第1599話 そして、夏休みは終わっていく
学者さんはエバンスに案内されて地下礼拝場への螺旋階段を上っていった。
私とアダベルとヒルダさんは地下通路をポコポコ歩く。
マメちゃんが影から出て、足下に纏わり付くから抱きかかえて移動する。
「夏休み最終日の一日をのんびりすごすつもりだったのになあ」
「まあ、夏の終わりとはそういう物ですよ」
「楽しかったなあ、いろいろな所へ行って遊んだなあ」
アダベルがしみじみと言った。
「そうね、凄く楽しかったわね」
超沢山遊んだなあ。
今回、判ったのは、飛空艇があると、凄く遠くまで行けて楽しい、という事だね。
この世界の移動速度が基本は徒歩で、最速で帆船の速度なので、それを越えて空を前世のジェット機の速度で飛びまわれるのはチートなんだよなあ。
夏の後半は徒歩巡礼旅でぐっと速力は落ちたけど、道中の印象は徒歩旅の方が強いね。
山岳、湖沼、宿の匂い、美味しい物不味い物、おしゃべりをしながらトコトコと歩いて夜にはへとへとで寝てしまう。
やっぱり徒歩旅も良いんだよねえ。
うんうん。
結局、旅は早くても遅くても楽しいというのが結論だね。
「そいじゃ、私は帰る、またなー、マコト、ヒルダ」
「おやすみー」
「またお会いしましょうね」
アダベルは笑って手を振って女子寮の玄関から外へ飛びだしていった。
食堂が開くまで、ちょっと時間があったので、玄関ロビーの応接ソファーにヒルダさんと座り込んだ。
「明日から二学期かあ、楽しい時間はあっという間に過ぎるね」
「ジーン皇国からも、アライド王国からも留学生が来ますね、領袖を中心とした大陸の外交戦は王立魔法学園で始まりそうです」
「そんなそんな、ヒルダさんは大げさだなあ」
ヒルダさんに何言ってのか、この凡俗はという目で見られましたよ。
「領袖がジーン皇国の陰謀を打ち破った時から、大陸の諜報戦の舞台はアップルトン王都ですよ。二学期からは政府機関も本腰を入れて外交戦となるのです。領袖もしっかりしてくださいませ」
「へい、すいません」
ヒルダさんは目を閉じて肩をすくめた。
「まあ、そうは言われても、こちらからの外交戦略はないので受け身になるしか無いから、私は良いのです。適当に出来る事をするだけです」
「まあ、領袖でしたらそうですね」
一学期は暴れに暴れたからなあ。
まあ、別に私から攻めて行った事は一つも無く、全体的に迎撃聖女さまなんだけどね。
柱時計が六時を告げたので、ヒルダさんと立ち上がりエレベーターホールへ行った。
派閥の人達はもう集まっていて、合流して食堂へ入る。
「クララ、今日のお献立は?」
「夏休みを送り出す為に、ブロウライト牛のミニステーキね。あんたがもってきてくれたやつ」
「おお、良いね」
「あとはハムサラダ、カボチャのポタージュスープ、黒パンね」
「それは楽しみ」
私はトレイにお料理を乗せて行き、最後にカップに冷めたお茶をケトルから注いだ。
テーブルに持っていき、皆が揃うまで待つ。
今日は二学期直前という事で、帰省していた生徒も戻って、ひさびさに食堂が活気を取り戻しているね。
「いただきます」
「「「「「日々の粮を女神に感謝します」」」」」
みなさん揃ったのでお食事のご挨拶の後、晩餐である。
パクリ。
うまうまうま。
というか、ブロウライト牛の美味しさは確定してたのだけど、イルダさんのソースが美味しさを高めているねえ。
やっぱり女子寮食堂は水準が高いや。
「美味しいわね、カーチスの領のお肉」
「殿の領は牧畜が盛んだみょんからなあ」
「私も将来はブロウライト牛を育てるのだろうか。今のうちに調べておくべきか」
カーチスは人を見る目があるから、牧畜にピッカリン家の人間を使ったりはしないだろう。
ピッカリン家は騎士以外に使い道が無い。
ああ、付け合わせのジャガイモと、人参を甘く煮た奴がおいしいね。
夏の終わりをザ・ご馳走という感じのステーキで締めるのはよろしいなあ。
とてもよろしいなあ。
「今日は、新しい集会室で夏休みの宿題をいたしましたの、とても居心地が良い部屋ですわ」
「もう、完全に引っ越しされたの?」
「はい、うちのカリーナと、シャーリーさんたちがやってくれましたわ」
ああ、ハウスメイド系の人が中心になって引っ越し作業をしてくれたのか。
ありがたいねえ。
あとで見に行ってみるかな。
「マコトは食後で悪いけど、聖女の湯の素を作って欲しいのよ」
「あ、そうだね。カロルの部屋に行って鍋をかきまぜようか」
「おねがいね。王家に渡す分が足りなくなりそうで」
王家分なんか待たせておけばいいやん、とは思うけど、商会の信用的にダメなのかもしれないね。
うんうん、宵はのんびりカロルの部屋で錬金して過ごそうか。
などと、ダルシーが入れてくれた食後のお茶を飲みながら考えたのであった。
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