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婚約破棄された夜、冷徹公爵の「眠るだけの契約妻」になりました 〜触れない約束なのに、毎晩同じベッドで溺愛されています〜  作者: 藤原朝臣御神常陸介釋寛浩


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第53話 別々の寝室で眠るだけなのに、夫が神殿へ宣戦布告しました

 条件付き隔離の初日。


 私の寝室は、公爵邸東棟の最も奥にある客室へ移された。


 アレクシスの部屋は西棟。


 本来なら、屋敷の端と端で過ごすはずだった。


 しかし。


「どうして、あなたがここにいるんです?」


 扉を開けた先。


 廊下の中央に。


 アレクシスが座っていた。


 大きな椅子。


 膝の上には分厚い書類。


 足元には毛布と湯たんぽ。


 隣の小机には、紅茶、夜食、インク壺、替えの蝋燭まで用意されている。


 どう見ても。


 一晩中、ここへ居座るための装備だった。


「仕事をしている」


「廊下で?」


「ああ」


「ご自分の執務室があるでしょう」


「遠い」


「隔離ですから!」


「部屋へは入っていない」


「そういう問題ではありません」


「扉にも触れていない」


「今、私が開けました!」


「お前が開けた」


「屁理屈を言わないでください!」


 廊下の少し先には、ヴィクトール司祭と神官二人が立っていた。


 その顔には。


 すでに疲れが見える。


 隔離開始から。


 まだ半刻しか経っていない。


「公爵閣下」


 ヴィクトール司祭が、努めて穏やかに言う。


「ご自身のお部屋へお戻りください」


「嫌だ」


「公爵夫人との接触を避けるための隔離です」


「触れていない」


「距離を取る意味もございます」


「扉一枚ある」


「五歩先へ椅子を動かしていただけませんか」


「嫌だ」


「では三歩」


「嫌だ」


「二歩」


「なぜ俺が神官と交渉している」


「私も同じ疑問を抱いております」


 ヴィクトール司祭が眉間を押さえる。


 少しだけ。


 気の毒になった。


「アレクシス」


「何だ」


「せめて、部屋の向かい側へ」


「お前まで追い払うのか」


「その言い方はずるいです」


「事実だ」


「違います!」


「俺は約束どおり入っていない」


「だからって、扉へ膝が触れそうな位置に座る必要があります?」


「声を聞くためだ」


「普通に話しても聞こえます」


「小さい声は聞こえない」


「小さい声で話しません」


「寝言は」


「聞く必要があります?」


「ああ」


 迷いがない。


「どうして」


「名前を呼ばれるかもしれない」


「寝言で?」


「ああ」


「呼ばなかったら?」


「困る」


「何がです!」


 神官の一人が、顔を伏せて肩を震わせている。


 笑っている。


 絶対に笑っている。


「公爵閣下」


 ヴィクトール司祭が続ける。


「隔離措置を守っていただけない場合、大神殿への移送も検討せざるを得ません」


 空気が変わった。


 アレクシスが。


 静かに書類を閉じる。


「今、何と言った」


「必要があれば、公爵夫人を大神殿の管理施設へ」


「神殿騎士は何人連れてきた」


「閣下」


「十二人だったな」


 低い声。


「屋敷の騎士は、今夜だけで百二十人いる」


「脅迫ですか」


「説明だ」


「何の?」


「戦力差の」


「アレクシス!」


 椅子から立ち上がろうとした夫を、私は扉越しに睨んだ。


「座ってください」


「妻を連れていくと言った」


「検討すると言っただけです!」


「同じだ」


「違います!」


「神殿の馬車が門を出る前に、街道を塞ぐ」


「宣戦布告しないでください!」


「先に向こうが」


「していません!」


 ヴィクトール司祭も。


 さすがに表情を硬くした。


「公爵閣下。大神殿は、公爵夫人を害するつもりではありません」


「信用できない」


「あなたの呪いを調査し、解呪法を探したのも神殿です」


「見つけられなかった」


「それは」


「妻が解いた」


 ヴィクトール司祭が黙る。


「だから」


 アレクシスは私を見る。


