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婚約破棄された夜、冷徹公爵の「眠るだけの契約妻」になりました 〜触れない約束なのに、毎晩同じベッドで溺愛されています〜  作者: 藤原朝臣御神常陸介釋寛浩


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第54話 子どもたちは、全員同じ「十一人目の騎士」を描きました

 隔離二日目の朝。


 私が扉を開けると、アレクシスは昨夜と同じ椅子に座っていた。


 正確には。


 座ったまま、眠っていた。


 腕を組み、首を壁へ預けている。足元には、きちんとかけたはずの毛布が半分落ちていた。


 膝の上に置かれた書類には、インクで妙な線が引かれている。


 眠りかけたまま筆を動かしたらしい。


「アレクシス」


 声をかけても、起きない。


 私は扉の内側から、もう少し大きな声で呼んだ。


「アレクシス!」


「起きている」


 目を閉じたまま答えた。


「嘘です」


「眠っていない」


「今、寝ていました」


「考えていた」


「目を閉じて?」


「ああ」


「口も少し開いていましたよ」


 アレクシスが、ようやく目を開ける。


「開いていない」


「見ました」


「証拠は?」


「私です」


「妻の証言だけでは弱い」


「公爵本人の言い訳よりは強いです!」


 廊下の少し離れたところで、ヴィクトール司祭が朝の祈りをしていた。


 こちらを見ないようにしているが、絶対に聞いている。


「部屋で眠ればよかったでしょう」


 私が言うと、アレクシスは落ちた毛布を拾った。


「眠れなかった」


「眠っていました」


「少し意識を失っただけだ」


「それを睡眠と言います」


「お前の呼吸が聞こえたからな」


「扉越しに?」


「ああ」


「それで眠れたんですか」


「ああ」


 嬉しいような。


 呆れるような。


「では、今夜も四歩離れて寝てください」


「三歩だ」


「増やさないでください!」


「昨日、司祭が今日は三歩でもいいと言った」


 ヴィクトール司祭を見る。


「言っておりません」


「顔がそう言っていた」


「神殿では、表情を契約文として扱いません」


「公爵家では扱う」


「今日から扱わないでください」


 司祭がきっぱり答えた。


 この二日で。


 彼もかなり強くなった。


     ◇


 朝食後。


 十一人目の人影について話を聞くため、ガルドさんを屋敷の小会議室へ招いた。


 私は隔離中なので、室内には入れない。


 会議室と隣の控室をつなぐ扉を開け、両側に長机を置く。私は控室側。アレクシスたちは会議室側。


 間には六歩以上の距離がある。


「遠い」


 アレクシスが言った。


「隔離です」


「顔が見えにくい」


「見えています」


「小さい」


「私の大きさは変わっていません!」


「普段より遠い」


「当然です!」


 ガルドさんが、机へ肘をつく。


「始める前に、夫婦の距離について相談が必要か?」


「必要ない」


「ありません」


 私とアレクシスの声が重なる。


「なら始めろ」


 ガルドさんの前には。


 子どもたちが描いた十二枚の絵が並べられていた。


 どの絵にも。


 黒碑。


 倒れた騎士。


 そして。


 黒碑の後ろから彼らを見つめる、顔のない人影。


「この人物に会ったのですね」


 私が尋ねる。


「ああ」


「いつ?」


「神殿に入ってからだ」


「入口ではなく?」


「もっと奥だ。最初の階段を下りて、丸い広間を抜けた先に、細い回廊があった」


 ガルドさんが絵の一枚を指でなぞる。


「そこへ立っていた」


「一人で?」


「ああ」


「武器は?」


「持っていなかったと思う」


「服装は」


「灰色の外套。頭から布をかぶって、顔は見えなかった」


「声は?」


 ヴィクトール司祭が尋ねる。


 ガルドさんは眉を寄せた。


「思い出せねえ」


