前番は少女と夜を過ごす
あの後、僕はユナに連れられて彼女の家に来ていた。
ユナに部屋で待っていてと言われ彼女の部屋で待機していた。
少女とは言え女性の部屋に上がり込んでいる状況に落ち着かず、ソファに浅く座り、手をモジモジと動かしていた。
ユナは今、食堂で家族と食事をしている。
隠し事が苦手だから…と、家族には僕を連れて来たことを話すと言っていたけれど…。
上手く話せているだろうか?と僕は不安で一杯になっていた。
何しろユナ以外には僕の姿は見えない様で、ユナの家族の横に立っても認識されなかったのだから。
一時間弱の時間が過ぎ、部屋の扉がコンコンッと鳴った。
扉の向こうの相手はユナだと分かっていても、ソファに座ったまま姿勢を伸ばし身構えてしまう。
「ファレンさん?ただいま戻りました!」
「おかえりなさい…、ユナ。どうでしたか?」
「お父様もお母様も半分信じられないような顔してたけど、わたしに危害を与えそうにないからいいんじゃない?と笑ってました!」
「…そ、そうか…。それなら良かった。」
余りにもあっさりと御家族から了承がもらえたことに拍子抜けして無難な返答をしていた。
「…あ、それと、家にいる時は出来るだけわたしの隣に居てほしいの。家族はファレンさんの姿が見えないから、ぶつかったり踏み潰したりしないか心配だと言ってたから。」
「踏み潰したり…?僕の身体は透明だから大丈夫だよ。…ふふ、ユナの御家族は優しいのだね。ありがとう、ユナの側に居させてもらうね。」
「うん!ファレンさんはもう家族だからね!短い間かもしれないけど、よろしくね!…わたしの着替えの時と湯浴みの時はダメだけど…それ以外は一緒に過ごそうね!ベッドも広いから二人で寝られるし!」
「うん…わかっ……………。え…!?…僕、ユナと一緒に寝るの!?いや…、嫌とかじゃないけど、…ユナはいいの?」
「もちろん!…変かな?」
「変と言うか……、いや、ユナがいいなら僕は側に居られて嬉しいけど…。」
「じゃあ、決まりだね!」
…決まってしまった!
…い、いいのだろうか?
…いや、こんな少女相手に意識する僕がおかしいのか!?
…いや、でも、貴族のご令嬢と一緒に寝るって…、いやいや…、僕、女性と二人で寝たこと無いぞ…いや、相手は少女だし…、いや…。
急展開に僕の脳内は語彙力も無くなり爆発しそうになっていた。
「そろそろ侍女さんが、湯浴みに連れてってくれるから、戻って来たら一緒に寝ようね!ファレンさんに聞きたいこと、たくさんあるの!」
そんな僕の脳内に気付かないユナは、そう言って元気良く部屋を出て行ってしまった。
…はぁ〜〜。僕、大丈夫かなぁ。…あああ!
いい年した大人が、少女と寝ることを想像して顔を真っ赤にしながら立ち尽くしているのであった。
ーーコンコンッ
本日二度目の部屋の扉をノックする音が聞こえて彼女が扉を開ける。
「ファレンさん!…戻りました!」
「…お、おかえり。」
ドキッ…!彼女の声で心臓が飛び跳ねる。
何とか一言返答し、赤い顔を背ける。
正面を向くことが出来ず、ちらりと横目でユナに視線を向けると、お風呂上がりの良い香りと、仄かに香る"つがい"の匂いに心臓が落ち着くどころかドクドクッ…と鳴り始めている。
「ファレンさん?…ずっと立ってたの!?顔も赤いし、具合悪い?」
「…いや、だ、大丈夫だよ!ユナこそ今日は疲れてないかい?」
「うん!わたしは平気よ!…それよりファレンさんは何の獣人なの?番がいたなら獣人さんよね?」
そう言いながら彼女は僕の手を引きソファに座らせ、座った僕の隣に彼女も腰掛けた。
「僕は狐だよ。狐の獣人だ。」
「…あー、確かに!言われてみれば狐さんみたいな髪色だし、尻尾みたいにふわふわの髪質だね!…獣人さんはみんな綺麗な顔立ちだから羨ましいな〜…。」
「ユナも綺麗だよ、とっても…。」
「う〜ん…、そうかな?ありがとう!」
ユナは不思議な少女だ。
さっきまであんなに緊張していたのが嘘の様に安心する。
成仏することを望んでいた僕が、消えるのが寂しいと、もっと一緒に居たいと思い始めていた。
「あ…!もうこんな時間!そろそろ寝よう!ファレンさん、一緒にベッド行こう!」
「あ、…うん。」
時計に視線を向けると10時を指していた。
躊躇いつつも彼女の隣を歩く。
恥ずかしさや理性よりも、少しでも側に居たい気持ちが上回り一緒に寝ることにした。
彼女は掛け布団を手で半分持ち上げてベッド右奥に入り、僕を隣に誘導するようにベッドの左側をぽふぽふと手で触った。僕は恐る恐る彼女の横に上がり込み座る。
彼女は既に眠そうなトロンとした目をしながら枕に頭を乗せていた。
そして、一言寝言でも言うかの様に小さな声で呟いて眠りに着いた。
「…ファレンさん、明日起きて居なかったら寂しいなぁ…。」と
「僕もユナと離れるのは寂しいよ。でも…、離れていても、ずっと、ずっと、愛していますよ。」
静かな寝息を立て始めた彼女は聞いていないと分かりながら、僕は愛の言葉を囁いた。
そして、彼女の頭を宝物のように優しく、優しく撫でながら一夜を明かした。
明日も彼女の側に居られたらいいなと願いながら…。




