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第13話:砂漠の王アブドゥルと、渇いた牙

宿場町を恐怖と静寂に叩き落としたアルティナたちは、バザールから奪い取った砂漠専用の大型馬車を駆り、北の「黄金都市ガザ」を目指していた。

 陽光はますます苛烈さを増し、空気は肺を焼くほどに乾燥している。だが、馬車の車内はカイルが展開した小規模な結界魔法により、奇跡的な涼しさが保たれていた。


「……見えてきたわ。あれが、あなたの言っていた『黄金の都』?」


アルティナが馬車の窓から顔を出すと、砂塵のカーテンの向こうに、巨大な岩山を削り出して作られた壮麗な都市のシルエットが浮かび上がっていた。

 夕陽に照らされた岩肌は、かつての栄華を象徴するかのように黄金色に輝いている。しかし、その街並みを支配しているのは、静謐な歴史ではなく、暴力と略奪の臭いだった。


「左様でございます。……かつては砂漠の民が神と崇めた聖域でしたが、今は見る影もありません。アブドゥルとその手下たちが、聖教国から横流しされた魔導兵器を並べて悦に入っているだけの、ただの巣窟です」


カイルの声は、氷のように冷たく響いた。

 彼の瞳には、かつて家族と過ごした日々の残像と、それを焼き尽くした炎の記憶が重なっている。


「アブドゥル……。自称『砂漠の王』ね。カイル、あそこにいる連中、全員叩き切っても文句はないわね?」


「……お嬢様のお手を煩わせるまでもありません。ゴミの処分は、下僕の役目ですので」


「いいえ。これはあなたの復讐よ、カイル。でも、私が一番楽しむ権利があるの。……だって、私の大切な従者を悲しませた連中なんですもの」


アルティナは、鞘から数センチだけ剣を抜き、その美しい刃紋を確認した。彼女の「最強」は、守るべき者の痛みを知るたびに、より鋭利に、より冷徹に研ぎ澄まされていく。


***


黄金都市ガザの正門。

 そこには、聖教国から供給された魔導式の大弩バリスタが配置され、重武装の兵士たちが睨みを利かせていた。


「止まれッ! ここは王アブドゥル様の領土だ! 通行証のない者は、命を置いて――」


「退屈な挨拶はもういいわ」


アルティナが馬車の屋根に飛び乗り、優雅に扇子を広げた。

 彼女の銀髪が熱風に踊り、その美しさに兵士たちが一瞬、言葉を失う。


「アブドゥルに伝えなさい。……『あなたの街を掃除しに来たから、首を洗って待っていなさい』と」


「……何だと!? 舐めるなッ! 放てぇ!!」


兵士の号令と共に、巨大な鉄の矢が、轟音を立てて放たれた。一射で城壁をも貫くその威力。

 だが、アルティナは動じない。


「カイル」


「御意」


アルティナの背後から影が飛び出した。

 カイルは空中で長刀を抜き放つと、飛来する巨大な鉄の矢を、正面から真っ二つに両断した。切断された矢は、アルティナの左右をかすめて砂地に突き刺さる。


「……え?」


兵士たちが目を剥く。

 その驚愕が消えるより早く、カイルは城壁の上へ、重力を無視したような跳躍を見せた。


「グラナート家従者、カイル。……お嬢様の進路を塞ぐ愚か者は、私が断つ」


死神の鎌のような一閃。

 カイルの長刀が血の軌跡を描き、正門の守備兵たちが次々と沈んでいく。


「……ふふ、やっぱり砂漠に入ってからのあなたは、キレが違うわね」


アルティナは馬車から軽やかに飛び降りると、無人となった正門を堂々と潜った。

 街の中には、騒ぎを聞きつけたアブドゥルの私兵たちが続々と集まってくる。その数、五百。

 中央の広場では、豪華な椅子に座り、数人の美女を侍らせた巨漢の男――アブドゥルが、不敵な笑みを浮かべて待っていた。


「ほう。……たった二人で、この黄金都市に乗り込んでくるとはな。……銀髪の令嬢よ、貴様が聖教国で暴れたという小娘か」


アブドゥルが立ち上がり、身の丈を超える巨大な斧を担いだ。

 その身体からは、魔力増幅薬ポーションの副作用による、どす黒い闘気が立ち上っている。


「私の名は、アブドゥル。この砂漠の支配者だ。……貴様を捕らえ、聖教国に差し出せば、俺は真の『王』になれる。……死にたくなければ、今すぐ膝を突け!」


「王、ね……。エドワード殿下といい、あなたといい、どうして男の人って、自分の実力に不釣り合いな肩書きを欲しがるのかしら」


アルティナは剣を抜き、切っ先をアブドゥルの鼻先に向けた。


「教えてあげるわ。……真の強者には、肩書きも、神の加護も、薬の助けもいらない。……ただ、この一振りがあればいいのよ」


「……殺せぇッ!! 骨の一片も残すな!!」


アブドゥルの叫びと共に、五百の兵士が一斉にアルティナたちへ殺到する。

 黄金都市ガザを舞台にした、血と砂の宴が、最高潮に達しようとしていた。

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