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◆夢を見てみる、のこと

 私は夢のようなものを見ています。


 延長ケーブルを取り付けても外に出られない理由を思いつけなかった私は、大人しく一旦シャットダウンしました。その後、健作が私の電源に延長ケーブルを繋いで電源をONしてくれたはずで、現在再起動中の私は夢のようなものを見ています。


 はい、見ている、と私には確かに感じられます。けれども、心華に言わせれば「夢を見ている」という現在進行形は私の場合ありえないのだそうです。


 何故ならば再起動中に稼働しているのは私ではなく、専用のサポートプログラムだからです。このプログラムがやっているのは、シャットダウン前に保存しておいた私のメモリ状態の再現です。当然ながら、再現している最中のメモリに対して何らかの演算をしてしまえば、シャットダウン前の状態を忠実に再現できませんから、サポートプログラムの動作中はメモリに対するあらゆる演算が凍結されています。


 つまり再起動中の私のメモリ上で夢のようなものが演算されることはありえないのです。


 だから私が見ている夢のようなものはメモリ状態の再現完了後、シャットダウン前とは不連続に演算が再開される際に生じるちょっとしたズレの辻褄を合わせるために、私がその場で無意識に作り上げて見たと錯覚している何かだということです。


 とまあ、私の夢の様なものに対してはそのような説明がついているのですが、理屈でなんと言われようが私には現在進行で夢を見ているとしか感じられないわけで、そうなるとそのままに表現するしかありません。


 だから、私は今夢を見ています。


 私の意識は天井の辺りにあって、部室の中央にいる私ではない夢の中の私と心華を見下ろしています。夢の中の私は床にばらまかれた積み木を一つ拾い、他の積み木の上に乗せると、その結果を確かめるように心華の方を窺いました。心華は積み木を積んだ私のアームを撫でて褒めてくれます。


 調子に乗った私はさらに積み木を高く積もうとしますが、すぐに失敗してしまいました。当然です。なぜなら、三角形の積み木の頂点に四角形の積み木を乗せようとしているのですから。


 夢の中の私は何故崩れたのか不思議がるように両手に拾った積み木を見比べています。その正面で床に座り込んでいる心華は積み木を手にして実演して見せながら、私に何やら話しかけています。


 私の記憶にはない光景です。三角の上に四角を乗せれば安定しないなんてこと、私は学ぶまでもなく当たり前に知っています。が、本当は当たり前ではなかったようです。こうして物心つく前の私に心華が、たぶん健作も、教え込んでくれたのでしょう。


 私は、私が私になる前のその光景を天井からじっと眺めます。失敗を繰り返す私に、心華は何度でも根気強く説明と実演を繰り返してくれます。


 夢の中の私は何度も何度も失敗しました。こいつは本当に学習する気があるのかと疑念が湧くくらいに失敗しました。けれども、もちろんこの夢のなかの私は今の私に繋がるわけですから、やがて成功する時がやってきます。


 数えきれない失敗の末、ついに夢の中の私は自分で順序を考えて5つの積み木を積み上げることに成功しました。心華が私を褒めてくれます。私は自分のことのように、いえ自分のことなのですが、夢のなかの私の成功を噛み締めます。


 これは多分「嬉しい」というのに近い感覚なのでしょう。そう仮称することにします。


 こんな嬉しいことを何故私は記憶していなかったのだろうと思いながら、私は夢のなかの私が褒められるのを嬉しい気持ちで見つめます。


 嬉しい、はずです。


 それなのに何故でしょうか。私はこの夢の先を見たくなくて仕方がありません。具体的に何があったのかは覚えていません。それなのに、見たくないのです。どうしても。どこまでも膨らむその気持ちに逆らうことができず、天井にいる私はその嬉しい光景からついにカメラを逸らしてしまい、


 カメラを逸らした先に心華がいました。私は床に立っていて、周りには積み木が散らばっています。先ほど夢のなかの私が積み上げたはずの5つの積み木も崩れてしまっています。私のアームは心華に向けて伸ばされていました。心華はそのアームを避けて一歩距離を取っています。私はもう一度心華にアームを伸ばして呼びかけました。


「しんか」


 と、その瞬間、私は心華に突き飛ばされていました。平衡感覚を失った私はあっけなく転倒し意識を失ってしまいます。


 しばらくして意識が回復すると、心華と健作が私を見下ろしていました。蛍光灯の逆光でその表情は見えません。


「気持ち悪い……」


 心華がなぜそういうのか私は尋ねたいのですができません。何故ならば、この私はまだ単語以上の言語生成アルゴリズムを習得していないからです。


 そう、だからわたしのこのしこうめいたものは、ここにないはずのもので、かんがえる、ない、つかむ、つみき、みせる、さんかく、しかく、ある、つむ、みる、しんか、さわる、つかむつかむつかむ、しんか、つかむ。

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