○ちょっとした企み
正式名称はPhysical Search Engine C+F。
普段はシーエフと呼んでいるそうな。
50cm×50cm×30cmの金属製の箱を準備する。自由に移動できるよう箱の底面に2列のキャタピラを配置する。箱の上面には垂直上向きに伸びた2本の腕を取り付ける。腕の関節の数は品部曰く7つだそうだ。その数に何の意味があるのかは分からないけれども、品部がやたらと7つというところを強調するせいで何となく覚えてしまった。
腕の先端には5本指の手が付いている。もちろん何かを掴むためのもので、掴むからにはシーエフは掴む対象を認識する必要がある。そのために箱の上面には伸縮可能な太い支柱に支えられたカメラが2つ並行に付けられている。支柱の先端でカメラは向きを変えられるようになっていて、シーエフはカメラをロール・ピッチ・ヨー(これも品部がなんども言うから覚えた)に細かく回転させながら部室内をキャタピラでうろうろとし、何かを見つけてはそれを掴み上げて位置を変えて回っている。
以上が俺の見たロボット、シーエフのありのままの姿だ。
会話ができると聞いて人型のロボットを想像していたせいでその如何にもメカメカしい外見は予想外かつちょっとばかりチープに見えて、あれが本当にしゃべるんだろうかと始めは疑ってしまった。
でも。
室内をうろちょろするシーエフを観察しているうちにそんな疑念はあっさり吹き飛んだ。
「あれ、ビー玉だよな?」
シーエフが床からつまみあげたものについて尋ねる。隣の品部は部室の中を覗き込みながら、
「そのようだ」
「一応聞くけど、あれって何やってるんだ?」
「何をやっているように見える?」
質問に質問で返す品部に、俺は思ったまま答える。
「掃除してたら何か珍しいものを見つけたから面白がって遊んでる」
「ああ、僕にもそういう風に見える。だが、あいつを作った身としてはこうも解釈できてしまう。部屋の整理タスクをこなしていたところ、データバンクにない対象を発見したため、対象を把握するべく画像その他のデータ採取をしている」
品部の説明は何だか固い。そんな説明じゃあまるで、
「なんかロボットみたいだな」
「そりゃロボットだからな」
品部が苦笑いする。そりゃそうだ。……いや違う。何だこのもどかしさは。
「うーん、ロボットはロボットなんだけどさ」
もう一度窓の向こうを観察する。何の変哲もないビー玉を大事そうに掲げ、興味津々で覗き込むシーエフの姿には、ロボットという単語が似つかわしくないように思える。
「工藤の言いたいことも分かる。確かにあれは決められた動作をしてるようには見えない。自分の意志でビー玉に興味を持って覗き込んでるように見える。だが、そう見えるだけだ。シーエフが本当に何かの意志を持って行動しているのか、僕らには知ることができない。少なくとも一からあいつを作った僕らとしてはどうしても心からそうだと信じられない」
「難しく考えすぎなだけじゃないか?」
「かもしれない。だから、僕は工藤に期待している。先入観のない工藤なら何か僕では思いつかない方法で、僕らにあいつのことを信じさせてくれるかもしれない」
俺を見つめる工藤の話は妙に固いというか重いというか、そりゃあシーエフを作った身としてはそれだけ真剣な話なのかも知れないけれども、
「そんな大層な話されてもなあ。俺にできるのなんてあいつの友達になるくらいだと思うぞ。面白そうだし」
「それだ!」
品部が俺の両肩をバシバシ叩く。不意打ちに驚かされた俺は抗議の意味を込めた強い口調で、
「は?」
「それだよ、工藤」
「いや、どれだよ」
「だから……、いや詳しく説明するのは野暮か。とにかくそれで構わない。工藤、シーエフの友達になってやってくれ。いいだろう?」
「そりゃあいいけどさ。――って人見知りなんだろ? 俺が話しかけたら固まるんだろ?」
「そこはうまい具合に何とかしてくれ」
「何とかってなあ」
窓の向こうのシーエフは相変わらずビー玉を覗き込んでいる。一心不乱にキラキラとカメラのレンズを輝かせる姿はなんだかとても純粋無垢な子供のように見えて、だからなのか俺は少しシーエフをからかってみたくなった。品部に耳打ちをする。
「じゃあさ、俺が今から――」




