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[愛の形、孤独の形]  作者: 情緒不安定
『心と心が通じ合う』
21/31

#20『衝動』

〈藍方城上空〉



(罪を犯した咎人は、罰を受けるべきだ)


『......またか。』


翼竜となった時の神子と対峙する直前と、同じ事が起きていた。頭の中に響くノイズ。それは大鯨に近付くにつれて、オブシディアンの思考を覆っていく。


「...?どうした、まさかこの巨体を前にして怖気づいたんじゃないだろうな。」


『...いや、なんでもない。』


(貴方は、孤独を罰だと思いますか?)

(お前は誰にも理解されず生きて行くんだ。)

(お前はずっと、独りぼっちだ。)


(......うるさい。)


(彼らは味方じゃない。お前の事など気にも留めていない。)

(お前は一人、誰にも知られず死ぬんだ。)

(お前は咎人になるんだ。)


『黙れ!!』


「っ!?」


灰礬はオブシディアンに視線を送る。オブシディアンは頭を押さえ、鯨に向かって叫ぶ。


「お前、今度は何を見たんだ?」


『......』


灰礬の声と共に、オブシディアンのノイズは消える。


『...なんでもない、気にするな。それよりもうすぐ着くぞ。』


「あ、あぁ...ん?」


灰礬は咄嗟に身を翻すと、残像が鯨の背中へと延びて行く。藪蘭に飛ばしてもらった勢いが、雨によって衰え始めており、このままでは灰礬は背中に乗れても、オブシディアンは胴体へぶつかりそのまま地面へ真っ逆様だ。


「掴まれ!!」


『くっ!!』


灰礬は必死に手を伸ばす。オブシディアンも、自身の身体の事がバレてはと灰礬の手を掴みに行く。だが、掴む間も無く、オブシディアンは鯨の胴体へと激突し、そのまま地面へ向かって落ちて行った。


『......』


「オブシディアン!!」


灰礬は歯を噛み締めながら、自身の残像を伝い大鯨の背中へと昇る。


「......考えてる暇はない。こいつの急所を探す。」



『......』


オブシディアンは落下しながら、次の行動を考えていた。


(鯨......何故かは知らんが、俺の頭は生まれてから時間と共に冴えて来ている。俺が人造人間だってのと関係あるのか?今はそんな事はいい。とにかくどうやって復帰する?海底から飛び上がろうにも高度が足りない。棘を伸ばす?そんなことしたら自分から俺がバケモンだと誤解されに行くも同然だ。)


オブシディアンが思考している間も、地面が近付いて来る。


(鯨ってのは、シャチが天敵なんだってな。図体をデカくすれば確かに届くかもしれないが、俺が出せるのは溶かした身体の体積の5倍までだ。そして空中では溶解も形成もできない。だったらどうする?地面から伸ばして届くのか?いいや、届いても限りなく薄っぺらいものだ。すぐに砕かれるだろう。)


オブシディアンは地面に着くと共に、しぶきを上げて水溜まりへと潜る。


(少なくとも、ここは人の目に留まらない。幸い2人が注意を引いてくれてる。考える時間はあるはずだ。...待てよ?普通の人間だったらこの高さ死んでるよな?だったら死んでる事になってるのか。)


オブシディアンは目から上だけ浮上し、木蔭から鯨を見つめる。


(......どの道、俺は今後ずっとあいつらと一緒に居る訳でもない。だったら、何も躊躇う事は無いだろう。さっさとトドメを刺して、この街を去る。それだけだ。)


(そうだ、お前は独りぼっちだ。)


『黙ってろ、耳障りだ。』


(お前の居場所は何処にもない。)


『孤独なら、人助けしちゃ駄目なのか?別に見返りを求めている訳でもない。』


そう言うと、ノイズは再びどこかへ消えて行った。


(チッ、あいつは人格なのか?それともただの俺の思考に紛れる雑念なのか?だから論点をずらすな。灰礬が滑り落ちたらどうする。)


「っ!!」


その瞬間、その一瞬が永遠の様にも感じられた。オブシディアンの思考が、今まさにオブシディアンの目の前で起こったように感じた。だがそれはオブシディアンの目の前に血だまりを作ると、最初からそんなもの無かったかのように消えて行った。


『......今のは?』


(お前はずっと、独り―――)


『黙れ!!!!』


(こいつはなんだ?幻覚か?俺は何を見ている?俺は何故こんなに動揺している?クソっ、早くあの鯨を!!)


