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第14話:五百対二――絶望を知らぬ者たち

黄金都市ガザの中央広場。照りつける太陽が石畳を焼き、陽炎の向こう側で五百の私兵がアルティナとカイルを包囲していた。

 彼らは、ならず者の集まりとはいえ、聖教国から支給された最新鋭の魔導鎧を纏い、一人一人が一騎当千の「自称・戦士」である。


「カイル、準備はいい? 私、少し本気で動くから、巻き込まれないでね」


アルティナが軽く肩を回すと、彼女を中心に空気が歪み始めた。

 最強の剣聖が放つプレッシャー――それは物理的な重圧となり、最前列にいた兵士たちの膝をガクガクと震わせる。


「ご心配なく。お嬢様の剣筋は、目をつぶっていても把握しております。……雑兵の相手は私にお任せください」


カイルが低く構える。彼の周囲に、砂漠の熱風を巻き込んだ「影」の渦が生まれた。


「生意気なガキどもが! 蹂躙せよッ!!」


アブドゥルの大斧が振り下ろされたのを合図に、鋼の津波が二人へと押し寄せた。


――だが、その「津波」は、銀の閃光によって一瞬で両断される。


「グラナート流・抜剣術――『一華いっか』」


アルティナが地を滑るように踏み出した。

 速すぎて残像すら見えない。

 彼女が通り過ぎた後には、魔導鎧を紙細工のように切り裂かれた兵士たちが、自分の身に何が起きたのかも理解できぬまま、次々と地面に転がっていく。


剣を振るうたびに、銀色の弧が空中に描かれる。

 アルティナは舞を踊るかのように優雅に動き、それでいて放たれる一撃一撃は、鉄壁の守りを誇る盾を粉砕し、槍の穂先を弾き飛ばした。


「化け物か……っ!? 魔法も使わずに、これほどの出力を!」


一方、カイルの戦いぶりは、正に「死神」そのものだった。

 彼は影から影へと転移するように姿を消しては現れ、兵士たちの急所を的確に突いていく。長刀が閃くたびに、噴き上がる血飛沫が砂に染み込む。

 故郷を蹂躙した者たちへの怒り。それを彼は、冷酷なまでに効率的な「排除」へと変えていた。


「どうしたの? 五百人もいて、私のドレスに指一本触れられないのかしら」


アルティナは返り血一滴浴びていない。

 彼女の周囲十メートルは、踏み込んだ瞬間に命を失う「死の領域」と化していた。


「おのれ……おのれぇっ! 役立たずどもめ! どけッ、俺がやる!!」


焦れたアブドゥルが、配下を突き飛ばして前に出た。

 彼は魔力増幅薬を喉に流し込み、血管を浮き上がらせて咆哮した。その筋肉は異常な膨張を見せ、皮膚の下で魔力が暴走している。


「俺は……砂漠の王だ! 聖教国から『真の勇者』として認められた男だ! こんな小娘に負けてたまるかぁぁ!!」


身の丈を超える巨大な斧が、アルティナの頭上から振り下ろされる。

 薬物によって無理やり引き上げられた出力。その威力は、建物一つを容易に粉砕するだろう。


だが、アルティナは剣を構え直すことさえしなかった。

 彼女は冷ややかな瞳で、暴走する大男を見つめる。


「……勇者? あなたのような醜い強欲を、そう呼ぶのね。……私の知る勇者は、もっと潔くて、もっと美しかったわ」


アルティナの剣先が、微かに震えた。

 それは、空気の振動を捉え、物理法則を書き換えるための予備動作。


「カイル。……仕上げよ」


「心得ました」


カイルがアブドゥルの死角に回り込み、その巨大な斧の柄を足場にして跳躍した。

 驚愕に目を見開くアブドゥル。その隙に、アルティナの極大の一撃が放たれる。


「グラナート流奥義――『天墜てんつい』」


垂直に振り下ろされた剣筋。

 それはアブドゥルの斧を、そして彼が誇った分厚い筋肉を、さらには背後の黄金都市の王座までも――一筋の光の線となって、深々と、真っ二つに両断した。


ズズズ……ドォォォォン!!


王座が崩れ落ち、土煙が舞う。

 広場にいた兵士たちは、自分たちの主君が文字通り「縦二つ」に割れた光景を目の当たりにし、武器を捨てて逃げ惑った。


「……終わったわね。カイル、怪我はない?」


アルティナは剣の血を払い、鞘に収めた。

 カイルは彼女の隣に静かに着地し、深く頭を下げた。


「お見事です、お嬢様。……これで、この街の毒は抜けました」


カイルの瞳からは、長年彼を縛り付けていた憎悪の炎が消え、代わりに晴れやかな決意が宿っていた。

 彼は壊れた王座の残骸から、一つの古びた小箱を見つけ出し、アルティナに捧げた。


「これが、一族が守り続けてきた秘宝『太陽の涙』です。……お嬢様。これからは、これを貴女の旅の道標に」


「ふふ。……重いわよ、私の道標になるのは」


アルティナはその箱をカイルの手ごと握りしめ、微笑んだ。


「さぁ、行きましょう。……次は、海を越えた先にある『魔法学園』にでも行ってみようかしら。最強の剣士が学園に入ったら、どんな顔をされるか見ものだわ」


「……お嬢様。それは、また一段と派手な騒ぎになりそうですね」


最強の主従は、崩れゆく黄金の都を背に、新たな大陸へと続く街道を歩き始めた。

 彼女たちの伝説は、砂漠を越え、さらに広大な世界へと広がっていく。

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