「男の声か、女の声かも?」


「どっちとも言えた。若くも聞こえたし、老人みたいにも聞こえた」


「魔術による変声の可能性があります」


「俺たちは、神殿の番人だと思った」


 アレクシスが低く言う。


 皆が彼を見る。


「思い出したんですか」


「少しだけだ」


「何を?」


「最初に、そう名乗った」


「神殿の番人と?」


「ああ」


 アレクシスは。


 自分の頭の中に残った欠片を探すように。


 ゆっくり話した。


「俺たちが名乗る前に、全員の名前を知っていた」


「全員?」


「ローディンも。ガルドも。エドガーも」


「それを不審に思わなかったんですか」


 ミレイユが尋ねる。


 ガルドさんが、苦い顔をする。


「思ったさ」


「では、どうしてついていったんです?」


「出口が消えていた」


「消えた?」


「あいつに会った頃には、来た道を戻っても同じ広間へ出るようになっていた。右へ曲がっても左へ曲がっても、黒い石の前に戻された」


「閉じ込められていたのですね」


 ヴィクトール司祭が言う。


「だったら、案内人へ頼るしかねえだろ」


 ガルドさんの声には。


 怒りより。


 自分への苛立ちが混じっていた。


「そいつは何を教えたんです?」


「黒碑へ触れる方法だ」


「ただ触れるだけではなかった?」


「ああ」


 ガルドさんが両手を組む。


「一人ずつ、失いたくない記憶を思い浮かべろと言われた」


「失いたくない記憶」


「死んだ家族。故郷。忘れたくない相手。そういうものだ」


 胸が重くなる。


 黒碑の本来の儀式。


 大切な人を忘れないために。


 痛みごと記憶へ刻みつける。


「皆さんは、何を思い浮かべたのです?」


 私が尋ねると。


 ガルドさんは目を伏せた。


「俺は弟だ」


「弟さん?」


「戦で死んだ。顔を忘れかけてた」


「ローディンさんは」


 ミレイユの声が、小さくなる。


「何を?」


「お前と母親だ」


「……」


「何度も名前を言ってた」


 ミレイユは。


 膝の上で手を握った。


「アレクシスは?」


 私が尋ねる。


 彼は答えなかった。


「言いたくない?」


「違う」


「では」


「思い出せない」


 静かな返事だった。


「俺だけ、何を思ったかが抜けている」


「呪いを受けたから?」


「分からない」


「案内人は、儀式をすればどうなると説明しました?」


 ヴィクトール司祭の問いに。


 ガルドさんが答える。


「痛みを忘れなくなる、と」


「それだけ?」


「忘れなければ、同じ過ちを繰り返さない。死んだ者も、完全には消えない。そう言われた」


「その言葉を信じたのですか」


 ミレイユが問う。


 責めるつもりはなかったのだろう。


 でも。


 声には痛みがあった。


 ガルドさんも、それを感じたらしい。


「信じた」


「どうして」


「お前には馬鹿に見えるかもしれねえ」


「馬鹿とは」


「俺たちは、戦で人を死なせたばかりだった」


 ガルドさんの手が。


 拳になる。


「村を守れなかった。仲間も死んだ。俺だけ飯を食って、眠って、少しずつ顔を忘れていくのが怖かった」


 ミレイユが黙る。


「忘れたら、裏切りだと思った」


 その言葉。


 私にも。


 分かった。


 忘れることは。


 生きるために必要なこともある。


 それでも。


 失ったばかりの人には。


 忘れて楽になる自分が、許せない。


「だから触った」


 ガルドさんが続ける。


「俺も。ローディンも。他の奴らも」


「アレクシスも?」


「あいつは最後まで止めようとした」


 意外な言葉だった。


 アレクシスが顔を上げる。


「俺が?」


「ああ」


「覚えていない」


「お前は、怪しすぎると言った。そんな都合のいい儀式があるかってな」


「それなら、なぜ最後に呪いを」


「俺たちが先に触ったからだ!」


 ガルドさんが机を叩いた。


 絵が揺れる。


「一人目が倒れた。次も。その次もだ。黒い線が腕へ這い上がって、皆が叫び始めた」


