2-2 学部での嶺
紗良は水場へ戻った。みちるが、嶺の背中を見ている。
「……普通にやってもらうんですね」
「手、塞がってたから」
「まあ、そうですけど」
みちるは少し笑った。
「嶺って、日向先輩には素直ですね」
「そうかな」
「私だったら、たぶん自分でどうにかすると思います」
紗良も笑う。
「相馬くん、年上には結構甘えるタイプなのかも」
「嶺が、ですか」
「うん。年上から結構可愛がられてるし。頼り方が上手いのかも」
少し生意気なくせに、頼るところでは自然に頼る。そういうところも含めて、高校の頃から上級生にもよく可愛がられていた。
「へえ」
「私も弟がいるからつい世話を焼いてしまうかも」
みちるは少し意外そうだった。
「学部だと、あんまりそういう感じじゃないですけどね」
「そうなの?」
「人に頼むことはありますけど、普通に必要なこと頼むだけっていうか。こんな感じで袖捲ってください、とか見たことないです」
「みちるちゃんは同級生だからじゃない?」
紗良にとっては、それで説明がついた。
「相馬くんとは授業も一緒になったりするの?」
「けっこう被ってますね」
「授業、ちゃんと受けてる?」
みちるは少し考えた。
「うーん。講義中、結構寝てます」
「寝るんだ」
「はい。去年それで普通に単位落としてました」
紗良は思わず笑った。
「出席足りなかったらしくて」
「大丈夫なの」
「まあ必修じゃなかったんで。でも要領がいいんですよね。試験前になったら人に要点聞いたり、ノート見せてもらったりして、なんだかんだ必要なやつは取るんですよね」
「ああ。それは想像できる」
「昔からそんな感じかも」
「やっぱり」
二人で笑った。研ぎ終えた米に水を張る。そのまま飯盒を持って火の近くへ移動し、炊く準備を始めた。みちるが火加減を覗き込みながら言う。
「あと、結構モテてます」
「相馬くん?」
「はい。見た目いいし、頭の回転早いし」
「そうだね」
紗良は素直に頷いた。嶺は人の中心にいるタイプだ。高校でも、部活でもそれ以外の時も、いつも人に囲まれていた。
「学部でも人気ありますよ。この前も一年の子に告られてました」
「へえ」
「でも好きな人いるからって断ったらしいです」
「そうなんだ」
紗良の手が、ほんの少しだけ止まった。
「本人から聞いたわけじゃないですけど。噂で」
「そうなんだ」
「結構はっきりしてますよね。興味ない相手に変に期待させるようなことはしないし」
「へえ」
「優しいから勘違いされることはあるみたいですけど、曖昧にして引っ張るとかはしないですね」
紗良は炎を見つめた。
「それは、わかるかも」
興味のない相手には、期待させるようなことをしない。その言葉が、少し引っかかった。嶺は昔から、ふいに近づいてくることがある。けれどいつも、何事もなかったように後輩の位置へ戻っていく。今まで、それ以上の意味を考えないようにしていた。
そのとき、近くを通りかかった嶺が足を止めた。
「何の話してるんですか」
「嶺の話」
みちるがあっさり答える。嶺は一瞬だけ紗良を見た。
「何」
「単位落としたとか」
「必修じゃないです」
嶺は紗良を見ていった。
「私に言ってどうするの」
紗良は笑った。
「鷹村、余計なこと言うなよ」
「余計なことって」
「……色々」
「嘘はいってないけど?」
「その辺にしといて」
嶺はそのまま作業へ戻っていった。みちると紗良は顔を見合わせて笑った。
学部の友達といる時の顔は、昔からの知り合いには見せたくないのかもしれない。その気持ちは、何となく分かる。
*いいねやコメント励みになります
*Kindleでも同名の続編を配信しています。
まとめて読みたい方は、そちらもぜひ。




