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[愛の形、孤独の形]  作者: 情緒不安定
『廻る命と帰る場所』
25/30

#24『自己犠牲』

〈???〉



......


まただ。


あの機械人形に殴り飛ばされた時と同じ、激しい頭痛。体に力が入らない。気絶した時、再びあの夢を見るのだろうか。それとも―――


(お前はもう後戻りは出来やしない。望んだところで、お前にはもう手に入らない。お前と対峙するのを、楽しみにしておいてやるさ。その時のお前がどんな顔してるのか、楽しみでならないねぇ!!)


あの時以来、頭のノイズはきれいさっぱり無くなった。オブシディアンは静寂の中、少しずつ瞼が重くなっていく。


『どうせすぐ――目覚め―――』


オブシディアンは言い終えるまでも無く、意識の奥深くへと沈んで行った。



「......て...」


「...きて。」


『......?』


まだ頭痛がする。だが、不思議と気怠さが無い。


「......もしかして、起きてる?」


『...あぁ.....』


ん?


『...あっ』


オブシディアンは重い瞼を強引に開き、咄嗟に顔の右側を覆う。ぼやける視界の中で、目を擦り、視界が明瞭になっていくと、オブシディアンの目の前に前かがみになってオブシディアンの顔を覗き込む女性が居た。


「へぇ~」


『......見たか?』


「うん、今見てる。」


『......』


オブシディアンは目を逸らす。それに合わせて、目の前の女性も首をかしげる。


「痛むなら、氷あるよ?」


『......いや、大丈夫だ。』


気まずい時間が流れる。互いに固まりしばらく経った後、オブシディアンが口を開く。


『......ここは何処だ?』


黑云母(ヘイユンムー)。」


『......?』


聞き慣れない単語に少し戸惑う。


「今朝谷底に行ったら君が倒れてたから、ここに連れて来たの。」


『...そうなのか。』


「うん。君、名前は?」


『......オブシディアン。』


「どこから来たの?」


『......』


オブシディアンは考える。直接神子の場所を聞けば早いのだろうが、怪しまれないだろうか。


「あ、人に何か聞くなら、こっちも何か情報を渡さないとか。」


目の前の女性は前屈みの体を起こし、首を傾げた後、自分を指差しながら口を開く。


私黑珍珠(ヘイゼンチュウ)。ここで(スイ)ってじいちゃんと道場やってる。今は街で病気が流行ってて、何処の養成所も治せなくてお手上げ状態だから、道場休んで皆の病気治してる。」


『...その病気って、どんなのだ?』


「うーん......」


黑珍珠は周りを見渡し、部屋の隅にある紙を1枚取ると、そこに何かを描きオブシディアンの所へと持って来た。


「こんなのが顔に出るの。」


『!?』


オブシディアンは目を見開く。黑珍珠が見せた紙には、オブシディアンの顔にあった文様と同じものが描かれていた。


「君にもあったから、ここに連れて来た。あと、治療法はもう見つかってて、君のも治しておいたよ。」


『...え?』


「ほら、」


黑珍珠は今度は鏡を取り出す。鏡に映るオブシディアンの顔からは、顔の右側を覆っていたものが、跡形も無く消えて無くなっていた。


『どういう事だ......?』


「気になる?」


オブシディアンは少し考えた後、頷いた。


「じゃあ、付いて来て。」


黑珍珠は部屋の入口に向かうと、オブシディアンを手招きする。オブシディアンは自身が寝かせられていた布団から出ると、黑珍珠の後を着いて行き、道場の裏側へと向かった。



黑云母(ヘイユンムー)、裏格闘場〉



オブシディアンが黑珍珠について行くと、全開の大きな門を通り、広い裏庭に出た。そこの真ん中には1つの石で出来た大きな畳があり、霞がかる中微かに照らす日光が、神聖な雰囲気を漂わせていた。


(私はもうすぐこの世を去る。)


『......!』


オブシディアンの頭の中に、街中で聞いた声が木霊する。それは鮮明に認識出来、神子がすぐそこに居るのだと悟るには十分だった。


「......?」


『あ...いや、なんでもない。』


「そうだ、忘れ物した。取って来るね。」


黑珍珠はそう言うと、来た道を戻って行った。オブシディアンは日の光の下に出る。体のだるさはやはり消えており、自身が蓄積した呪いは完璧に消えていた。


『何故だ......?街2つ分の呪いだぞ?そう簡単に払えるはずが......』


オブシディアンは格闘場の周りを見渡す。ふと、入り口の隣を見ると、オブシディアンが今抱えている全ての問いの答えが、そこに居た。オブシディアンはそれと目が合ったが、それは全く動く気配が無い。

