#17『妖刀を継ぐ者』
〈翌日、道場、玄関前〉
「あっという間に約束の日だ。」
『藪蘭はもう行ったのか?』
「あぁ。」
文目とオブシディアンは、玄関先で門の方を眺める。
「私は尖晶の相手しなきゃだから、後から合流するわ。見たかったら1人で行って来てくれ。そんじゃ、あんたも頑張んな。」
『...あぁ。』
オブシディアンは文目が玄関の戸を閉め中に入った後、少しだけ空を見つめ、まつりごとの社へと向かった。
〈後悔と願いの街?まつりごとの社〉
「来たか。」
藪蘭が鳥居を潜り境内に入ると、賽銭箱に寄り掛かる灰礬の姿があった。
「罰当たりな...」
「罰も何も不幸な目にならいくらでもあってる。やれるもんならやってみろだ。」
「はぁ......」
「そんな事はいい。さっさと始めるぞ。」
「あぁ。」
藪蘭は刀を構えると、全身に風を纏った。灰礬も、刀を2本抜き、それを藪蘭に向けた。
「今のお前に加減は要らなそうだな。来い!」
藪蘭は自身の後ろへ刀を振り下ろすと、その反動と勢いで灰礬へ急接近する。灰礬は藪蘭の刃を片方の妖刀で受け止め、もう片方を突き刺すが、藪蘭はそれを躱し距離を取る。
「無論対策済みだ。」
「くっ、」
藪蘭は再び間合いを詰める。攻守一体の立ち回りの灰礬と、機敏な動きで果敢に攻める藪蘭。その横で、オブシディアンもいつの間にか到着しており、鳥居の近くの木陰から2人を見守っていた。
「もっとだ。お前はあの道場で何を学んだ?」
藪蘭はひたすらに刀をぶつけては避けを繰り返す。幸い推進力を風に委ねる事により、体力の消耗を最小限に留められていた。
「フッ、追いついたぞ。」
「なっ!」
灰礬は藪蘭の懐に潜ると、刀を真上に突き上げようとした。その時だった。
「へっ」
藪蘭はそのまま刀の届かぬほど真上に吹き上がり、空中に放り出されると懐から刀の鞘を取り出した。
「何する気だ?」
藪蘭は刀を鞘に納めようとした。だが、その瞬間に強い突風が抵抗を産み、刀は鞘に収まる事を拒んだ。
藪蘭は強引に鞘に納める直前まで持っていくと、それをそのまま自身の真上に構える。
「まさか......」
その間、わずか刹那の間。
〈数刻前......〉
(そういえば、刀は鞘に納めないと駄目だろう。この雨だ。あっという間に錆び―――)
文目が藪蘭の刀を預かり、鞘に納めようとした時、突風が吹き荒れ、近くにあった戸が外れ奥の壁まで飛ばされた。
(......へ?)
(なるほど、まだ鞘に納まりたくないってかい。だったらこっちにも考えがあるよ。)
「そのまさかだ!!」
藪蘭は腕の力を抜き、刀を勢い良く振り下ろすと、風の刃が地面の石畳を真っ二つにした。灰礬は大きく身体を反って、その斬撃からは逃れた。だが、灰礬はその場に留まろうとしてしまった。
「くらえ!!」
藪蘭はそのまま落下と共に灰礬へ斬りかかる。灰礬はその場で一回転し距離を取ると、何とか藪蘭の刃を防ぐ。藪蘭は灰礬に向かって風を起こすと、そのままその反動で距離を取った。
「抜刀術ってとこか、やるな。だったらこっちもマジの本気で―――」
灰礬が言い終えるまでもなく、藪蘭は再び強引に刀を鞘に納めようとする。
「へっ、前に一回だけお前の父親の剣術を見たよ。」
藪蘭は収めかけの突風吹き荒れる刀を構え、踏ん張る。その風は絶え間なく降り注ぐ雨を弾き、草木を激しく揺らしていた。
「今のお前みたいに荒々しく吹き荒れる風を我が物とし―――」
灰礬は足元にある割れた石畳の中から1つ大きな石を拾い上げ、
「それでいて、」
藪蘭に向かってそれを構え、左腕で顔を覆った。
「残心は実に見事なまでに、嵐の後の快晴のように、」
刹那にも満たぬ間に、藪蘭は灰礬の立っている場所を過ぎ去り、背後の少し離れた場所に立っていた。
「静かに、そこに佇んでいた。」
藪蘭が刀を下ろすと同時に、灰礬の持っていた石畳の破片は横一文字に綺麗な断面を造り真っ二つになった。
「それでいい。」
藪蘭は灰礬に歩み寄る。
「体力はまだあるか?」
「当然。」
「フッ、だろうな。」
木蔭に隠れていたオブシディアンも、2人の元へと出て来た。
「本当は全力で相手したかったが、それはまたの機会だ。さてと、本来の目的を果たしに行くか。」
「目的?」
「忘れたのか?そこの奴の言ってた奴だよ。」
『神子の呪いを払いに行くってとこだ。来てくれるか?』
「......!是非!協力させてください。」
『んで、黒い影は今どこに居る?』
「ここから東に真っ直ぐ言った所に居る。ただな......」
「ただ?」
灰礬は頭を掻く。
「藍方城ってとこの上空を迂回してる」
『城なのか?』
「あぁ。幸いそいつは迂回するだけで特に危害は加えて来ないらしいが、生憎城の人間の警備がな。強引に行こうにも、1人じゃ捕らえられて終わりだ。」
「まさか俺達で城に攻め入る気か!?」
「そこまでは言ってないだろ。そしたら俺ら揃ってこの街の敵だ。その風があれば、お前は一気に頂上まで上がれるだろ。俺もこいつの力で外から行く。こっそり忍び入るとまではいかないが、警備を相手しながら登るよりはマシだ。」
「そういえば、オブシディアンさんはどうするんですか?」
『俺も上がる手段ならある。』
「お前だけ警備の相手して貰おうと思ってたんだけどな。」
『あ?』
「まぁ良い。だったら3人で屋根まで上って、そこからあの黒い影の相手する。じゃあ行くぞ。」
「もう行くの!?」
「あぁ。お前もいい加減この雨にうんざりしてるんじゃないか?」
「まぁ......夜出かけられないのは不便だけど...」
「じゃあそのストレスをぶつけてやれ。ほら、さっさと行くぞ。」
灰礬に半ば強引に連れられる藪蘭と共に、オブシディアンもその場を後にする。
『しかし......』
(困った事になった。)
(街に降りかかった呪いは......お前に移ったんだな)
(もし、あの呪いが、この2人に移ったら......)
(もし、お前が犠牲になるとして、その呪いを背負って死ぬつもりなら、頼みがある。)
オブシディアン達はそれぞれの思いを胸に、藍方城へと向かった。
To be continued.