「それで?」


「アレクシスが黒碑へ手をついた」


 ガルドさんの声が掠れる。


「全部、自分へ寄こせって」


 アレクシスの表情が固まる。


「そんなことを」


「言った」


「俺が」


「ああ!」


 ガルドさんが睨む。


「だから、お前だけが十年苦しんだ!」


「……」


「俺たちは」


 声が。


 少しずつ崩れる。


「助かったんじゃねえ。お前に押しつけて逃げたんだ」


「違う」


 アレクシスが即座に言った。


「違わねえ!」


「お前たちは、意識を失っていた」


「それでも!」


「ガルドさん」


 私が呼ぶ。


「俺は、止められなかった」


「記憶を操られていた可能性があります」


「だから何だ」


「あなた一人の責任ではないということです」


「そう言われて楽になれってか」


「いいえ」


 私は。


 すぐに否定した。


「楽になれないこともあります」


 どれだけ説明されても。


 自分を許せない夜はある。


「でも」


 続ける。


「責任を正しく分けなければ、次の判断を間違えます」


 ガルドさんがこちらを見る。


「案内人が何をしたのか。なぜ皆さんの記憶から消えたのか。それを調べる必要があります」


「責めるなとは言わねえのか」


「責めたいなら、ご自分を責めても構いません」


 アレクシスが私を見る。


「リリアーヌ」


「止めても、責めるでしょう」


「ああ」


「でも、案内人の責任まで自分のものにしないでください」


 ガルドさんは、長く黙った。


「公爵夫人は」


「はい」


「慰め方が下手だな」


「よく言われます」


「俺は言っていない」


 アレクシスが口を挟む。


「あなたは、もっと言葉が足りません」


「今は俺の話ではない」


「都合の悪いときだけ区別しないでください」


 ガルドさんの口元が。


 ほんの少し動いた。


 笑ったのかもしれない。


     ◇


「案内人が最後に言った言葉を、思い出せますか」


 ヴィクトール司祭が尋ねる。


 ガルドさんは首を振った。


「断片だけだ」


「どんな」


「痛みがどうとか」


 アレクシスが。


 自分のこめかみへ手を当てる。


「待て」


「何です?」


「俺も、聞いた」


 苦しそうに目を閉じる。


「無理に思い出さないでください」


「今、出てきそうだ」


「アレクシス」


「静かに」


 少し腹が立ったが。


 今は黙った。


「痛みを」


 彼が呟く。


「痛みを忘れた者から」


 皆が息を止める。


「次の器になる」


 低い声。


「そう言った」


「次の器?」


 ミレイユが聞き返す。


「何を入れる器です?」


「分からない」


「呪いを?」


「おそらく」


 ヴィクトール司祭が絵を見る。


「公爵閣下が呪いを解いたことで、黒碑は新しい器を探し始めた可能性があります」


「子どもたちを?」


 私の声が強くなる。


「なぜ子どもなんです」


「記憶や感情への抵抗が弱いからかもしれません」


「そんな」


「断定はしておりません」


「私ではなく?」


「公爵夫人にも反応は出ています」


 手首を見る。


 今は。


 何もない。


「子どもたちの夢は、器を選ぶためのもの?」


「あるいは」


 ヴィクトール司祭が、黒い人影を指差す。


「誰かが、黒碑の残滓を使って選ばせている」


「案内人が生きていると?」


「十年前と同じ人物とは限りません」


「弟子や家族」


 ミレイユが言う。


「意思を継いだ誰かも考えられます」


「そうですね」


 私は。


 十二枚の絵を見る。


 似ている。


 でも。


 よく見ると、黒い人影の腕の角度が少しずつ違う。


「ミレイユさん」


「はい」


「薄い紙を持ってきてもらえます?」


「薄い紙?」


「書き写し用のものです」


「あります」


 彼女がすぐに走る。


 アレクシスがこちらを見る。


「何をする」


「絵を重ねます」


