出会いと別れはダンジョンで
ユキ達は四階層のボス、トレントを倒し、第五階層へと足を踏みいれた。
第五階層はまた土レンガに四方を囲まれた空間が広がっていた。
「まーた狭い部屋ん中かよ~」
「先ほどまで広いエリアにいたから余計に狭く感じるな」
アーネストとフェイトフルは狭い空間がお気に召さないようだ。
「外はもう昼ぐらいになっているのかしら。ダンジョンの中にいると時間間隔が狂うわね」
「確かに腹減ったな~、どっかで飯食おうぜ!」
三人は歩き回り、安全に食事をとれる場所を探し始めた。
「あっちから人の気配がするわ」
気配のする方向へ向かうと、広場があり、冒険者たちが休息をとっていた。
どうやらここは休憩場で、入口には結界が張ってあり、魔物は入ってこれないようになっているらしい。
ユキが様子を見ていると、アーネストとフェイトフルが勝手に中に入ってしまった。
「なっなんだ⁉」
「どうしてここに魔物が⁉」
「ゴブリンジェネラルとコボルトキングだぞ!Bランクの魔物がなんでこんなところに!」
アーネストとフェイトフルのせいで休憩場内はパニックに陥った。
ユキは急いで間に入り、事態をおさめようとする。
「待ってください!この子たちは私の従魔なんです!危害は加えませんので、心配しないでください!」
ユキはなんとか場を落ち着かせようとする。
「従魔だって?Bランクの魔物を2匹も?」
「はい、こう見えて私、Bランク冒険者なんです!」
ユキは冒険者カードを見せる。
「本当だ、なら大丈夫そうだな。しかし驚いたな、結界が破られたのかと思ったよ」
「すみません、様子を見て入ろうとしたんですけど、従魔たちが勝手に入っていってしまって」
「こちらこそすまなかった、大事な魔獣を攻撃しようとして。俺はダンデ、よろしくな」
「ユキです、こちらこそよろしくお願いします」
ユキはダンデと握手を交わす。
「それにしても、Bランクの魔獣を二匹も従魔にするなんて中々のやり手だな」
「あはは、運がよかったんですよ」
ユキがダンデと話していると、奥の方から誰かが近づいてくる。
「リーダー、大丈夫っすか?」
「ああ、大丈夫だ。このお嬢さんの従魔だったらしい」
「ふーん」
近寄ってきた若い男はダンデの仲間らしく、ユキを疑わしい目で見ている。
「はじめまして、ユキと言います。さっきはお騒がせしてすみませんでした」
ユキは深々と頭を下げる。
「こいつは俺のギルドの仲間で、剣士のヒューゴだ。他の仲間も紹介しよう」
ユキはダンデに連れられて仲間がいる場所へと案内される。
「お帰りリーダー!その子は?」
「さっき入ってきた魔物の主で、Bランク冒険者のユキだ」
「はじめまして」
「はじめまして!まだ若いのにもうBランク?すごいね!私は武闘家のコリン、よろしくね!」
ユキはコリンと握手を交わす。
「はじめまして、私は魔法使いのイーリスです。よろしくお願いしますね」
元気で活発なコリンとは違い、イーリスは丁寧でおっとりしている。
パラディンのダンデに、剣士のヒューゴ、武闘家のコリン、魔法使いのイーリス、とてもバランスの良いギルドだ。
「なあリーダー、さっさと飯食って出発しようぜ」
「そうだな、良かったらユキ達も一緒に食べないか?」
「いいね!一緒に食べよう!」
「ありがとうございます、ご一緒させてください!」
剣士のヒューゴは不満顔だったが、ダンデとコリンの勢いに負け、一緒に食事をとることにした。
ユキはアイテムボックスの中から作ってきたサンドウィッチを取り出し、アーネストとフェイトフルに手渡した。
「ユキさんはアイテムボックス持ちなんですね、羨ましいです」
「羨ましい?」
「ああ、冒険中やダンジョンに潜っている間は干し肉やドライフルーツなどの腐りにくいものばかりにな
るからな、アイテムボックスがあれば新鮮な肉や野菜を食べることができるだろう?俺たちはここに潜
って3日間、同じものしか口にしていないからな」
ユキはサンドウィッチの入った籠をみんなの前に差し出した。
「良かったら食べてください、沢山作ってきたので」
「だっだが、貴重な食料だろう?」
「私たちは七階層まで行く予定なんですけど、ここまで半日程しかかかってないし、食料にも余裕がある
ので」
ユキの言葉に干し肉を食べていた全員が手を止めた。
「ちょっと待って、今、半日でここまで来たって聞こえたんだけど」
コリンが苦笑いしながら聞いてくる。
