新しい住人は道をたどって
食事を終え、食器を洗い、椅子に腰をかける。
「ふ~、お腹いっぱい。それにしても、この村には私以外の人間は住んでいないし、それじゃあ村とはい
えないよね」
村は周囲を魔物の住む森に囲まれていて、人間が村に入ってくることはほぼ不可能だ。
「薬草をとりに森に入った時も、森の外の様子は確認できなかったし、森は深いんだろうな」
村の住人についての問題に頭を抱えつつ、魔獣から採取した素材についても悩んでいた。
「魔物の素材も町に出ないと売れないし、そのためには、村と町とをつなぐルートの開拓もしなくちゃい
けないな」
村の住人問題については一旦置いておき、家の外にでて、町へとつなぐルートの開拓地を決めることにした。
「前回森へ入った時は、入りやすそうな茂みから入ったけど、そこを開拓すればいいかな」
森へ入った茂みから道を作り出すべく風魔法で、草を刈ることにした。
<ウィンド・カッター>
鋭いつむじ風が茂みを刈り取った。
刈り取った草の中に紛れていた薬草をとりわけながら、生い茂った草をまっすぐ刈り進めていく。
「木も邪魔ね、切ってしまおう!」
<ウィンド・カッター>
大きな木や垂れ下がる蔦も難なく伐採していく。
村を出て数十メートル刈り進めたあたりで、魔物の気配を察知する。
伐採した木の影から何かが飛び出した。
「なに!」
そこには大きな蜘蛛がいた。
<鑑定:ポイズンスパイダー 体内に猛毒を持っており、噛まれると死に至る>
「死!結界があるから噛まれはしないだろうけど、気をつけなきゃ」
ポイズンスパイダーとの間合いを保ちながら、今にもとびかかってきそうなポイズンスパイダーに魔法をぶつける。
「森の中で火魔法は厳禁!」
<アイス・ストーム>
ポイズンスパイダーは氷の渦にのまれ、鋭い氷の破片が刺さる。
「ギッギャギー」
唸りをあげてポイズンスパイダーは倒れた。
「キンググリズリーに比べたらずいぶんと弱っちいのね、光魔法を使わずに倒せるなんて」
倒れているポイズンスパイダーに近づく。
「毒があるみたいだけど、一応持って帰ってみようかな」
ポイズンスパイダーの毒に気を付けながらアイテムボックスに収納する。
「さあ!再開よ!」
その後も木の影に潜むポイズンスパイダーを倒しながら、道を切り開いていく。
しかし、まだ先は長く道を切り開き終える前に日が暮れ始めた。
「急に暗くなってきたな。前が見えなくなる前に今日はもう村に戻ろう」
火魔法であたりを明るく照らしながら、速足でまっすぐ村へと帰った。
「さすがに疲れたな。数百メートルは切り開いたつもりだけど、森の出口は一向に見えてこない」
一日中森を切り開き、魔物を狩り、大量に魔力を消費してユキは倒れるようにして眠りについた。
ー翌日ー
目を覚ましたユキは、また森へ向かい昨日の途中からまた切り開き始めた。
ホーンラビットやポイズンスパイダーと戦いながら進んでいく。
昨日よりも百メートルほど切り開いた先であるものを見つけた。
「これは、ヒーリングマッシュ?」
そこにはとても大きく青い光を放つヒーリングマッシュがあった。
<鑑定:キングヒーリングマッシュ とても貴重で、通常よりも回復力が強く、万能薬の元となる>
「キング!ヒーリングマッシュの上位種ね!採取しておきましょう!」
キングヒーリングマッシュを採取してまた切り開き始めた。
村から数キロメートル切り開き、ようやく森の外が見えてきた。
「やっと抜けたわ!外よ!」
最後の大木を伐採し、やっと森の外に出ることができた。
森を抜けた先から少し離れた場所に城壁と大きな門がみえた。
「あれは、町かしら。お城も見えるから首都なのかも」
町の奥部に大きな城が立っているのが見える。
「何はともあれ、無事に森を抜けることができて良かった。後は道を整備すれば歩きやすくなるわね」
少し休んだ後、道を引き返し、村に戻った。
ルートを切り開く道中で入手した薬草を分け、魔物を捌き、素材をしまった。
全てを終えたあと暖かいお茶を飲み、一息ついた。
「ふぅ~、やっと一息つける。めんどくさい仕事は終わらせたし、ルートも切り開くことができた。道の
整備は残っているけど、また今度にしよう」
お茶を飲み切らないうちに机に突っ伏して眠ってしまった。
日が暮れ始め、辺りが夕暮れに染まり始めたとき、何かを引きずるような音に目を覚ました。
「なに?」
すぐに外へでて、辺りを見渡す。
家から数十メートル離れた先に何かがうずくまっていた。
ユキは咄嗟に結界をかけ、近づいていく。
そこには、人間のような見た目に獣のような耳と尻尾の生えた、いわゆる獣人といわれている種族の子供が二匹いた。
酷く怪我をしているが、ユキを警戒して攻撃の構えをとっている。
「酷い怪我、そうだ!ポーション!」
アイテムボックスから上級ポーションを取り出し、近づこうとした。
「来るな!!来たらただじゃおかないぞ!!」
男の子の獣人がユキに向かって叫んだ。
側にいる女の子の獣人は倒れこみグッタリとしている。
「怪しいものではないわ、あなたたちの怪我を治したいだけなの!」
「うるさい!そういって毒を盛るつもりだろ!妹に近づくな!」
「でも、すぐに治療をしないと妹さんもあなたも死んでしまう!」
「人間なんて信じるもんか!また妹を傷つけるつもりなんだろう!」
警戒心が強く、治療どころか近づくことさえできない。