「なぜ」


「この人影」


 私は指差す。


「全部、同じ方向を示しているように見えます」


「腕か」


「はい」


 子どもたちは。


 同じ構図で描いてはいない。


 黒碑を右から見た絵。


 左から見た絵。


 正面から見た絵。


 なのに。


 人影の腕だけは。


 いつも画面の端へ向いていた。


     ◇


 薄紙へ。


 黒碑と人影の位置を一枚ずつ写し取った。


 ミレイユが。


 丁寧に重ねていく。


「ずれます」


「黒碑の中心を合わせて」


「こうですか」


「もう少し右」


「奥様から見て?」


「私から見てです」


「私からだと左です」


「では、ミレイユさんの右へ」


「どちらです!」


 隔離のせいで。


 机を挟んで遠くから指示するのは、かなり難しい。


「俺がやる」


 アレクシスが紙へ手を伸ばす。


「触れないでください」


「なぜ」


「今、ミレイユさんが作業しています」


「遅い」


「では公爵様が文官見習いになります?」


「ならない」


「黙って待ってください」


 ミレイユが、深く息を吐く。


「お二人とも、静かにしてください」


「はい」


「分かった」


 私たちは。


 文官見習いに怒られた。


 紙を重ねる。


 それぞれの絵で違って見えた人影の腕が。


 一つの細い線へ重なっていく。


「全部」


 ミレイユが呟く。


「北東を指しています」


「ヴァル村の北東には何が?」


「山です」


 ガルドさんが答える。


「それだけだ」


「古い地図は?」


 私は尋ねる。


「十年前より前のもの」


 ハロルドが。


 すでに用意していた巻物を広げる。


「二十七年前の地税調査図がございます」


「さすがですね」


「公爵夫妻の会議は、必要な資料が増えやすいので」


 地図の北東。


 現在の地図では、森と岩場しかない場所。


 古い地図には。


 小さな建物の記号があった。


「礼拝堂」


 ヴィクトール司祭が読む。


「灰鐘礼拝堂?」


「二十年前の山崩れで放棄されたようです」


 ハロルドが記録を確認する。


「現在の村の台帳には記載がございません」


「子どもたちが遊びに行った旧礼拝堂とは?」


「同じ場所です」


 ミレイユが言う。


「でも、十二人目の少女は行っていない」


「場所へ行かなくても」


 私は黒い線を見る。


「何かが、そこから夢を送っている?」


 アレクシスが立ち上がる。


「今から向かう」


「駄目です」


「なぜ」


「あなたの記憶を消した人物と関係している場所ですよ」


「だから行く」


「一人では?」


「騎士を連れていく」


「ガルドさんと司祭様も」


「俺だけで十分だ」


「十分ではありません!」


「リリアーヌ」


「今回は、あなた自身の記憶が信用できないんです」


 言いにくい。


 でも。


 言わなければならない。


「また操られるかもしれない」


「なら、お前も」


「私は隔離中です」


「解除する」


「あなたが決めないでください!」


「妻が必要だ」


「必要と言えば何でも通ると思わないで!」


 嬉しくないわけではない。


 でも。


 それとこれとは別だ。


「偵察隊を先に出しましょう」


 私は提案した。


「礼拝堂へ入らず、周辺だけ確認する。黒い石や、最近人が出入りした痕跡があるか」


「時間がかかる」


「急いで全員の記憶を消されたら、もっと時間がかかります」


「……」


「明日の朝。情報を揃えてから、本隊を出します」


 アレクシスは。


 明らかに不満そうだった。


「今夜、また子どもが増えたら」


「それでもです」


「リリアーヌ」


「焦っているときほど、一人で決めない約束でしょう」


 長い沈黙。


「分かった」


 ようやく。


 彼が座った。


「偵察隊だけだ」


「はい」


「俺の騎士を出す」


「神殿騎士も二名」


 ヴィクトール司祭が言う。


「不要だ」


「魔術的な痕跡を確認できます」


