わたしは前番に出会う
わたしはユナ・クレナシア、11歳。
男爵家の娘だ。
王都にある貴族の邸宅に父と母と兄の4人で暮らしている。
わたしには生まれた時から前世の記憶があった。
といっても記憶にあるのは名前と15歳で病死したことだけなのだけれど。
そして、11歳の春に不思議な夢を見た。
『ランロレス』と彫られたお墓の夢だった。
その名前は前世の名前と同じだった。
夢の中でそのお墓の近くから若い男性が泣いている声も聞こえた。
内容としてはホラーな悪夢でも見ているのかと思う場面なのに、夢にしてはあまりにも映像が鮮明で、残酷で、悲痛で、恐怖心よりも焦燥感を覚えた。
起きてからも、あの夢が気掛かりだった。
朝食を食べても、家族に話し掛けられても、部屋に戻ってからも上の空だった。
居ても立ってもいられずに家を出てあのお墓へ向かったのは、時計が11時を差した頃だった。
夢で見たお墓までの道を記憶を辿って進むと、驚くほどに夢と景色が同じだった。
そして、一度しか見ていないはずの夢の景色を、鮮明に思い出せる自分にも不思議でならなかった。
「あの夢に呼ばれている」と、そんな気がした。
記憶を辿り、お墓の付近までやってきた。
其処には手入れが行き届いた花々に囲まれた墓地が広がっていた。
ゆっくり、ゆっくりと、墓地の敷地へと歩みを進めた。
敷地の中心より少し端の列に探していたお墓を見つけた。
夢で見た場所に『ランロレス』と彫られた一般的な墓石が其処に存在していた。
じーーっとその墓を見た。
特に変わった様子は無い。
しゃがんで角度を変えて見回しても異常は感じられなかった。
多少の砂埃は被っているけれど、ひび割れたり、壊れている箇所は無い。
両隣にある墓石とも何ら変わりも無い。
近くから男性の泣いている声も聞こえてこない。
わたしは「ふぅ……。」と小さく息を吐き、何事も無くて良かったと胸を撫で下ろした。
使用人には夕方前には帰ると告げて家を出てきたから、問題が無いならもう帰ろうと立ち上がった時だった。
足音一つせず背後から何者かに抱き締められた。
ーーー誰!?!?
わたしの肩から前に回された両腕が見えているのに…、感触がない…?!!これは…?!と驚いたのも束の間、悲痛な声がわたしの耳元で聞こえてきた。
「…生きている姿で…会いたかったっ………!瞳に僕を映して欲しかった…!名前を…、呼んで欲しかった…!………触れたかった…!抱きしめたかった…。…………、あいしている…。愛しているっ…!愛している!!………っ…!」
……驚きすぎて何を言われたのか半分以上は聞き取れなかったけれど、「愛している」と狂いそうなほどに叫ばれた言葉は聞き取れた。
……この声、わたし知ってる。夢で泣いていた声だ。
その声の正体に気付くと、動揺していたのが嘘かの様に心が落ち着いた。
わたしの肩から前に回された両腕に視線を向けると、男性の身体はカタカタと震えていて、腕に手の爪が食い込んでいるのが見えた。
感触がないから力は感じられないけれど、相当な想いで抱き締められていることは理解できた。
わたしが静かに両腕を見ていた間も、ずっと、ずっと、ずっと…「あいしている…。愛しているっ…!愛している!!………っ…!」と苦しげに吐き出す声が耳元で聞こえていた。
わからない。
そんなに苦しそうな理由が。
「愛している」はそんなに痛いの?わたしは両親からしか「愛している」と言われたことは無かったけど、それは優しい気持ちになるものだった。
こんなに…痛そうで苦しそうな「愛してる」は何?
男性が何者かはわからなかった。
…だけど、このまま苦しめたままにしたくなかった。
わたしは精一杯の勇気を出して声を掛けた。
「…あ、あの??!」
爪が食い込むほどに必死に縋る男性の手に、優しく手を添える様にして。
すると、男性の身体は固まったかの様に動かなくなった。
悲痛な声も耳元から聞こえなくなり、震えていた身体も収まった様だった。
男性の反応からわたしの声が聞こえていると判断し、そのまま言葉を続けた。
「わたしを…知ってる…の……?」
わたしが知りたかったことを聞いた。
わたしの知り合いなのか、…それとも、前世の知り合いなのかと。
その言葉にはっとしたのか男性が慌てた様子で腕を解き後ろから回り込んで正面に現れた。
白銀に少し黄色が混ざり合った長い髪をハーフアップにしていて、所々に三つ編みが施されていた。
肌の色は男性にしては白く透明感があり、中性的な顔立ちをしていた。
瞳は藍色のように深い青色で、髪色と肌色が色素が薄い分、瞳の色が強い印象を与えていた。
美しいという言葉が似合う男性だった。
正面に姿を現した彼は、涙を流していた。
顔を見なくても苦しそうで、痛そうにしているのは感じ取れていたけれど、わたしよりも一回りくらい年上の男性が涙を流すほど取り乱している姿に心配になって言葉を続けた。
「お兄さん、どうしてそんなに泣いているの?…どこか痛いの…?」
その言葉に男性が目を大きく見開いたのが見えた。
徐ろに男性の手が頬に触れる様子から、泣いていることは本人も気付いていなかった様だ。
ーーそれが前世の"つがい"との出会いだった。
それから、男性はいくつか話してくれた。
男性は前世の"つがい"であること。
前世のわたしとは、出会う前に前世のわたしが死んでしまったこと。
男性はファレン・ユーリッドという名前であること。
そして、未練がありこの世を彷徨っていたと。
だけど、もうすぐ消えるのだということも。
最後の一つだけは心がチクリと傷んだ。理由は自分でも良くわからなかった。
それから、男性は願いを口にした。
「消えるまではわたしの側にいたい」と。
それで彼の痛みが和らぐならと迷うことなく受け入れたら、彼の目尻が潤うのが見えた。
彼の瞳を見つめながら心はまたチクリと傷んでいた。