「妻を神殿へ渡す理由はない」


 渡す。


 その言葉が気になった。


「私は荷物ではありません」


「ああ」


「神殿へ行くかどうかも、私が決めます」


「行くのか」


「今は行きません」


「今は?」


「必要があれば、調査のために」


「駄目だ」


「また勝手に決める!」


「お前も勝手に行くと言う」


「必要があれば、と言っただけです!」


「同じだ」


「違います!」


 数日前から。


 会話が同じ場所を回っている。


「リリアーヌ」


「何です」


「俺を置いていくな」


 不意に。


 声が低くなった。


 怒りではなく。


 弱い声。


 言葉が止まる。


「七日だけです」


「七日もだ」


「同じ屋敷にいます」


「触れられない」


「はい」


「顔も、扉を開けなければ見えない」


「今は見ています」


「夜は閉める」


「決まりですから」


 アレクシスは。


 私を見つめたまま。


 何も言わない。


 腹が立っていたはずなのに。


 今度は。


 扉を閉めるのが申し訳なくなる。


 ずるい。


 本当に。


「公爵閣下」


 ヴィクトール司祭が、少し声を和らげた。


「廊下に留まること自体は、認めましょう」


「司祭様?」


「ただし、扉から五歩離れる。夜間、扉は閉める。直接、物を受け渡さない。公爵夫人に異変があれば、神官か医師を呼ぶ」


「三歩」


「五歩です」


「四歩」


「……四歩で」


 司祭が折れた。


 アレクシスは椅子を持ち上げ、きっちり四歩下がった。


「満足か」


「私ではなく、司祭様へ聞いてください」


「不満ですが」


 ヴィクトール司祭は疲れた顔で答える。


「今夜は、それで結構です」


「明日は三歩だ」


「毎日近づかないでください!」


     ◇


 隔離生活は。


 思った以上に面倒だった。


 食事は神官が部屋の前まで運び、床へ置く。


 神官が下がったあと、私が扉を開けて取り入れる。


 食器を返すときも同じ。


「冷めています」


 夕食のスープを口へ運びながら言う。


 閉じた扉の向こうから、アレクシスの声が返ってくる。


「俺のもだ」


「あなたも廊下で食べているんですか」


「ああ」


「自室へ戻れば温かい料理が」


「嫌だ」


「どうして」


「お前だけ冷たいものを食べるのは不公平だ」


「一緒に冷たいものを食べても、何も解決しません!」


「気分の問題だ」


「料理長が泣きますよ」


「さっき泣きそうな顔をしていた」


「戻ってください!」


「嫌だ」


 扉越し。


 姿は見えない。


 それでも。


 同じ食事をしている。


 契約結婚を始めた頃。


 同じベッドに寝ながら。


 枕を十個並べて、互いの領域を守った。


 今は。


 扉一枚が。


 あの十個の枕より、ずっと遠く感じる。


「リリアーヌ」


「何です」


「肉は入っているか」


「少し」


「俺のは少ない」


「日頃の行いです」


「豆が多い」


「食べてください」


「見えないのに分かるのか」


「分かります」


「なぜ」


「あなたのことですから」


 扉の向こうが。


 少し静かになる。


「何です?」


「いや」


「言ってください」


「お前は、俺のことをよく知っている」


「夫ですから」


「ああ」


「何です、その返事は」


「嬉しかった」


 顔が熱くなる。


 扉があってよかった。


「食事中に言わないでください」


「いつならいい」


「分かりません」


「では、また言う」


「予告しないでください!」


     ◇


 夜八時。


 医師の診察を受けた。


 手首に呪印は出ていない。


 熱もない。


 頭痛も胸の痛みもなし。


 銀の検査具は、朝と同じ程度に黒く曇った。


「変化はありません」


 医師が記録する。


「子どもたちは?」


「ヴァル村から、最新の報告が届いております」


 ヴィクトール司祭が、封書を開いた。


「不眠が改善した者は?」


「おりません」


 胸が沈む。


「私が離れても?」


「はい」


「なら、私が近くにいることが直接の原因ではない可能性が」


「高まりました」