「信用できない」


「この二日で、少しくらい信用していただけませんか」


「妻を隔離した」


「あなたも同意しました」


「していない」


「最終的には受け入れたでしょう!」


「それを同意とは呼ばない」


「では何と」


「妥協だ」


 ヴィクトール司祭が。


 また天井を見上げる。


「神殿騎士も同行させてください」


 私が言う。


 アレクシスは。


 私と司祭を交互に見た。


「妻が言うなら」


「公爵閣下」


 ヴィクトール司祭の声が低くなる。


「何だ」


「私が言ったときと、態度が違いすぎませんか」


「妻だからな」


「誇ることではありません」


「俺にはなる」


 本当に。


 面倒な夫だった。


     ◇


 偵察隊が出発したのは、昼過ぎ。


 私は隔離部屋へ戻り。


 子どもたちの聞き取り記録を読み直していた。


 十二人。


 年齢も。


 家族も。


 食事も違う。


 共通しているのは。


 ヴァル村で暮らしていること。


 そして。


 同じ黒い人影を夢に見ること。


「奥様」


 扉の外から、ミレイユが呼んだ。


「どうしました?」


「新しい地図をお持ちしました」


「床へ置いてください」


「はい」


 扉を開ける。


 ミレイユは決められた距離まで下がっていた。


 床に置かれた地図を取る。


 そのとき。


 彼女が抱えていた帳簿の間から。


 一通の封筒が落ちた。


「あ」


 ミレイユが、すぐに拾おうとする。


 でも。


 表の文字が見えた。


『ミレイユへ』


 太く。


 少し右へ傾いた字。


 見覚えがある。


「それ」


「何でもありません」


 彼女が封筒を掴む。


「誰からです?」


「分かりません」


「では、なぜ隠すんです」


「隠していません」


「ミレイユさん」


「仕事の手紙です」


「嘘ですね」


 彼女の顔が固まる。


 ローディンさんの手紙を。


 一緒に読んだ。


 あの字を。


 忘れるはずがない。


「お父様の字に似ています」


 私が言うと。


 ミレイユの指が。


 強く封筒を握った。


「似ているだけです」


「ローディンさんが書けるはずはありません」


「分かっています!」


 強い声。


 すぐに。


 ミレイユ自身が驚いた顔をした。


「ごめんなさい」


「中を見せてください」


「嫌です」


「どうして」


「私宛てです」


「危険かもしれません」


「分かっています」


「なら」


「分かっているから、一人で考えさせてください」


 その言葉に。


 私は返事を止めた。


 一人で考えたい。


 そう思う気持ちも。


 分かる。


 でも。


 今は。


 誰かが記憶と痛みを使い、子どもたちを苦しめている。


「ミレイユさん」


「大丈夫です」


「大丈夫ではない顔です」


「奥様に言われたくありません」


「それは」


「何でも一人で抱えないでと言いながら、奥様もよく抱えるでしょう」


 痛いところを突かれた。


「だからこそ、失敗した人間として言っています」


「私は」


 ミレイユが。


 封筒を胸へ押し当てる。


「本当に、少し考えたいだけです」


「今夜、必ず話してください」


「……はい」


「約束できます?」


「はい」


 返事はした。


 でも。


 目を合わせなかった。


 ミレイユが去ったあと。


 廊下に。


 小さな紙片が落ちていることへ気づいた。


 封筒の端から。


 破れて落ちたらしい。


 私は拾う。


 そこには。


 文章の一部だけが残っていた。


『本当の最後を知りたければ』


 その下に。


 もう一行。


『灰鐘礼拝堂へ来い』


 私は。


 すぐに扉を開けた。


「ミレイユさん!」


 廊下の先には。


 もう。


 彼女の姿はなかった。


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