げてる人が居た。
「......ん?おや、患者でない方は久方ぶりに見ましたよ。」
オブシディアンはその人と目が合い、池に近付く。
「何か御用ですか?」
『患者を治しに来た。』
「ふむ......すまない、間に合っているよ。他には何か?」
どうやら怪しまれているようだ。
『.......黑云母から来た。』
「あぁ、そうだったのか。すまないね。ここいらはどうも治安が悪く、寺院に押し売りに来る不届き者がたまに居るんだよ。だからこうして追い払っているんだけどね。」
オブシディアンは目を合わせようとしたが、やはり初対面の人と話すのは苦手だ。目の前の男性はオブシディアンの視線の先を見ると、オブシディアンは池を泳ぎ男性からパンの切れ端を貰う鯉を見ていた。
「中々愛いだろう?先代の住職が飼ってた鯉を、こうして世話してるのさ。」
『......今の住職は、どうしてるんだ?』
「あぁ、私がその住職だよ。」
『......』
「紹介が遅れたね。この金魚寺の住職をやっている、名は瑪瑙だ。このご時世なもんで、翠に頼まれて患者を中で寝かせている。」
『...オブシディアンだ。』
「ふむ、ここいらじゃ珍しい名だ。綴り的には、島の東の方から来たって所かな?」
『まぁ、そんな所だ。』
「なるほど。それで、患者を治しに来たと言っていたね。本当に黑云母から来たのかい?」
『俺の目的は神子を治し、この街の呪いを解く事だ。その為に黑珍珠と翠と手分けして色々やってる。』
「もしかして、本当に治せるのかい?」
『...まぁな。』
「うーん......まだ信用できないねぇ。如何せん今の私は命を預かっているようなものだから。」
『...』
「よし、こういうのはどうだい?今から私が言う物を、街で買って来てくれないかい?」
そう言うと瑪瑙は懐から束になった紙幣を取り出し、オブシディアンに渡した。オブシディアンはそれを前に表情1つ変えず、それを受け取った。
『何を買ってくればいいんだ?』
「海蓝という人の絵画だ。その人の絵画であればなんでもいい。」
『......分かった。』
オブシディアンはそう言うと、寺を出て市場へと向かった。
〈黄水晶?〉
街中に出ると、やはり人が多く、街の各所に貼られた地図を頭に叩き込んでも簡単に迷ってしまいそうだった。潜って進むと地上の様子が分かりづらく、やむを得ず人込みをかき分けながら進むと、果物屋で梨を眺めて険しい顔をする黑珍珠に出くわした。
『...そっちは順調か?』
「ん?あぁおーちゃん。ある程度集まったからちょっと休憩中。そっちはどう?」
『寺の住職にお使いを頼まれた。』
「ふーん......」
黑珍珠はオブシディアンを見てにやける。
「もしかして、絵画とか?」
『あぁ。海蓝って人のだ。』
「へぇ~...」
黑珍珠は懐から落書きがある紙切れを取り出し、オブシディアンに手渡した。
『これは?』
「秘密。まぁ持ってたらいい事あるかもね。お守りみたいな?」
『そうか...』
「絵画を探してるなら、あっちの方に真っ直ぐ言って左に曲がればそういう系の店がいっぱいあるよ。」
『分かった。』
「じゃ、またあとでね。」
黑珍珠が再び果物を睨み始めると、オブシディアンはそれを横目にその場を後にした。
〈黄水晶?西部〉
道場の近くにある店は、彫刻や掛け軸等、文芸や芸術作品がたくさん並んでいた。どれも先程まで居た市場とは、比べ物にならない程の値札が付けられていた。
『......ん?』
その片隅、青い値札が付いた絵画が目に留まる。オブシディアンがそれを眺めていると、店の中から袖を捲った男性が出て来た。
「そこの君、海蓝の作品に興味があるかい?」
『お使いを頼まれている。』
「あぁ、って事は、あの寺の住職さんだな?中に入りな。色々見せてやる。」
オブシディアンは男に招かれ、店の中へと足を踏み入れた。店の中は古い紙と墨の匂いで満ちており、壁に掛けられている作品はどれも外から見るよりずっと迫力があった。
