第3章:勇者の生贄
村人1「早くあいつらを湖の真ん中へ運べ!」
数人の村人が荒木とカイオを閉じ込めた檻を湖の中央まで押し出した。
カイオ「もういいや。どうせ俺たちは勇者だし、それなら解放してくれてもいいんじゃないか?」
村人3「お前が勇者なら、俺は勇者の父親だぞ!」
村人9「でもおじさん、本当に勇者の父親ですよね。」
村人3「あ、そうだっけ。」
カイオ「はあ…やっぱりダメか。」
荒木「うん。」
カイオ「これはマズいことになりそうだ。」
一体何がこの二人に起きたのか。振り返ってみよう。
***(回想)***
あの車の事故から数分歩いた後、荒木とカイオはついに村の門前にたどり着いた。こぢんまりとした村だったが、なかなか賑わっていた。茅葺き屋根の木造家屋が立ち並び、どの家からも煙が立ち上っている。村人たちは行き交い、野菜を売る者、武器を鍛える者、小さな噴水の周りで走り回る子供たち――そんな風景が広がっていた。
カイオ「いい感じだな。」
そして荒木の予想通り――村の広場のど真ん中には、高さ五メートルほどの巨大な空間ゲートがそびえていた。黒い石でできており、青く光るルーン文字がびっしりと刻まれている。ゲートの内部には薄いエネルギー膜がゆらゆらと揺れていた。その周りでは村人たちが荷車に荷物を積み、別の村へと運搬する準備をしている。
カイオが荒木の肘をつついた。
カイオ「おい、当たってるじゃん! 公共バスみたいに使ってるんだな!」
荒木「比喩が違う。」
荒木はゲートをじっくり観察し、ルーンの流れを目で追う。
荒木「どうやらこれは中距離用の転送ゲートで、この世界内の別の地点と繋がっているようだ。だけど、エネルギーの周波数を調整すれば、波長を拡張して地球と接続できるかもしれない。」
カイオ「じゃあ、何をためらってるんだ? 借りに行こうぜ!」
荒木「待て。まずは村長に会う必要がある。これは彼らの財産だ。ちゃんと許可をもらってから使わせてもらおう。」
二人は魚を干している女性に道を尋ね、村で一番大きな家――金色の樫の木の紋章が掲げられた二階建ての木造家屋――へと向かった。村長は白く長い髭を蓄えた老人で、茶色のローブをまとい、縁側でお茶を飲んでいた。
荒木が丁寧に頭を下げる。
荒木「村長様、こんにちは。私たちは遠方から来た旅人です。小さなお願いがあります。あの空間ゲートを数分だけお借りして、故郷に帰りたいのです。」
村長は髭を撫でながら、優しげな目で二人を見つめた。
村長「おお、そなたたちはどこの土地から来たのかね? その服装は見たことがないのう。」
荒木が答える前に、カイオが前に出て、自信満々の笑みを浮かべた――荒木がよく知る、まさに「災いの予兆」というやつだ。
カイオ「私たちは地球から来ました! この世界とはまったく別の次元です! 私はIQ2008の天才科学者で、こいつは何だってできるやつです! トラックに轢かれて死んで、ここに転生したんです! で、あのゲートを借りて帰りたいんですよ。だってこいつ、三週間も待ってたハンバーガーを食べる約束があるんで!」
沈黙。
一羽のカラスが「カーカー」と鳴きながら通り過ぎた。
村長は湯呑みを置き、顔から笑みが消えていった。周囲の村人たちがざわつき始める。荒木は目を閉じ、おなじみの頭痛が襲ってくるのを感じた。
荒木「(小声で)カイオ…なんで商人って言わなかったんだよ。」
カイオ「(小声で)あ、そう言えばそうだったな。」
村人2「『別の次元』だ? 『転生』だ? 何だよ、そいつらの言ってることは!」
村人5「奴らは虚無教団の信者だ! 創造神を冒涜する異端者め!」
村人8「捕まえろ! 水神の裁きを受けさせてやれ!」
荒木は両手を上げて、なんとか事態を収拾しようとする。
荒木「みなさん、落ち着いてください! こいつはただ…話し方がちょっとストレートなだけです! 私たちは異端者じゃありません!」
