○ロボ研へ
グラウンドに響く野球部の掛け声をBGMに品部が言う事には、ロボ研は人と区別がつかないくらい自然なコミュニケーションを可能とするロボットを作り上げたのだそうだ。少なくとも品部と、もう一人の部員である叶能心華はそう思っている。これはまだ世界の誰も実現していないことで、だからこそ品部は今慎重に自分たちが作り上げたものを見定めようとしているのだそうだ。
本当にこのロボットは人間の言う事を「理解」しているのか。
会話の中の単語を適当に捕まえて組み替えてそれらしく応答しているだけじゃないのか。
実際に開発した身としては色々と深読みしてしまうのだそうだ。だから、開発に関わっていない人間にそのロボットとコミュニケーションしてみてもらいたい。そして、感じたところを素直に聞かせて欲しい。
俺に期待されているのはそんな役割だった。
なるほど、あれだけ自信満々に言うだけあって、品部の話は途方もなく面白そうだ。
実際の完成度がどの程度なのかは置いておいても、そのロボットと一度は会話してみたいと思える。ただ、ちょっと気になるのは、
「でもさ、話すだけなら適当に誰か捕まえてちょっと遊びに来てもらえばいいだけじゃないか? 別に部員にしなくたってさ」
前を行く品部は心なしか肩を落として、
「何人か前に誘ってはみたのだ。だが駄目だった」
「なんで?」
がしがしと頭を掻いて唸る品部は歩みを緩めず前を向いたまま答える。
「あいつは人見知りでな。初対面では一言も喋らないどころか微動だにしないんだ。それに気付くまでに5人に部室に来てもらった。動きもしないロボットを見たみんなは曖昧に笑いながら帰ってその後二度と来なかったよ……。それでロボ研のロボットは動きもしないポンコツだって噂が流れてしまってな。最近は声をかけても誰もついてこない」
なるほど、それで噂を知らない転校生の俺ならば、と声をかけたわけだ。半ば騙しうちだけれども、俺に聞かれて正直に話してしまうあたりどうにも品部を憎めない。
前に立って歩く品部はピンと背筋を伸ばすと、真剣な口調で続ける。
「だから今日の対面であいつが動かなかったとしても、定期的に部室に来て少し長い目であいつと付き合ってみて欲しい。それさえしてもらえるのなら入部にこだわるわけではない。だがもちろん」
こちらを振り返った品部は「入部してくれるのならそれがベストだが」と笑う。
「まあ何はともあれ、そのロボットを見てからかな。で、ここがそうなのか?」
品部の後に付いて辿りついた先、体育館裏にその建物はあった。見た目をそのまま言うなら――倉庫だ。なんと感想を述べたものか迷っていると、
「見た目は悪いが敷地は広いんだぞ。ほら」
建物の側面に回った品部が手招きをする。ついて行ってみると確かに正面の幅だけではなく奥行きもかなりある。
「ここ、ロボ研だけで使ってるのか?」
「ああ。元は体育用具の倉庫だったんだが、他所に新しいのができてな。取り壊す予定だったところにねじ込んだ。何かと作業面積が必要な活動なのでな」
そんなもんを奪いとって部室にしてしまう辺り、品部はかなり行動力と政治力があるのだろう。何か困ったことがあったら頼ってみようと心の中でメモを取る。
「では早速うちのロボットに会ってもらおう」
そう言った品部は正面の左端にあるドアに戻ろうとする。
「ちょっと待った」
俺の制止に「なんだ」と品部が振り返る。
「そのロボットって人見知りなんだろ? 俺に会ったら動かなくなるんだよな?」
「おそらくは」
「だったら」
俺は部室側面に見つけた窓を指さす。
「先にあそこから覗いてもいいか?」




