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[愛の形、孤独の形]  作者: 情緒不安定
『心と心が通じ合う』
19/31

#18『箱入り殿様』

〈後悔と願いの街?城下町〉



灰礬の情報を基に、3人は城下町へとやって来た。さすがに雨天でも人通りが多く、道行く人々の傘が視界を狭める。直接剣を交えたからか、互いの口調も大分砕けて来た。


「......そういやお前ら、傘は差さないのか?」


『必要ない。』


「風邪引かないから大丈夫だ!」


「それ...風邪引いてるのに気付いてないだけだろ。」


「そういえば、灰礬はなんでその影?を庇ってたんだ?」


灰礬はオブシディアンに話した過去をある程度砕いて話した。


「なるほど...って、もしかして俺達今から神子を倒しに行くのか!?」


「最初にそこの奴が言ってたろ......あとあんま大きい声で言うな。とりあえず、一旦城の方に行ってみるぞ。聞き込みするのは面倒だ。」


2人は灰礬の後を着いて行き、藍方城(らんぽうじょう)へと向かった。



〈藍方城前〉



目的地に着くと同時に、3人は空を見上げる。空に舞う黒い影。それは天守閣の周りを回遊し、その大きさはまるで大鯨の様だった。


「でっか!?」


『......』


「おい、オブシディアン。本当にやるんだな?」


『......』


オブシディアンから返事は返って来なかった。


(呪いは、何故私に移った?私があの神子の呪いを払ったからか?)


(この2人がもしトドメを刺したら......)


頭の中でいくつもの思考を繰り返していると、隣から響く怒鳴り声でそれを終わらせられた。


「おい!」


『......あぁ。』


「そうかい......だったらまず、作戦を練ろう。そうだな......」


灰礬は城の周りを見渡す。


「城の裏に回るぞ。そこなら門番の目にも留まらん。」


「もしかして侵入しようとしてる......?」


「当然だ、この刃が届かんだろうが。」


「まだ前科者にはなりたくないです...」


「ハァ......だったら中のものを盗んだりせず、人殺しにならなきゃいい。そしたら後はあのデカブツ倒せば見逃してくれるだろ。」


「はぁ......」


「まだなんか不満か。無いならさっさと移動するぞ。」


「分かりましたよ......」


藪蘭は不服そうに、2人と城の裏側にある森へ向かった。



〈藍方城、裏山〉



裏側は少し高い塀が立ち塞がるだけで、他には特に何もなかった。森の木々が雨宿りの役割を果たすからか、人込みを抜け出したからか、少しだけ視界が広く感じられた。


「......オブシディアン、お前のその武器、なんだ?」


『......ん?』


「だからお前が使ってた奴だ。腕にはめてるその刃」


「そういえば、あれって何なんですか?」


『っ...』


痛い所を突かれてしまった。だが、こう言う時に便利なものを、オブシディアンは知る事が出来た。


『神子石で出来た刃だ。』


「って事は妖刀なんですね。」


『......あぁ。』


ついでに色々言っておいた方が、リスクはある分色々立ち回りやすくなる。そう思ったが、下手な事は言わないに越した事は無いと、その口を閉ざした。


「じゃあ、計画はこうだ。お前は風で、俺もこの力で道中すっ飛ばして一気に天守閣に登る。オブシディアンはなんかあるか?」


『無くはない』


「チッ、あんのかよ......お前だけ城の中の連中片付けてくれたら俺らの余罪が減ったのによ」


『あんだと?』


「喧嘩してる場合じゃないでしょ!」


「はぁ.....じゃあ、お互い距離を取って一斉に屋根まで飛べ。それからは.....」


「それからは?」


「あとはあのでかいのをどうやって叩くか......」


「あんなに大きなの、たまに海辺で漁師が捌いてる鯨しか見た事無い」


「網で行くのも考えたが、あそこは空中だ。無理だろうな」


『遠距離攻撃ならどうだ?』


「城の奴ら、説得出来たら良いんだが。そしたら銃くらい山ほど持ってるだろ。あとは......」


灰礬は、一つだけ疑問に思い続けていることがある。前に一度ここへ来た事があり、その時はあったが今は無いものがある。


「城には明かりが点いている。人がいる証拠だ。だったら何故、奴らはあれに立ち向かわなかった?まぁ考えても無駄な事だ。あいつらがやらねぇから俺たちがやる。さてと、考えるのもこれくらいにして、さっさとやるぞ。」


