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第18話:図書塔の死闘と、執事の矜持

学園の喧騒から離れた図書塔の影。夕闇が濃くなる中、カイルと王国の隠密部隊『影の手』が対峙していた。

 構成員は五人。いずれもクロムウェル王国が誇る暗殺の専門家であり、音もなく標的を仕留める「死の猟犬」たちだ。


「カイル、貴様も元は王国の公爵家に仕える身。今の主がどれほど国を窮地に追い込んでいるか理解しているはずだ。アルティナ嬢を引き渡せば、お前の命だけは助けてやる」


「……耳が腐りそうな言い草ですね」


カイルは低く、そして冷徹に言い放った。彼の琥珀色の瞳は、闇の中で獣のように鈍い光を放っている。


「国が滅びようが、民が飢えようが、私には関係のないこと。私の世界は、あのお方の背中がある場所――ただそれだけです。それを汚そうとする不届き者は、たとえ神であろうと私が断つ」


「……交渉決裂だな。殺せ!」


指揮官の合図とともに、五人の隠密が四方八方から同時に飛び出した。

 彼らの手には魔力で強化された黒い短剣。さらに、空気中に麻痺毒を含んだ針が散布される。


だが、カイルは微動だにしない。

 彼は深く息を吐くと、腰の長刀を抜き放つことなく、指先で自身の影に触れた。


「砂漠の隠密術――『影縫かげぬい』」


瞬間、隠密たちの動きがピタリと止まった。

 彼らの足元の影が、まるで生き物のように伸び、自身の持ち主を縛り上げていたのだ。


「な……っ!? 影を操る術だと!? 貴様、砂漠の一族の――」


「お喋りが過ぎますね」


カイルの姿が掻き消えた。

 次の瞬間、彼は指揮官の背後に音もなく立ち、その首筋に冷たい指先を添えていた。


「お嬢様は今、学園での生活を楽しんでおられる。その輝きを、王国の薄汚れた政治ままごとで曇らせることは許さない。……死にたくなければ、主に伝えなさい。――次に現れる刺客は、この私自ら王都まで追い、その喉を掻き切る、とな」


カイルが指先に力を込めると、凄まじい衝撃波が五人の隠密を吹き飛ばした。

 彼らは一言も発することなく、闇の中へと転がっていく。


***


一方、学園のカフェテラス。

 アルティナは、特待生専用の高級なケーキを優雅に味わっていた。


「あら、カイル。戻ったのね。……少し、砂の匂いがするわよ?」


アルティナは、背後に現れたカイルを振り返ることなく、フォークを口に運んだ。


「失礼いたしました。少々、不躾な野良犬が迷い込んでおりましたので、追い払ってまいりました。……お嬢様、ケーキのお味はいかがですか?」


「最高よ。……でも、一つ足りないわ。カイルの淹れた珈琲がないもの」


「すぐに、最高の一杯をご用意いたします」


カイルが優雅に一礼する。その所作には、先ほどまでの冷酷な暗殺者の面影は微塵もない。

 だが、二人は理解していた。

 王国の執念が、レオナードの独断を超え、もはや国家の存亡を賭けた「奪還作戦」へと変貌していることを。


「カイル。明日の実技は『集団戦』だそうよ。……王国が何を仕掛けてこようと、まとめて叩き切ってあげる。……私たちはもう、誰の所有物でもないのだから」


「……御意。その剣の輝き、私が末永く守り抜きましょう」


月光の下、最強の主従は静かに、しかし決然と、次なる嵐を待ち構えていた。

 アルカディア魔法学園を舞台にした、王国との全面対決の幕が上がろうとしている。

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