 司祭は認めた。


「では隔離を終えますか」


 扉の外から、アレクシスが言う。


「まだ一日目です」


「妻が原因ではない」


「現時点で、そう断定はできません」


「では何日あればいい」


「七日です」


「長い」


「決めたでしょう!」


 私が扉へ向かって言う。


「一日で十分だった」


「あなたが決めることではありません」


「俺も当事者だ」


「私の隔離ですよ?」


「妻の隔離は夫の問題でもある」


「便利に夫婦を使わないでください!」


「お前も使う」


「私は必要なときだけです!」


「俺もだ」


 ヴィクトール司祭が。


 静かに天井を見上げた。


「司祭様」


「何でしょう」


「疲れています?」


「いいえ」


「嘘ですね」


「異端審問官は、多様な状況に対応する訓練を受けております」


「夫婦喧嘩も?」


「今回、必要性を痛感しております」


 そのとき。


 廊下を走る足音がした。


「失礼いたします!」


 ミレイユだった。


 息を切らし、手紙を握っている。


「どうしました?」


「ヴァル村から追加の伝令です」


「今、報告を」


「十二人目です」


 全員が黙る。


「新たに?」


「はい。今日の夕方から、九歳の少女が眠れなくなったと」


「私が村を離れてからですね」


「三日後です」


 ヴィクトール司祭が、手紙を受け取る。


 読み進めるほど。


 表情が硬くなった。


「少女は、旧礼拝堂へ行きましたか」


「行っていないそうです」


「では、最初の七人との接点は?」


「学校です。ですが」


 ミレイユが一度、言葉を切った。


「眠れなくなった少女の家は、学校からかなり離れています。水も別の井戸を使っている。食事も共通していません」


「それなのに」


「同じ夢を見たと」


「黒い石の部屋?」


「はい」


 私は寝台の端へ座った。


 私が原因ではない。


 そう分かれば安心すると思っていた。


 けれど。


 子どもが増えた。


 安心など。


 できるはずがない。


「もう一つあります」


 ミレイユが、筒状に巻かれた紙を何枚も机へ置いた。


「子どもたちに描かせた絵です」


 ヴィクトール司祭が、一枚を広げる。


 黒い石。


 その周りに。


 人の形が描かれている。


「騎士たちですね」


 私が言う。


「数えてください」


 ミレイユの声が硬い。


「一、二、三……」


 神殿探索隊。


 亡くなった九人。


 そして、アレクシス。


 十人。


 そのはずだった。


「十一人いる」


 アレクシスが。


 扉の向こうから言った。


「はい」


 全員の絵に。


 十一人。


 一人だけ。


 顔が真っ黒に塗り潰されている。


「同じ人物ですか」


「服装も、立っている位置もほぼ同じです」


 ミレイユが別の絵を広げる。


「どの絵でも、黒碑の後ろ。アレクシス様たちを見ている」


「子ども同士で相談した可能性は」


 ヴィクトール司祭が問う。


「別々の部屋で描かせました」


「誰かが、事前に同じ話を」


「それなら、十二人目の少女まで同じ人物を描く理由がありません」


 彼女は。


 学校へ行った日数も少ない。


 旧礼拝堂へも行っていない。


 それでも。


 同じ十一人目を描いた。


「アレクシス」


 私は扉を見る。


「探索隊は、本当に十人だったんですか」


「俺を含めて十人だ」


「案内人は?」


「神殿まで案内した猟師は、入口で戻った」


「荷物持ちや神官は?」


「いない」


「では、この人は」


「分からない」


 アレクシスの声が。


 初めて。


 揺れた。


「だが」


「何です」


「見覚えがある」


 私は立ち上がる。


「誰です?」


「思い出せない」


「服装は?」


「騎士ではない」


「でも、あなたは今」


「絵の立ち方だ」


 低い声。


「黒碑の後ろから、俺たちを見ていた」


「誰かがいたんですか」


「分からない」


「アレクシス」


「記憶が」


 扉の向こうで。


 息を呑む音がした。


「そこだけ、抜けている」


 呪いは。


 痛みだけではなく。


 何かの記憶まで。


 奪っていた?


