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[愛の形、孤独の形]  作者: 情緒不安定
『廻る命と帰る場所』
26/31

#25『生きる理由』

「ワシの名前は(スイ)。この道場を管理しとる。そこの黑珍珠はワシの弟子じゃ」


『...オブシディアンだ。』


「うむ。黑珍珠があの話をしておったという事は、お主は铃兰(リンラン)の事について、何か知っておるのか?」


『......』


オブシディアンは黑珍珠の方を一瞬見た後、翠の問いに口を開く。


『俺は、この街の呪いを払いに来た。神子の呪いは、俺があの龍に刃を突き刺せば消える。だが、色々事情は把握した。事が収まるまでは、俺は手を出さない。』


「良かった。ありがと。」


「ワシも铃兰を説得しようと思ったんじゃが......あの龍の姿でも、一応意思疎通は出来るんじゃけどな?まるで聞く耳を持ってくれんのじゃ。」


『......』


『他人のいざこざに口を挟みたくはないが、1つだけ聞かせてくれ。お前達は、铃兰をどうしたいんだ?』


「「......」」


2人は目を合わせる。少しの沈黙の後、翠が口を開く。


「この島は、4人の神子があってこそ、平和が保たれていると思っておる。確かに大災害は、神子の力を上回り、島、そこに住む生物、そして神子に、甚大な被害をもたらした。じゃが、それでもワシらは折れなかった。じゃからこそ、今のこの街がある。生きる希望を失ったわけではない。この世界に生きる以上、ワシらは足掻き続けなくてはならん。そうして困難を乗り越えた先に、ワシらは真の平和を勝ち取る事が出来ると思っておる。」


「もしあの子が傷付き、前に進めなくなっていたんだったら、私達が支える。かつてこの島国は、神子と人とが支え合い、共に今日と言う日まで様々な困難を乗り越えて来た。ここで倒れるのは、今日私達がこうして呼吸出来るこの世界を作った過去の人達を裏切る事だと思ってるの。だから、私達は街の人も、铃兰も助けたい。」


