第2章:ついてなさすぎる。
カイオ「荒木、待ってくれよ!」
カイオが慌てて友達を追いかける。
カイオ「聞いてくれよ、怒ってるのはわかってる。でもさっきのは事故だって! あれは俺の計算外だったんだ!」
荒木「怒ってない。ただあの遠くに見える村に向かって歩いてるだけだ。」
カイオ「おお、見えた見えた。あそこに何かあるのか?」
荒木「ライトノベルで読んだんだが、ああいう村にはたいてい空間ゲートがあるらしい。お前、ゲートの調整はできるか?」
カイオ「うん、できるよ。」
カイオ「調整してほしいのか?」
荒木「ああ。逆転させて、俺たちを元の地球に戻せるようにしてくれ。」
カイオ「いいアイデアだな。でも、あの村に本当にゲートがあるかどうかはわかんないぞ。」
荒木「なければ、手元にある材料で自作するしかない。」
荒木「道具は持ってるのか?」
カイオ「俺の体が道具そのものだよ、荒木。俺は自分の体の98%を機械に改造したって忘れたのか?」
荒木「よし。まだ予備の手段はある。」
荒木が突然立ち止まる。
カイオ「どうした――」
荒木「しっ!」
荒木がカイオの口を塞ぐ。すると同時に、巨大なロボットのような何かが二人の横を通り過ぎた。どうやら彼らの存在には気づいていないようだ。
それが見えなくなると、二人は静かにその後ろ姿を見送った。
カイオ「あれってゴーレムか?」
荒木「いや、ホブゴブリンだ。」
※ホブゴブリン:ゴブリンの進化形、または上位種として描かれる種族。身体能力が高いだけでなく、知性や規律を持ち、軍隊を組織することでも知られる。
カイオ「ちょっと待って、確かに長い耳は見えたけど――でもなんであいつがロボットなんだ?」
荒木「ここは別の世界だ。どんな奇跡だって起こりうる。」
荒木「例えば――今まさにあの泡みたいな生き物がここに落ちてくるってこともな。」
荒木が空を指さす。カイオが見上げると、確かにピンク色の何かが落ちてきている。
カイオ「なんだありゃ?」
荒木がそれをそっと受け止め、地面に置く。
カイオが触れてみる。
カイオ「ぷにぷにしてるな…これ、何だ?」
荒木「どうやら気泡でできているみたいだ。」
カイオ「ふーん…なるほど、だからさっき飛べてたのか。」
カイオ「多分、酸素を吸い込んで気体を溜めて、それで浮いてるんだろうな。」
荒木がその生き物を高く掲げ、そっと空に放つ。ピンク色の泡はゆっくりと舞い上がっていく。
カイオがそれを見送ったかと思うと、突然手を叩く。
カイオ「あ、そうだ! これがあったんだ!」
荒木「今度は何だ?」
カイオがジャケットのポケット――ノート一冊すら入らなそうな小さなポケット――に手を突っ込み、平たい円筒形の装置を取り出す。手のひらサイズで、淡いオレンジ色の光を放っている。
カイオ「ナノ空間圧縮マシン、試作7号機。俺は『魔法の豆』って呼んでる。見てろよ、荒木!」
カイオは装置を地面に置き、中央のボタンを押す。装置が震え、突然展開し、拡張し、変形する――たった3秒で、目の前に銀色の4人乗り乗用車が現れた。まるで未来の自動車ショーから飛び出してきたかのような、つややかな金属ボディだ。ヘッドライトが点灯し、エンジンが静かにうなりをあげる。
カイオは両腕を組んで、得意げに笑う。
カイオ「どうだ? すごいだろ? あ、でもさっきはヘリコプターにすればよかったな。あの野原を飛び越えられればもっと早かったのに。」
荒木は車を見て、それからカイオを見た。感心と不安が入り混じった表情だ。
荒木「お前、運転免許持ってるのか?」
カイオが一瞬固まり、すぐに荒木の肩を抱いて安心させるように言う。
カイオ「もちろん持ってるに決まってるだろ! 俺を誰だと思ってる? 天才科学者の俺が、車くらい運転できないわけないだろ?」
荒木「その逃げ方、怪しすぎるぞ。結局、免許はあるのか?」
カイオはもう運転席に乗り込み、バックミラーをやけに自信満々に調整している。
カイオ「免許なんてただの紙切れだよ、荒木。俺は実験室で3000時間以上の運転シミュレーションを積んだんだ。さあ、乗れよ!」
荒木はため息をついたが、足はもう疲れていた。それに、あの村まではまだ遠い。彼はしぶしぶ助手席のドアを開けて乗り込み、ちゃんとシートベルトを締めた。
カイオ「行くぞ!」
カイオが始動ボタンを押す。車が軽く震え、ダッシュボードがカラフルに輝く。カイオはハンドルを握り、目を輝かせている。
カイオ「目指せ、あの村――!」
彼はアクセルを踏んだ。
車は前に進まなかった。
代わりに、ものすごい勢いで後退した。
ドガッ!!
乾いた衝突音が響く。二人は衝撃で後ろにのけぞった。荒木が後部座席越しに振り返ると――幹が車の倍以上もある大木がどっしりと立っていて、トランクはまるでくしゃくしゃの紙のようにへこんでいた。
カイオ「え……ギア、間違えた。」
荒木は目を閉じて、深く息を吸い込んだ。
荒木「お前……免許、本当に持ってないんだろ?」
カイオ「まあ…厳密に言えば――」
荒木「持ってないんだな?」
カイオ「……うん。」
荒木「じゃあ、この車は? 登録とかは?」
カイオ「個人発明品だよ! 登録なんてあるわけないだろ!」
荒木「お前が所有してる乗り物で、免許を持ってるものはあるのか?」
カイオは沈黙した。そして、ぼそりとつぶやく。
カイオ「俺…自動運転のレンタカーしか使ったことない…」
荒木はドアを開けて車を降り、何も言わずに歩き出した。村の方へ向かって。
カイオは慌てて「魔法の豆」を元の小型カプセルに戻し、追いかける。
カイオ「待ってくれよ! 荒木! 俺は飛行機だって作れるんだぞ! 材料さえあれば――」
荒木「オートマの車すらまともに運転できないやつが、ヘリコプターを操縦できるのか?」
カイオ「えっと…実は、自転車の免許なら――」
荒木「もういい、黙れ。」
二人は青い空の下、紫色の草が広がる野原を歩き続ける。喧嘩する声がどこまでも響き渡る。
第2章 終わり