その長い胴体は、先程までこの道場の塀だと思っていたもので、頭部はまさに東洋の龍そのもの。その眼には文様が無かったが、脳内に響く声と目の前の存在が、それ以上の説得力を生んでいた。


「お待たせ、戻った......よ―――」


黑珍珠が龍の頭部に目を向けると、そこには龍の頭部目掛けて刃を構えるオブシディアンが居た。


「ちょぉぉぉぉぉぉぉぉおっと待ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!」


黑珍珠は咄嗟にオブシディアンの前に立つと、両腕を広げた。


『......何故止める?』


「この龍が、治療法そのものなの。」


『......?』


「信じてもらえるか分かんないけど、この龍、神子なの」


『...あぁ。知っている。』


「え?そうなの?」


『こいつは呪いの元凶で、こいつの呪いを払えばこの区画の呪いは消える。だから大人しい間にトドメを刺せば手っ取り早く済むだろう。』


「......私も、そんな気はしてる。」


『だったら、尚更何故止める?』


「...ちょっと、複雑だから、中で話そう?とりあえず、この子は無害だから、放置してても大丈夫だから。」


黑珍珠は龍の鼻を撫でながら、オブシディアンを説得する。


『......分かった。』


黑珍珠が取って来た氷を龍の口に放り込み、2人は道場の中へ戻ると、今度は黑珍珠の部屋へと向かった。



黑云母(ヘイユンムー)、黑珍珠の部屋。〉



黑珍珠はオブシディアンを椅子に座らせ、別の部屋からお菓子の入った容器を取って来ると、棚に寄り掛かりながら話し始めた。


「大分シリアスだから、噛み砕いて話すね。」



〈数年前〉



昔々、ある所に、铃兰(リンラン)竜胆(リンドウ)という、2人の神子が居ました。

2人は「争い事」を司り、铃兰は争いの始まり、竜胆は争いの終わりを司っていました。

私は幼い時から2人と関わりがあって、2人とも私に優しくしてくれた。


ある日、黒い波が、島を覆いました。人や建物が沢山飲み込まれ、この区画では、地が裂け山脈と谷が形成されました。2人の神子も、波の被害を抑える為、黒い波へと立ち向かっていきました。ですが、抵抗むなしく、竜胆は铃兰の前で波に飲まれ、铃兰は竜胆が死ぬ間際に突き飛ばしたことによって助かりました。


時は進んで半年前、岩で入り口が塞がれていた洞窟の中に、铃兰が居ると悟った私は、ある人と一緒に铃兰を目覚めさせに行きました。そのある人によれば、また黒い波が来るかもしれない。だそうです。


無事目覚めた铃兰ですが、黒い波の事を知らせ、助力を乞うてみた結果、まだ竜胆の事が心残りになっており、断られちゃった。


なんだかんだ道場の弟子達の特訓に付き合ってはくれますが、どこか浮かない顔をする神子なのでした。


「ここまで良い?」


『......黒い波ってのは、大災害ってやつか?』


「あぁ、さっき話したあの子が同じ事言ってたね。多分そうだと思う。私記憶力無くてさ。その都度思い出す事はあっても、他の事してる内に簡単に忘れちゃうんだよね。」


『......』


「じゃあ、続き話すね。」


さらに時が進んで半月前。街中で妙な影を見たって噂が流れ始めたの。

病気が流行ったのはそこから。それで病で街のほとんどの人が侵された時かな。道場の弟子の1人が、铃兰に近付くと、弟子の病気は綺麗さっぱり無くなったの。最初は無くなったと思ってたんだけど、铃兰と調子に乗って皆を治して回ってたら、铃兰あんな姿になっちゃった。多分、病気が全部铃兰に移った。


『......じゃあ、どうして俺のも移した?』


「......铃兰の、頼み。」


あの子ね?竜胆の居るあの世に行きたいって聞かなくって。铃兰は神子と言う立場で、この街を護らないといけないけど、このやり方だと铃兰が死んじゃうからやめてって言ったんだけど、勝手に皆を治し始めて、あそこで動かなくなっちゃった。私はとりあえず、皆を治しながら、铃兰を元に戻す方法を探してる。


「でも......このままじゃ、铃兰死んじゃう。」


「本当に、困った奴じゃよ。」


黑珍珠が話していると、部屋の入口から声がした。


「ワシも止めたんじゃがのう...」


「あ、爺ちゃん。」


黑珍珠が入口を見ると、この道場の主が居た。主が部屋に入って来ると、黑珍珠は彼を指差しオブシディアンの方を向いた。


「はぁ......この呼び方はやめろと言っとるんじゃが聞かなくっての。」


  To be continued.

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