3人は互いに距離を取る。オブシディアンは2人の視界から隠れると、2人が天守閣へ向かって構えたのを確認し、水溜まりに潜る。

藪蘭は鞘と刀で強い風を巻き起こし、それによって勢い良く空へと飛びあがる。

灰礬は2本の刀を抜き極限まで低い姿勢を寄ると、彼の後方に無数に伸びた残像がとぐろを巻き、刀が百つもの足の様に動き始め、灰礬の身体は残像に押されながら城の陰を見る見る内に上がって行った。

2人が屋根に辿り着くと同時に、オブシディアンは水面から飛びあがり、片目の文様を隠しながら天守閣の屋根へと着地した。


「ん?何の音じゃ?」

「屋根からだ。でかい雨粒でも当たったか?」

「まぁ、気のせいだろ。こんな天気で瓦に乗ろうもんなら、すぐに滑って下まで真っ逆様だ。」


まさに、着地と同時に足を滑らせた藪蘭が、灰礬にキャッチされていた。


「危なかった.....ありがとう」


「......そうだったな。この雨に慣れちまったせいで気付かなかった。」


『......』


オブシディアンは黒い影の全貌を目にする。刻動の街で見た龍に少し似た頭部、大きな胴、そして、そこから生える海洋哺乳類のヒレ。


「ってあれ、鯨みたいってかまんま鯨じゃないか!」


「さてと......色々試すか。オブシディアン、銃持ってたろ。」


『チッ、言われなくともやろうとしてた。』


オブシディアンは屋根の端に立ち、手から銃口を形成すると、丈の長い衣服が藪蘭の風でなびくと同時に、その内側にある水溜まりから棘を飛ばした。棘は鯨の色合いもあって目で追えなくなったが、当たったかどうか認識する以前に、鯨は全く反応を示さなかった。


「駄目みたいですね...」


『......』


「ん?」


灰礬はふと足元の天守閣の廻縁(まわりえん)を見る。城の主と、目が合ってしまった。


「主ら、ここで何しとるんじゃ?」


「チッ、あのでかいのは、ここでなにしてるんだ?」


「あれはワシのペットじゃ。」


「......は?」


「半月前位じゃったかのう、あっちの山の方からこの城に飛んできてのう?最初は皆銃で撃墜しようと考えたんじゃが、城下町に落下しようものならその被害はそれはそれは大変な事になるわいのうって、一度皆で城から出たんじゃ。そんで城の中だけに留めようと思っとったんじゃがのう。見てる内に愛着が沸いての?ワシのペットにすることにしたんじゃ。危害も加えて来ないし、中々愛いじゃろ?」


「......」


灰礬と傍で聞いていたオブシディアンは眉間にしわを寄せる。最初は感心していたのだが、どうして巨万の富を持つものはいつもこうなのか。


「そうじゃ、折角来たんだし、中で1杯どうじゃ?果汁もあるぞ」

「殿様、お外はお体に障りますから中―へ―――?」


今度は殿と呼ばれた男の護衛と思われる人物と目が合う。


「......」


「おい!!賊が侵入したぞ!!!!殿様!こちらへ避難ください!!」


「やっぱりこうなるか......」


灰礬は和解の可能性を見出していたが、そんなものは始めから無かったようだ。


「仕方ない、囚われる前にあいつに飛び乗るぞ。」


「はい!?」


『最初からそのつもりだったんだろ?』


「まぁ、想定の範囲内だ。」


「......」


灰礬は雨音と共に、少しずつ近付いて来る沢山の兵士の足音を聞きながら、空を舞う鯨を見つめる。


「あのデカブツはお前ら2人でやってくれ。俺は兵士を足止めする。」


『......』


「いいや灰礬、君がやるべきはあの鯨だ。2人共、あの鯨が目的だったんだろ?」


「だが...」


「俺が2人をあの鯨まで飛ばしてあげます。それに、俺のこの力なら、なるべく城の兵士を傷つけずに済むから」


「っ......頼んだ。」


「じゃあ遠慮なく行きますよ!」


藪蘭は刀を鞘に納める。瓦に鞘の先端を打ち、気合いで刀を完全に収める事に成功する。鞘に納めた刀を腰に構えると、2人に向かって空を斬り、2人は鯨の方へと真っ直ぐ飛ばされて行った。


「さてと、」


藪蘭は廻縁に飛び降り、そのまま最上階へと昇って来る兵士達と対峙する。


「あの2人の邪魔はさせない。」


  To be continued.

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