出会い
「……今日も会いに来たよ。」
誰にも聞こえるはずのない声を、届くはずのない人を想い呟く。
この場所には何回、何百回、何千回、訪れたのだろう。
手入れが行き届いた花々が一面に広がる光景を見る度にあの日が蘇る。
幾度となく春が訪れても、恐ろしい程にこの場所はあの日のままだった。
まるで僕と共に時が止まってしまったかのように。
無意識でも辿り着けるほどに通った墓地に入り、一つの墓石へと足を進める。
ーーーーーっ!!?
疾うに"つがい"の香りは消えてしまったはずの場所から、今日は仄かに香りがする。
忘れることの出来ない焦がれたあの香りが漂っている。
我を忘れて香りのする方向へ駆けた。
辿り着いた場所は見間違えるはずのない、あの墓石の前だった。そこには一人の少女が立っていた。
立ち姿から十歳前後だろうか。
静かにあの墓石を見つめて佇んでいる。
その少女から仄かに"つがい"の香りが漂っていた。
ーー愛しい、愛しいっ!、愛しい!!!
全身を流れる血流が血管を破る程に激しく脈打つ。
ーーあぁ、あの時と同じ心の叫びが聞こえる…っ…!
僕のことはもう誰にも見えない。
君も僕の存在には気付いてくれないだろう。
生きている姿では君に会えなかった。
君の瞳が僕を映してくれることもない。
僕の名前を呼んでくれることもない。
…それでも!!
この形ない手で、君に触れることは許されるだろうか。
君を…、この手で抱きしめてもいいだろうか。
君に『愛している』と伝えてもいいだろうか…、届くことのない想いを…、届かない言葉で伝えてもいいだろうか。
触れてはいけないと理性で押さえ込もうとする程に、彼女を逃すまいと身体が彼女へ向かう。
想いが届かなくて苦しみ絶望するのは嫌なのに、理性では抑えられない程の衝動に駆られる。
届かないのに…、!…それでも、それでも…
抑えられなかった。
あの時、触れることさえ出来なかった虚しさを、あの時愛していると伝えることが叶わなかった悲しさを、全て彼女にぶつけるかのように力強く後ろから抱きしめていた。
ーーギリッ…
彼女を後ろから抱きしめて、彼女の前で交差している自分の腕に手の爪が食い込む音がする。
それでも、手の力を緩めることができない。
カタカタと小刻みに身体中が震え出す。
悲しみも、苦しみも、虚しさも、愛おしさも、全ての感情が身体中を駆け巡り、必死に訴え掛けている。
感情が暴れて頭が回らない思考の中で、僕は必死に彼女に訴えるように叫んでいた。
頬を伝う雫にすら気付かない程に、彼女だけを瞳に映して。
「…生きている姿で…会いたかったっ………!瞳に僕を映して欲しかった…!名前を…、呼んで欲しかった…!………触れたかった…!抱きしめたかった…。…………、あいしている…。愛しているっ…!愛している!!………っ…!」
少女を後ろから力の限り抱きしめ、あの日の言葉をまた口にする。
僕が彼女の側にいても、彼女の瞳は僕を映さない。
僕が彼女を抱きしめても、抱きしめ返してくれることはない。
僕が愛していると伝えても、その愛の言葉を受け取ってはもらえない。
わかっている、わかっている…、それでも…!
「あいしている…。愛しているっ…!愛している!!………っ…!」
縋るように、繋ぎ止めるように、震えが止まらない手で少女を抱きしめながら愛を叫んでいた。
何度も、何度も、何度も…、
「…あ、あの??!」
ーーーーーっ!!?
その時、僕の腕の中で微動だにしなかった少女の口が不意に動いた。透き通った声が聞こえ、耳を疑う。
更に驚くことに少女が抱きしめている僕の手に、小さくて白い手を添えてきた。
ーー僕が見えているっ…!?
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