#19『雷一門字』
〈藍方城、最上階〉
藪蘭は風圧で向かって来る兵士が落下しないように、何とか柱やそれにぶつかった兵士に向かって、矢継ぎ早に来る大量の兵士を吹き飛ばす。
(死なない程度に気絶する程度に......加減するのは難しいけど、これだけ肉壁になってる兵士が居るなら、多少強気になっても...)
藪蘭は濡れた着物を持ち上げながら、体力を温存する為最小限の動きで攻撃を躱しながら兵士を返り討ちにしていく。そんな中、兵士の数が減ったかと思うと、階段から1人の男が昇って来た。
紫の着物、黒い鞘、黒い眼。片目は眼帯をしており、その顔にはほほえみを浮かべ藪蘭をしっかりと視界の中心に捉えていた。
「君が侵入者だね?」
「だったらなんだ」
「別に攻めてる訳じゃない。僕にその権利は無いからね。1つ聞いてもいいかい?」
「......なんだ」
「君達の、いや、君の目的は何だい?」
「仲間を護る。それだけだ」
「そうか、君はさっきあの鯨に向かって飛んで行ったあの2人とは、どういう関係なのかな?」
目の前の男は藪蘭よりも背が高く、藪蘭に向かって淡々と述べる。不思議と緊張が和らぐ声で、藪蘭の油断を誘う。
「...知り合いだ。」
「特に特別な繋がりは無いように見える。君は、あの2人を手伝う意味が分からなくなっているのではないかい?」
「それは......」
男は藪蘭の前で人差し指を立ててみせる。
「1つ呑んでくれるなら、君を見逃してあげよう。」
「断る。」
「まぁ聞け。僕はつい先月この城に拾われたばかりの傭兵でね。と言っても、元はただのゴロツキだったんだけど。だから別に、ここの殿様に思い入れがある訳でもないんだ。だから、」
男は次に、藪蘭の刀を指差す。
「君のその力で、僕をあの鯨まで飛ばしてくれないかな?」
「......はい?」
「正直な所、僕もこの雨にうんざりしていてね。あの鯨のせいなんだろう?気付かない訳がない。君が仲間をあそこまで飛ばしたのは、あの鯨を殺そうとしているんだ。違うかい?」
「...だったらなんだ」
「僕も協力してあげるよ。殿様の事も、僕が説得してあげる。結構君達にも徳があると思うんだけどね。どうだい?」
「......お断りです。」
「ふむ...どうしてかな?」
「初対面の相手を、信用すると思いますか?」
「じゃああの2人の事は、何故信用していると言えるのかな?君は今あの2人を友達とも言わず、知り合いと言った。ならなぜ、あの2人にそこまで肩入れする?」
「...確かに俺は、あの2人とは会ったばっかりだし、刀を交えた事もある。だけど、」
藪蘭は刀の先端を鞘に当てる。
「俺は初めて、「ライバル」と呼べる人を見つけた。お互いを切磋琢磨し高め合う。そんな存在を、」
「なるほど、確かにそれは、絆とも匹敵する素晴らしい関係だ。だったら、」
男は刀を抜くと、下段に構える。その刀は平地の部分が黄色く輝いており、まるで雷の様だった。
「僕とも、その「ライバル」ってやつになってくれよ」
「...お断りです!!」
藪蘭は刀を鞘に突っ込み風圧で男の横に回る。
「ほう?面白い。」
藪蘭はそのまま男の周りを1周すると、正面から男に斬りかかった。男は藪蘭の刀をしっかりと防ぎ、藪蘭は再び距離を取った。
「妖刀...君は、その持ち主とは違うようだが、それは貰い物かい?」
「...お前に答える義理は無い。」
「お前とは酷いな...もっと仲良くしようじゃないか。」
「断る!!」
藪蘭は再び刀を鞘に納める。男は刀を自身の前に持ってくると、藪蘭に狙いを定めるように、刀を持つ手を伸ばした。
「...?」