『......だったら、まずはアイツを起こさないとな。』


オブシディアンは椅子から立ち上がり、ポケットに手を入れる。


「あの子、どうやったら起きてくれるかな......」


「ふむ......そうじゃ、ワシに考えがある。ちょっとそこで待っておれ。」


翠はそう言うと、自分の書斎へと向かった。


「......」


2人は部屋の入口を眺める。部屋の中には、黑珍珠のお菓子を貪る音が響いた。


「ねぇねぇおーちゃん。」


『......?』


「オブシディアンの頭文字取っておーちゃん。嫌?」


『......まぁ、好きにしろ。んで、なんだ?』


「おーちゃんって、強い?」


『...誰にも言わないなら、教えてやる。』


「分かった。」


オブシディアンは片腕を溶かすと、部屋の物を傷つけないように、ゆっくりと刃を形成した。


『......俺は、身体を解かせる。溶かした分だけ、モノを作れる。刃も、盾も、鈍器も。』


「......」


オブシディアンは素直に、自分の力について語る。オブシディアンは悩んだ末、後先考えずどうせ死ぬならバレようがどうだって良いという結論に至った。


「スライム?」


『...?』


「幼い頃、他の区画から来た本で読んだ。液体と固体の中間で、変幻自在の魔物。」


『......俺を魔物だと?』


「意思疎通取れるから、違うと思う。それに、踏み留まってくれた。優しいから。」


『......人に親切にするのは、嫌いじゃない。』


「いい子だね。でも、人の中には、その親切を仇で返す人がいる。だから、余計なお世話かもしれないけど、気を付けてね。」


『...覚えておく。』


だが、オブシディアンが今まで出会った人の中で、そんな人は居ない。しかし、生まれて半年にも満たないオブシディアンは、黑珍珠の忠告を念の為頭の片隅に留める事にした。


「持って来たぞ。」


翠は部屋に戻って来ると、2人の前で書物を開いた。


「これ、「不老不死の薬」?」


「神子は元々不老の存在じゃ。死が無いわけじゃない。じゃが、無理やり生に縛り付ける程ワシも酷ではない。じゃから、神子に効く位強烈な滋養強壮の薬なんてどうじゃ?」


「うーん......本当に目覚めるかなぁ?」


「目覚める位、強い効力のある薬を作るんじゃ。人の身体では到底耐えられん位のな。」


「それ...どの道あの子を苦しめるんじゃ......」


「神子はそこまで弱くない。逆に、ここまでやらんとビクともせんじゃろう。病にも負けない位強い薬を作って、後は......あやつの心をどうやって動かすかじゃの。」


『......铃兰ってのは、争い事の神子なんだよな。』


「うん、そうだよ?」


『あいつは、どんな力が使えるんだ?』


「えっと......なんだったっけ?」


「実を言うとワシも覚えておらんのじゃよ。」


『......』


「じゃが、あやつは人々が鍛錬を積み互いに切磋琢磨する姿が好きじゃった。それに、铃兰も竜胆も、互いに切磋琢磨しておったわい。」


「......」


オブシディアンと黑珍珠は考える。もし失敗しても、彼女が死ぬ前に、せめて彼が好きだったものに囲まれて死なせてあげようと。


「主らの考えとる事は分かる。実際、今出来る最善の手じゃろうな。そうと決まれば、まずは街の皆の病を治す所からじゃ。」


「そういえばおーちゃん。この病を治せるんだよね?」


『...まぁな。』


「じゃあ、街の人の病、治して回って来てくれる?その...任せっきりになっちゃうかもしれないけど。私は、さっきの滋養強壮の薬を作るから。」


「ならワシは、弟子たちの稽古を再開しようかの。ただし、失敗する前提で動くな。人々を救い、铃兰をも救う。ワシらが向かうのは、全員が生きて平和に暮らせる世界じゃ。」


「うん!」


3人は互いに分かれ、それぞれの持ち場へと向かう。オブシディアンは木柱を渡り、他の患者が居ると言う寺院へ。黑珍珠は、滋養強壮薬の材料の調達。翠は、绿柱石(リューズーシー)と、門下生達を迎えに街に繰り出した。



〈創造と破壊の秘境?黄水晶(ホアンシュイジン)?〉



「......あのよ、」


「なんじゃ?」


背の低い老人の隣で、淡い空色の髪の青年は口を開く。いつもは翠の方から話しかけるばかり且つ、滅多に言う事を聞かない曲者が、珍しくまともに話を切り出した。


「...俺ってよ、才能あんのか?」


「...才能の有無はワシは気にせん。大事なのは、その人がどれだけ頑張れるかじゃ。無論無理強いはせんよ?その人に一番合った修行法を考えるのが、ワシの役目じゃ。お前さんが望むなら、お前さんが手っ取り早く黑珍珠に近付く技を伝授してやっても良い。」


「...じゃあよ......俺は......その、三半規管が弱いからよ...」


「あぁ。人によって向き不向き、得意不得意はある。逆に言えば、お主にしか出来ぬ事もあろう。お前の中に眠るその力を引き出すのもまた、ワシの役目よ。帰ったら早速やってみるか?」


「......おぅ。」


2人は門下生の1人の前に着くと、戸を叩いた。



〈創造と破壊の秘境?谷底〉



昼間なのもあって、比較的明るく、山菜を取るのにはもってこいの時刻。地殻変動の影響もあってか、この近辺の植生は大きく変わり、谷の上では今までと変わらない植物が生えてるのに対し、谷底では日陰にしか生えないものが、所々に顔を出している。


「そういえばこの辺の植物試した事無いな...帰ったら書物を読み漁って、色々試してみよう。折角だから、薬じゃなくって料理にでもしてみようかな。」


黑珍珠は近辺に生えてる食べられそうな植物を藁の籠に放り込むと、谷の上に戻り、今度は街の市場で調達を始めた。


  To be continued.

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