(しかたがない、、、)
ユキは落ちていた鋭く尖った岩で掌を切り裂いた。
「ッッ!」
「何を!」
思ったよりも深く切り裂いてしまい、大量に血が流れた。
ポーションを取り出し、傷口にかける。
みるみるうちに血が止まり、あっという間に傷が治った。
「ふぅ、ほら、これは毒じゃなくて薬!傷を治す薬よ!だからお願い傷をみせて!」
ユキの覇気に押され、獣人の子は攻撃の構えをやめた。
そっと近づき、まず妹の怪我を治した。
苦しんみ歪んでいた顔は元にもどり、荒かった息も落ち着いている。
「治ったのか、よかった、、、」
安心したのか、兄の方が倒れた。
妹よりも酷い怪我をしていたのに、威嚇で体力が尽きたのだろう。
ポーションは妹にかけた分で尽きてしまい、残りのポーションは倉庫にある。
ユキは二人を抱きかかえ、家に走った。
倉庫にポーションを取りに行き、急いで傷を治した。
幸い大事には至らず、二人とも落ち着いた様子で眠っている。
「よかった。二人とも無事ね」
すやすやと寝息をたてて眠る二人を見つめ、安堵の声を漏らした。
夜になり、少し肌寒くなったため、暖炉に火をともし、一晩中二人の様子を見ていた。
翌朝、日が昇り始めた頃、ユキは二人に食べさせるためのスープを作っていた。
「う、うーん」
小さく唸って、男の子の方が目を覚ました。
「おはよう。体の調子はどう?痛いところはない?」
ビクっと体を跳ねらせ、少し警戒している姿勢をみせる。
しかし、ユキの優しい表情に敵ではないと判断したのか、ゆっくりと体をユキの方に向け、話し始めた。
「大丈夫だ。痛いところも、ない」
少し恥ずかしそうにうつむきながら話す。
「それはよかった。妹ちゃんが目を覚ましたら食事にしましょうね」
妹を心配そうに見つめ、手を握っている。
「心配しなくても大丈夫よ。怪我も治したし、熱もないから、ただ眠っているだけよ」
やさしく言葉をかけ、安心させようとする。
「あんた、何者なんだ?魔女か?」
「魔女じゃないわ、人間よ」
「あんなポーション初めて見た。ポーション自体高価でなかなか手に入らないし、傷が一瞬で治った」
「上級ポーションを使ったからね、魔女ではないけど、ポーションを作ることができるの」
「薬師なのか?」
「それも違うわ、しいて言うならこの村の村長ってところかな」
「この村は廃村じゃないのか?人の気配もしないし」
「そうよ、ここは廃村でここには私以外の住人はいないわ。あなたたちのことを傷つける存在はここには
いないから、安心して」
「わかった。あんたのことは信用する。傷を治してくれたし、オレたちのためにわざわざ傷をおってま
で、ポーションの効能を見せてくれたしな」
「ありがとう。信用してくれてうれしいわ」
しばらく話していると妹が目を覚ました。
「お兄ちゃん、」
「起きたのか!大丈夫か?痛いところは?つらくないか?」
「大丈夫だよ、ありがとう!」
二人は抱き合い、お互いの生存を喜びあった。
「おはよう、妹さん。体の調子は大丈夫そうね」
「あっあなたは、」
少し怯える妹に兄がわって話す。
「オレ達を助けてくれたんだよ」
「そっそうなの?ありがとう」
「いいのよ、気にしないで。それより食欲はある?朝食を作ったから一緒に食べましょ」
三人はダイニングに移動して、席に座る。
ユキは暖かいスープをお皿に盛り、パンを切り分け机においた。
「さあ、召し上がれ!」
二人は恐る恐るスープを口にする。
「おっおいしい!」
「あったか~い!」
二人はがつがつと勢いよく食べる。
「慌てなくてもたくさんあるから大丈夫よ。パンは硬いからスープにつけて食べてね」
あっという間に食べ終わった。
「おいしかったね!お兄ちゃん!」
「ああ!あったかいご飯は久々だったな!」
「ねぇ、二人はどこから来たの?すごい怪我だったけど、何があったの?」
二人は少しうつむいた後、話し始めた。
「オレ達は、ここから少し離れたところにあるオーレン王国のスラム街に住んでいたんだ。でも、人間が
土地の再建のためと言って、オレ達を追い出そうとして、怒った大人たちと争いになって、オレ達も巻
き込まれて、この森に逃げてきたんだ。道みたいなのがあって、たどってきたらここに行きついた」
「そういうことだったのね。道を作っておいて正解だったわ」
「オレ達以外の獣人も逃げてきたけど、途中ではぐれて、人間に殺された奴もいる」
「酷い話ね、住む場所を奪った挙句、命まで奪うなんて」
二人は寂しそうに身を寄せ合っている。
「それじゃあ、二人は今行くあても、住む場所もないってことね」
「「うん」」
ユキは二人の前でしゃがみ込み、手を繋いで話し始めた。
「二人さえよければなんだけど、ここの住人になってくれないかな?もしもあなた達の仲間がみつかった
ら、その仲間もここに住んでも構わない。家も建て直せばいいし、食事も十分にある。どうかな?」
二人はお互いの顔を見合わせて小さく頷いた後、ユキの方を見て満面の笑みで言った。
「「うん!!」」
二人の笑顔につられて、ユキも思わず笑顔になる。
「これからよろしくね!二人とも!」
こうして、ユキの村に新しい住人ができたのだった。
ユキの鑑定日記
ポイズンスパイダー:体内に猛毒を持っており、噛まれると死に至る
キングヒーリングマッシュ:とても貴重で、通常よりも回復力が強く、万能薬の元となる