「折角妖刀の力を行使してくれてるんだ。僕も種明かししようと思ってね。」
「...!?」
藪蘭は咄嗟に刀を抜き風を使って横に飛ぶ。男の刀から藪蘭がさっきまで立っていた場所まで稲光が起こり、藪蘭の立っていた場所には、刀で斬ったような焦げた跡が出来た。
「妖刀・鳴神と、僕は呼んでいる。まさに、君と対になる刀さ。」
藪蘭は男と一定の距離を保ちながら男の周りを迂回する。男は地面と水平に刀を構えると、再び藪蘭へ雷を飛ばした。
「ぐっ!!」
藪蘭はなんとか身を屈めそれを躱す。それと同時に稲光で出来た死角から、藪蘭は懐へ潜り込む。
「想定内だよ。」
藪蘭の切り上げた刃は防がれ、藪蘭は男に蹴り飛ばされる。
「ぁっ!!」
「もっとだ、もっと僕に、君の力を見せてくれ、僕達ならば、真に互いを高め合える「ライバル」になれるはずだよ」
男は表情1使えず、その笑みが絶える事は無い。藪蘭は柱の前で踏み留まり、態勢を立て直すと、男へ向かって居合切りを行う。男はそのまま鍔迫り合いに持っていく。
「嫌だと言っているだろ!!」
「何故だい?僕は雷神、君は風神だろう?」
「風神?何を言っているんだ?」
「まさか知らないのかい?異国の神様だよ。千手観音の眷属であり、一対の神様さ。」
藪蘭は男に再び蹴り飛ばされそうになるが、風によって胴体を間合いの外に外し、そのまま風を推進力に変える。
「2度同じ轍は踏まない」
「フッ、そうだ、成長するんだ。もっと大きくなって、僕に刈り取らせてくれ。」
男の刀が輝きを放ち、雷を繰り出そうとしている。
「断ると、」
藪蘭は競り合っている刀の峰を抑えながら、鞘を刀の先端に持っていき、鍔迫り合いをしながらの納刀に成功する。
「言っているだろうが!!!!」
2人の力はぶつかり合い、対消滅すると共に互いを廻縁まで追いやった。
「くっ、」
気付けば最上階の戸は全て外れ、外に向かって吹き飛んでいた。
「それでいい、それでこそ私の「ライバル」だ。」
「はぁ...はぁ......」
相手に向かって突風を飛ばした反動で、藪蘭の身体には疲労が蓄積され出していた。
「さぁ、続きと行こうじゃないか。僕はまだ満足していないのだから。」
「クソが...」
藪蘭は考える。どうやったら目の前の男の戦意を喪失させられるのか。
「勿論、僕より幼いからと、容赦するつもりはないがね。」
男は刀を構える。再び雷が藪蘭へ向かって来ようとしている。だが、互いの間には多少距離がある。ならば―――
藪蘭は腰に鞘を置き、刀を納め姿勢を低くする。
「......」
雨音が周囲を満たす。屋根の雨粒が地に落ちた、その瞬間—――
「はぁっ!!!」
藪蘭は男の放った雷を刀に当てると、そのまま雷の進む方へ一回転し、その力を自身に取り込んだ。
「っ!?フッ、」
男の瞳に映る藪蘭の背後には、大柄な威厳のある男が見えた気がした。
藪蘭は男へ目にも留まらぬ速さで向かうと、雷と風の合わさった一撃を、男へぶつけた。
男は刀でそれを受けると、廻縁の柵を破り、そのまま森の方へと飛ばされて消えて行った。
「素晴らしい。それでこそ―――」
男は最後まで、藪蘭に向かい微笑んでいた。
「はぁ......はぁ......」
藪蘭は全身の力が抜け、その場に片膝を着く。
「さすがに今は、雨粒も答えるな...」
藪蘭が最上階の、屋根の下に戻ると、柱にもたれかかりながら、鯨の方を向く。
「......あれ?オブシディアンさ――」
鯨の背には、灰礬らしき人物が1人しがみついているだけだった。藪蘭がそれを口にした瞬間、鯨の身体に、太い灰色の触手が巻き付き、鯨の動きを封じた。
To be continued.