「この中の1つが、海蓝の作品だ。当てれたら売ってやろう。」
『...随分変わった商売をしてるんだな。』
「芸術作品は、その作品の価値が分かる者にこそふさわしい。」
掛け軸や絵画は全て違うものを描いており、谷底へ激しく落ちる滝、人々の暮らす賑やかな街、雲がかかった天まで上る霊峰。木柱の橋の前から見た黑云母を描いてるものもあった。
『......』
オブシディアンは1つ1つを細かく眺める。細部をよく見ると、その絵を描いた作者の癖が顕著に出ているが、同じものを描いたものが無い為、判断材料とはなり得ないと思っていた。だが、5つ目の絵画を眺めた所で、違和感に気付く。
「どうかしたかい?」
『この絵、多分3番目の絵と作者が同じだな。』
「ほう?どうしてそう思ったんだい?」
絵に値札や題名の表記は無い。だが、作者の癖というものは基本被る事は無い為、同じ画法、同じものを描いても全く違う絵になる。
『......なんとなくだ。』
「そうかいそうかい。お前、中々目利きが出来るようだな。」
『...当たりって事か?』
「さぁ?どうだかな。」
オブシディアンは引き続き絵画を眺める。6番目の絵画は、湖畔を写したもの。どこまでも続き、霞がかって先が見えない湖は、どこか神秘的な雰囲気があった。
(どこかで見たような......?)
「その絵が気になるか?」
『まだだ。全部見てから判断する。』
「フッ、まぁ時間はいくらでもあるからな。好きなだけ悩め。」
7番目の絵画はオブシディアンが先程まで居た金魚寺を描いたであろうものだった。だが他と比べて少し見劣りする気もした。
「正直、その絵画は置くか迷ったんだけどな。作者が置けとうるさくってな。」
『......』
8番目と9番目は掛け軸だ。鈴蘭と竜胆が描かれており、掛け軸のスペースを余す事無く描かれている。
「そういえばこの区画の神子も、その植物と同じ名前だったな。」
『......』
10番目の絵画。これで最後だ。その絵画は大きな石畳の上で龍と対峙する闘士を描いており、闘士の顔は見えないが、龍の顔は少し笑っているようにも見えた。
(...ん?)
龍は黑云母にいる铃兰とは似ても似つかないが、オブシディアンはふと、龍の持つ宝珠に目をやる。それは如意宝珠といい、水晶で出来た球で、それを持つ龍の力を増幅させ、願いを叶える力を与えるという。
オブシディアンはポケットから黑珍珠に貰った紙切れを取り出す。そこに書いてある落書きは、落書きと言いつつも、光の反射や影まで完璧に描かれ、とても綺麗な黒い真珠が描かれていた。龍の持つ宝珠は、その真珠と瓜二つだった。
『これか。』
「本当にそれでいいのか?」
『......』
オブシディアンは再び他の絵を一望する。やはりこの絵で間違いないようだ。
『これだ。』
「......正解だ。売ってやる。金はあるのか?」
『頼まれた人から預かっている。』
オブシディアンは紙切れを持ったまま、札束を取り出した。
「ん?その紙切れは...」
『......』
(あ、やべっ、)
「もしかして、海蓝のサインか!?」
『...はい?』
「知らないのか!?...あぁ、お使いを頼まれただけだったな。すまん。なぁ、それ譲ってくれないか。
そしたら半額にしてやる!」
『...まぁ、構わないが。』
「っしゃあ!!恩に着るぜ!!そんじゃこれはおつりだ。この袋にあれ入れてもってっちまって構わないぜ。所で、君随分目が鋭いみたいだな。良かったら鑑定とか興味ないか?—――――」
男性が悠々と長話をし始めたので、オブシディアンはそっと龍の絵画を袋に入れ、袋を肩に掛けると、店を出た。
(......そういえば、これって高いんだよな?人込みに揉まれて傷でもついたら面倒だ。塀の外から回ろう。)
オブシディアンは黑云母の木柱の橋の前から、横の塀を伝って金魚寺に戻った。
To be continued.