「ガルドさんを呼びましょう」


 ミレイユが言う。


「生き残った他の方なら」


「すぐに」


 ヴィクトール司祭が神官へ命じる。


 その間にも。


 私は絵を見つめた。


 黒い顔。


 細い身体。


 騎士たちの輪から外れ。


 黒碑の後ろに立つ人影。


「リリアーヌ」


 扉の向こうから呼ばれる。


「何です」


「今夜は扉を開けろ」


「駄目です」


「記憶が戻るかもしれない」


「だからこそ、医師と司祭様がいます」


「お前のそばに」


「来ないでください」


 自分で言って。


 胸が痛んだ。


 アレクシスも。


 黙った。


「ごめんなさい」


「謝るな」


「でも」


「分かっている」


 短い声。


 扉一枚。


 手を伸ばせば。


 触れられる距離。


 それでも。


 今夜は触れないと決めた。


     ◇


 就寝時刻になっても。


 眠れなかった。


 灯りを消し。


 寝台へ入る。


 扉の向こうでは、アレクシスが椅子に座っている。


 紙をめくる音。


 ときどき。


 咳払い。


「まだいます?」


「いる」


「仕事は?」


「終わった」


「寝ないんですか」


「寝る」


「どこで?」


「ここで」


「椅子ですよ?」


「ああ」


「身体を痛めます」


「お前が扉を開ければ寝台がある」


「開けません!」


「なら椅子で寝る」


「脅迫ですか」


「選択だ」


「私に罪悪感を持たせる選択肢しかない!」


 毛布を頭までかぶる。


 少しして。


「リリアーヌ」


「何です」


「眠れない」


「まだ横にもなっていないでしょう」


「お前の呼吸が聞こえない」


 毛布を下ろす。


「今、話しているので生きています」


「話していないときが分からない」


「毎晩、呼吸を聞いていたんですか」


「ああ」


「いつから?」


「最初から」


「契約結婚の夜から?」


「ああ」


「怖いです」


「なぜ」


「寝ている間、ずっと確認されていたからです!」


「お前も俺の胸へ手を置いていた」


「呪いの痛みを確認するためです」


「同じだ」


「違います」


「呼吸と心臓だ」


「そういう分類の話ではありません!」


 でも。


 私も。


 アレクシスの呼吸を聞いて眠っていた。


 胸が痛んでいないか。


 悪夢を見ていないか。


 それだけではなく。


 そこにいることを。


 毎晩、確かめていた。


「私も」


 扉へ向かって言う。


「何だ」


「眠れません」


「なぜ」


「あなたの音が遠いからです」


 廊下が静かになる。


「近づいていいか」


「四歩の約束です」


「一歩だけ」


「駄目です」


「では、お前が扉へ近づけ」


「私も隔離中です!」


「扉には触れなくていい」


 私は寝台を出た。


 毛布を肩へ巻き。


 扉の前まで歩く。


「ここにいます」


「ああ」


 扉の向こうから。


 衣擦れの音。


 アレクシスも。


 たぶん床へ座った。


「手を」


 言いかけて。


 止めた。


 触れられない。


「何です?」


「何でもない」


「言ってください」


「手を握りたい」


 胸が苦しくなる。


「私もです」


「開けるか」


「開けません」


「ああ」


「怒りません?」


「怒っている」


「どちらですか」


「怒っているが、開けろとは言わない」


 成長。


 と呼んでいいのかは分からない。


「アレクシス」


「何だ」


「私」


 言葉を選ぶ。


「同じベッドで眠ることを、あなたに必要とされている証明にしていたのかもしれません」