(お前は最初から生きてすらいない。)


『......は?』


次にオブシディアンの前に現れたのは、見た事も会った事も無い人。だが、その容姿は何処か、自身が最初に会った人と似ていた。


挿絵(By みてみん)


「お前は何故人を助ける?」


『......知らん。この力を持て余すのも、なんか違うと思っただけだ。』


(待った、俺は何故普通に会話している?何故人見知りが発動しない?)


『分かったら消えろ。今忙しいんだ。』


(そんな事言っていない。これはなんだ?)


「死にたいならさっさと死ねばいいだろう。そしたら後は何もしなくていい。私のノイズで埋め尽くされる事も無い。」


『......お前、何者だ?』


「さぁ?だが少なくとも、お前の味方ではない事は確かだな。加賀知カイヤの、成り損ない」


『っ!?どういう意味だ!!』


「おぉキレた、怖い怖い。それともお前は今、焦っているのか?もしかしてその刃で、私と言う「人間」を、傷つける気じゃないだろうねぇ。そしたらお前の生きる意味なんか、すぐに消えて無くなる。浅はかで、薄っぺらい信念を、今ここで、捨ててみるかい?」


『うるさい!!黙れ!!!!』


「へぇ、嫌だと言ったら?」


オブシディアンは水中でもがく。ただのノイズだとしても、それは少しずつ、オブシディアンの精神に浸食していく。気付けばオブシディアンは周りが見えなくなっており、オブシディアンは水面から勢い良く、形成途中の触手の様なものを目の前の幻覚へと伸ばした。だが触手は幻覚の横を通り過ぎ、そのまま大鯨へと向かって行った。



〈大鯨の背〉



「急所っつったら脳か?生憎漁は詳しくないんだよな。鯨ってどうやって狩るんだ?」


灰礬が鯨の背にしがみつきながら、とりあえず鯨の頭部まで向かう。鯨が迂回した際に、灰礬は鯨の頭部が目に留まると、鯨の眼球があるであろう部分に赤い文様があるのが見えた。


「まさに目星、手始めにあいつから―――」


灰礬が鯨の頭部へと、歩み始めたその時、四方八方から、灰色の触手が鯨に絡みつき、鯨の動きを止めた。


「オブシディアン......?お前なのか!?...そうか。感謝する!!」


灰礬は動きを止めた鯨の背を掛け頭へと向かう。


(計画がどうとかやる前に行ってたけど、結局何もうまくいって無かったな。まぁいい。)


「おい鬼野郎!さっさと目を覚ましやがれ!!」


灰礬は残像で触手を乗り越えながら進む。頭部はもうすぐそこだ。


「そこだ―――」


灰礬がトドメを刺そうとした、その時だった。大鯨の身体が割れ、中から紫色に光る肉体が露出した。巨体の身体が変形しただけあって、文様への道は大きく遠ざかって行った。


「はぁ......?クソが。こんなことで挫けるかよ!!」


灰礬は残像を伸ばし、真っ黒な甲殻を渡る。紫に光る肉体からの熱風が、肉体の温度を悟らせる。鯨は触手に絡められながらも、そこから逃れようともがき始める。


「ハッ、その方が届きやすくて助かるよ!!」


灰礬は甲殻同士の距離が近付いたタイミングで刀を突き刺し乗り移る。離れていた距離が再び、縮まっていく。



(まずい......あいつがトドメを刺してしまう......)


「お前は役目も果たせぬまま、中途半端な信念と、私と共にここでくたばるんだ。」


オブシディアンは肉体の制御が効かず、鯨をその場に留める事しか出来ずに居た。


『邪魔だ!!俺の中から出ていけ!!!!』


「ハッ、やなこったい。」


オブシディアンの瞳の中の文様が怪しく光る。それはオブシディアンの潜む水溜まりの上からでも、視認する事が出来た。


『出て行かないんだったら死ね!!!』


「ハッハッハッハ!!ついに言ったな、私に殺害予告をした。お前は私に明確な敵意を向けたんだ」


幻覚は腹を抱え高らかに笑う。


「ハァ、笑った。お前はもう後戻りは出来やしない。望んだところで、お前にはもう手に入らない。お前と対峙するのを、楽しみにしておいてやるさ。その時のお前がどんな顔してるのか、楽しみでならないねぇ!!」


幻覚はそう言うと、ぼやけて跡形もなく消えて行った。制御が効かなかったオブシディアンの肉体はオブシディアンの意思で動くようになり、触手はより硬く鯨を縛るようになった。触手の内1本の中は空洞で、その中にはオブシディアンの潜れる海と同じ液体が流れており、オブシディアンの海からそのまま続いていた。


『今なら間に合う、アイツを巻き込むわけにはいかない!!』


オブシディアンは勢い良く浮上すると、そのまま触手を伝って鯨の方へと向かった。


  To be continued.

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