しかし、すでに群衆は彼らを取り囲んでいた。数人の若者がフォークを、また別の者は鍬を手にし、その目は皆、疑念と敵意に満ちていた。一人の屈強な男が縄を手に前に進み出る。
村人3「お前ら、抵抗するんじゃねえぞ!」
カイオが荒木を見る。荒木もカイオを見る。
カイオ「実は音波兵器でこの連中全員を2秒で気絶させられるんだけど――」
荒木「ダメだ。無実の人を傷つけるわけにはいかない。」
カイオ「でも、こいつら俺たちを怪物の餌にしようとしてるんだぞ!」
荒木「後で説明すればいい。今は捕まろう。」
カイオはため息をつき、肩の力を抜いた。二人は村人たちに縛られ、村はずれの小さな木造の牢獄――実際には病気の家畜を閉じ込める古い檻――に押し込められた。
檻の扉が閉まる。木の格子の間から、村人たちが集まって何やら話し合っているのが見える。彼らは時折、遠くに見える黒い湖を指さしていた――水面が時折不気味に大きな泡を立てるあの湖だ。
カイオは檻の壁に背を預けて、うなだれた。
カイオ「やっぱりダメか。」
荒木「うん。」
カイオ「これはマズいことになりそうだ。」
***(回想終わり)***
村人1「早くあいつらを湖の真ん中へ運べ!」
数人の村人が荒木とカイオを閉じ込めた檻を湖の中央まで押し出した。黒い水面は二つの月の光を受けてきらめき、その深みから、巨大な影がゆっくりと浮かび上がってくる。
泡がますます激しく立ち上る。幹ほどの太さのある触手が水面からゆっくりと現れ、木製の檻に巻き付いた。生臭い魚の腐ったような匂いが空気を満たす。
状況は緊迫しているにもかかわらず、荒木とカイオは驚くほど落ち着いて話していた。
カイオ「実を言うと、俺はここに残ってこの世界を探検してみたいんだ。」
カイオ「知ってるだろ、俺、9ヶ月前に妻と離婚したばかりでさ。正直言うと、それで結構ショックでさ、5ヶ月間酒に溺れてたんだ。」
荒木「俺が行って、酒をやめさせたな。」
カイオ「ああ、それでマシになったよ。」
カイオは指に嵌めた指輪を弄る。それは妻との間に残された唯一の思い出の品だった。
カイオ「俺はあの転送ガンを作って、冒険に飛び込んで、この失恋を忘れようとしたんだ…なのに…」
荒木「自分を責めるな。お前が長く落ち込むような奴じゃないってことは、俺が一番よく知っている。」
カイオ「どうしてそう言える?」
荒木「お前は過去に囚われない奴だろ。あの言葉があるじゃないか。」
荒木「『俺たちは未来に向かって進む。そして、前よりずっと良くなっていく。』」
カイオ「『俺たちは未来に向かって進む。そして、前よりずっと良くなっていく。』」
カイオ「へ…へへ、はははははっ! そうだな…お前の言う通りだ…」
荒木「ところで、俺もここに残ろうと思う。」
カイオ「はあ?! なんでだよ! お前がここに残ったら、あの花屋は廃墟になるぞ! お母さんのところにも誰も行かなくなるじゃないか!」
荒木「どちらも俺の心の中では大事なものだ。カイオ、お前も同じだ。」
荒木「俺はいつも周りから嫌われ、軽蔑されてきた。でも、お前だけは本当に俺を一人の人間として見てくれた。」
荒木「お前はいつだって俺の兄弟だ。」
カイオ「荒木…」
二人はただ座って怪物の攻撃を待っていた。しかし、怪物からの攻撃はまったくなかった。
荒木「おかしいな。」
荒木「この水棲の怪物、なぜ攻撃してこないんだ?」
カイオ「荒木、見ろ!」
カイオが村の方角を指さす。怪物は二人を攻撃せず、陸にいる村人たちを襲っているのだ。
荒木「しまった。奴は標的を変えた。」
カイオ「ちくしょう! 弱い者いじめしか能がないのか!」
荒木が木製の檻を殴り壊し、二人は外に出る。カイオはナノ圧縮マシンを取り出して湖に投げ込むと、それはたちまち一隻のボートへと変形した。
荒木が舵を取り、二人は村へ向けて疾走する。
第3章 終わり