「どういう意味だ」


「呪いがあった頃は、私がいなければあなたは眠れなかった」


「ああ」


「呪いが消えてからも、あなたは私がいないと眠れないと言ってくれた」


「ああ」


「嬉しかったんです」


 扉へ背を預ける。


「妻として。女として。誰かに選ばれたと、毎晩確認できたから」


 以前の婚約。


 七年。


 どれほど役に立っても。


 選ばれなかった。


 だから。


 アレクシスが私を求めるたび。


 安心していた。


「別々に眠っても」


 私は続ける。


「私たちは夫婦ですよね」


「ああ」


 迷いのない返事。


「触れられない夜があっても?」


「ああ」


「私が、あなたを眠らせられなくても?」


「関係ない」


「本当に?」


「俺がお前を妻にしたのは、睡眠薬にするためではない」


「言い方が」


「眠れないのは困るが」


「やっぱり困るんですね」


「ああ」


「でも?」


「それでも、お前は妻だ」


 扉一枚を隔てた向こう。


 顔は見えない。


 触れられない。


 それでも。


 言葉は届く。


「私も」


 小さく言う。


「あなたが眠れなくても、夫です」


「それは当然だ」


「私にも言わせてください」


「ああ」


「かなり面倒な夫ですけど」


「お前もだ」


「知っています」


 少し笑う。


 扉の向こうからも。


 小さな息が漏れた。


「眠れそうか」


「少し」


「寝台へ戻れ」


「あなたも部屋へ」


「嫌だ」


「まだそこは譲らないんですね」


「ああ」


 私は扉から離れる。


「おやすみなさい」


「おやすみ」


「朝まで、椅子から落ちないでください」


「落ちない」


「毛布をきちんとかけて」


「ああ」


「豆も残さないで」


「今関係あるか」


「あります」


「リリアーヌ」


「何です」


「明日も妻か」


 足を止める。


「はい」


「明後日も?」


「はい」


「七日後も?」


「はい」


「なら寝る」


「確認が多すぎます」


「毎回、はいと答えると言った」


 春祭りでの。


 二度目の求婚。


「覚えていたんですね」


「一生覚えている」


「では、何度でも聞いてください」


「ああ」


 寝台へ戻る。


 目を閉じる。


 扉一枚。


 近くて。


 遠い。


 それでも。


 もう。


 置いていかれたとは思わなかった。


     ◇


 翌朝。


 ガルドさんが到着した。


 眠っていない顔で。


 十一枚の絵を見た彼は。


 最初の一枚で。


 手を止めた。


「この男」


「知っているんですか」


 ミレイユが尋ねる。


 ガルドさんの顔から。


 血の気が引いていく。


「騎士じゃねえ」


「では、誰です?」


「案内人だ」


 アレクシスが立ち上がる。


「猟師は入口で帰った」


「あいつじゃねえ」


「なら」


 ガルドさんは。


 黒く塗り潰された顔を見つめた。


「神殿の中で会った」


 部屋が静まる。


「名前は?」


「名乗らなかった」


「男か女か」


「分からねえ」


「なぜ忘れていた」


「忘れたんじゃない」


 ガルドさんの指が。


 わずかに震える。


「思い出さないようにされてたんだ」


 十一人目の人影。


 公式記録にない案内人。


 そして。


 子どもたちの夢。


「そいつは」


 ガルドさんが掠れた声で言った。


「黒碑へ触る方法を、俺たちに教えた人間だ」


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