第1594話 魔族たちを蒼穹の覇者号に積みこむ
牢屋の鍵を開け、魔族たちを外に出した。
魔封の首輪を付けているので今はまだ脅威では無い。
「本当に良いのか、聖女よ」
「ずっと牢屋だと可哀想だし、手間もお金も要るしね」
「それはそうじゃが」
ゴブリンのパットミル博士が表情を曇らせた。
「俺達を騙して郊外で処刑して埋めるのだろうっ」
白手のリッツオが、そう毒づいた。
「そんな面倒な事はしない。処刑するなら一人づつ執行してガドラガの縦穴に放り込めば良いだけだろ」
「そ、それはそうだが、きっとお前には悪辣な陰謀が、俺らが助かったと安心した所で大虐殺などを行うかもしれん」
「んじゃ、お前だけ牢屋にいろ」
「ぐぬぬ」
牢の鍵を開けると、意外に素直にリッツオは出て来た。
「魔封の首輪は魔国の端っこで外すね」
「あ、ああ、それでかまわんぞ」
「んじゃ、みんなこっちだ」
魔族たちを連れて地階から教会の外に出た。
久々の日の下だからか、皆、目を細めていた。
まあ、ドッペルゲンガーの目は只の穴なので、表情はよめないけどね。
「おう、聖女さん、来たぞ」
「来ましたよん、ひひっ」
「来たぜい」
「来た」
「魔族も上がって来たのう」
五本指が声をかけてきた。
全員集合だな。
「助かるよ」
「どうって事無いぜ、いつも世話になってるからな」
ブルーノが笑った。
あからさまに強そうな五本指を見て、魔族たちの緊張感もギリギリとあがる。
「さあ、蒼穹の覇者号に入って入って」
「みなさん、こちらへどうぞ」
ダルシーが魔族たちを先導していった。
「俺らは廊下で見張ってるか?」
「まあ、開かないようにドアはロックするけど、廊下でも睨みをきかせておいてよ」
「わかったぜ」
ペスやジョン、ポチが廊下をうろうろしているな。
魔族は二等船室と三等船室に押し込めた。
私はメイン操縦室に入り、艇長席によじ登った。
アダベルがピョンと副艇長席に飛び乗った。
「よし、行こう、マコト」
「そうだね」
というか、君は副艇長席で何をするつもりか。
まあ、いいや。
私は出力レバーを押し上げ蒼穹の覇者号を離陸させた。
「しかし、魔国の国境はどこだ?」
「サイズが無くなりましたから、ジーン皇国の北の端ですわね」
「結構遠そうだね、ヒルダさん」
「遠いですわよ、ただ荒れ地が多いので、適当な所で魔族たちを放逐できるかと思われます」
「街か村の近くで放り出せばいいか」
ザスキアは適当にジーン領地で捨てられたが、魔族は面倒臭いな。
「とりあえず高高度飛行で時間を稼ごう」
「そうですわね」
私は操舵輪を引いて蒼穹の覇者号を上昇させた。
しばらく高度を上げると一万グレイドを越え、雲海の上に出た。
マップを見ながら方位を調整して飛行する。
【自動操縦に移ります、お疲れ様ですマスターマコト】
「よろしくね、エイダさん」
やっぱり雲海の上は独特の雰囲気でいいな。
ダルシーがお茶を運んできてくれた。
ありがとうありがとう。
船内モニターを見ると、魔族さんたちは大人しくしているようだね。
「魔国に美味い物はあるのか?」
「北方ですしね、無いかもしれませんわ」
「がっかりだなあ」
アダベルの良い所の規準が美味しい物がある場所でおもしろいね。
お茶を飲みながら空を見ている。
しかし、飛空艇とは凄い物だよなあ。
世界がずいぶん小さくなったね。
「昼はどうする? 魔国で食べるか?」
「いやあ、それは危ないよ」
魔国に食べ物屋とかあるのかね?
「魔族さんたちを下ろしてから、ジーンに戻って食べた方がよろしいでしょうね」
「ジーン料理か!」
地方都市でレストランとかに入ろうか。
名産とかあるだろうか。
あ、旧サイズ王国でご飯を食べるか。
ディーマーの領地なら軍隊におっかけられたりはしないだろう。
そうするかな。
本を読んだり、お茶を飲んだりして、一時間ほどしたら、旧サイズ王国上空に到達したようだ。
【そろそろ魔国領空です】
「判ったわ、ありがとうエイダさん」
自動操縦を切り、コントロールを取り戻す。
操舵輪を押し下げ船を降下させていく。
眼下には荒涼とした荒れ地が広がっていた。
「街は無いの?」
【もう少しすると北に見えてまいります】
お、見えて来た。
あまり街に近いと警備兵呼ばれるかもしれないから、まあほどほどの距離で捨てるかな。
とはいえ、道の近くが良いな。
歩いて一時間ぐらいの距離が良いか。
私は目視で、荒野の平べったい場所を探し、着陸させた。
「よし」
「ついたか」
「到着だよ、アダベル」
私は伝声管の蓋を開けた。
「お知らせします。艇長のマコト・キンボールです。当船は目的地の魔国国境の荒れ地に到着しました。魔族のみなさんは、ダルシーの先導で押し合わず、下船をお願いします」
船内ディスプレイではダルシーが魔族さんを先導して廊下を移動する所が映っていた。
五本指が睨みを利かせているね。
私は艇長席から降りて、メイン操縦室を出た。
アダベルも一緒に来た。
魔族よりも先にタラップを下りて地上に降りる。
おお、夏なのに結構すずしいというか、寒い感じだな。
凄い北なんだな。
魔族さんたちがぞろぞろと下りてきた。
私は収納袋から魔封の首輪の鍵を取りだし、番号を合わせてドッペルゲンガーさんから外していった。
脅威度の高いダーキンとリッツオは最後だな。
「ああ、ありがとう、聖女さん、だが、良いのか?」
「良いよ、というか、魔国の政府に処刑されるかもしれないから用心しなよ」
「ああ、そうだな」
基本的に魔族といっても、普通の人間とそう変わらない感じよな。
良い奴もいるし、ヤナ奴もいるわけで。
「ダーキンとリッツオの鍵は、お前さん達が行ってから、ワシが開けようか?」
「気にするな博士よ」
パットミル博士が気を使って来たが、まあ、必要なし。
ダーキンの首輪の鍵を外し、リッツオの物も開いた。
「みなっ、チャンスだ!! 聖女の首をとれ!!」
リッツオが叫び、両手に凍気を集め始めた。
五本指が一瞬で戦闘態勢を取った。
リッツオ以外の魔族は動かなかった。
私も別に動かない。
「な、なぜだっ!!」
「うるせえ」
ダーキンが影の中にリッツオを落とした。
「こいつはさあ、こう言わないと我慢ができなかったんだ、ゆるしとくれよ、聖女さん」
「ああ」
「世話になったな」
「気にすんな、こっちがしたくて親切にしてるだけだよ」
「ああ、そういう嫌な生き物じゃな、聖女とは」
ふんわりと良い笑顔でパットミル博士は笑った。
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