「はい、たぶん半日くらいしかたってないはずですよ?」
「バケモンじゃねぇか」
ヒューゴが小さく言葉を漏らした。
「コラ!ヒューゴ!すまない、ユキ。悪気はないんだ」
「ええ、私たちはここに入って3日でようやくここまでこれたので、少し驚いてしまって」
「あんたら、ホントにBランクの冒険者?俺達を騙してんじゃねぇよな?」
ヒューゴが立ち上がり、ユキを睨みつけながら言った。
ヒューゴの殺気にフェイトフルが反応して唸り始めたが、ユキはそっと頭をなで、落ち着かせる。
ダンデもヒューゴを落ち着かせようとするが、ヒューゴの殺気はおさまらない。
ユキはギルドカードを取り出し、ヒューゴに見せた。
「私は確かにBランク冒険者です。でも、ギルドマスターからは実力でいえばそれ以上だと言われまし
た。それに、Bランク以上の従魔もいます。ヒューゴさんは仲間を心配して私を疑っているのでしょ
う?私もあなたの立場だったら同じ行動をとったと思います。あなたの判断は間違ってはいませんよ」
ユキは冷静にかつ淡々と述べた。
殺気だっていたヒューゴもユキの言葉に嘘はないと分かったのか、殺気を消し、座りなおす。
「伝わったようで良かったです」
ヒューゴはフンと顔を背ける。
「すまないな、ユキ」
代わりにダンデが謝ってくれたが、ユキは気にするなと言う。
「さあ、どうぞ、たくさん食べてくださいね」
気を取り直してユキはサンドウィッチを振る舞う。
「おいしー!ユキさん!これ、お店出せるよ!」
「お肉の間のソース、初めて食べる味ですが、とっても美味しいです!」
「うん、うまいな!ヒューゴ、お前も食べてみろよ」
ダンデに食べるように勧められたが、ヒューゴは頑なに食べようとしない。
それからしばらくみんなでサンドウィッチを食べながら雑談をしていると、休憩場の入り口の方に人だまりができ、騒がしくなっていることに気づく。
「なにかあったんですかね?」
「気になるな、俺が行ってこよう」
「私も行きます」
ダンデとユキは人だまりの方に向かう。
人だまりをかき分けて中心に向かうと、血まみれで倒れている冒険者がいた。
「だれか!ポーションを分けてくれないか!金なら渡す!お願いだ!頼む!」
仲間を抱きかかえている男が叫んでいる。
男もかなり重症だが、抱えている仲間は毒も受けており、意識がない。
周りの冒険者は心配はするものの、ポーションを差し出そうとするものはいない。
「俺の仲間に回復魔法を使えるものがいる、呼んでこよう!」
ダンデはイーリスを呼びにいったが、駆け付けたイーリスは傷の深さを見て絶句した。
「私の回復魔法ではこの傷を治すことはできません」
その場にいた誰もが絶望していたが、ユキだけは違った。
アイテムボックスの中からポーションの瓶を2本取り出し、駆け寄る。
「回復のポーションと毒消しのポーションです。傷口を見せてください!」
ユキは男が抱えていた仲間の方にポーションをかける。
するとみるみるうちに傷が塞がり、毒も治った。
「凄い!これは上級のポーションか?」
「そんなことよりあなたも早く」
ポーションの性能に感激していた男の言葉を遮り、ポーションをかける。
あっという間に傷は塞がり、意識を失っていた仲間も目を覚ました。
「ありがとう、心から感謝する。上級ポーション一本分にも満たないだろうが、俺達の全財産だ受け取っ
てくれ」
男は金が入った麻袋をユキに渡そうとする。
「いいえ、いりません」
「どうしてだ?」
「お金のために治療をしたわけではありませんし、ポーションも自分で作ったもので、お金はかかってい
ませんから」
「言葉に甘えるといい、こいつはこう見えてもBランク冒険者でな、かなりの実力の持ち主だ。それに初
対面の俺達にサンドウィッチまで分け与えてくれるほどのお人よしだ」
引き下がろうとしない男たちにダンデが助言をしてくれる。
男たちは渋々諦め、帰っていった。
「俺達も戻ろうか」
ダンデとともに、仲間のもとへと戻る。
「ユキさんってホント凄いね!ポーションも作れちゃうんだ!」
「はい、薬草さえあればすぐに作れます」
「ポーションは初級のモノでもかなりの値段がしますから、自分で作れると便利ですよね」
再び雑談をし、サンドウィッチを食べ終わるまで共に過ごした。
「それじゃあ、俺達はそろそろ出発するとしよう。ありがとう、君たちのおかげで楽しい時間を過ごせた
よ」
「私も楽しかったです。お気をつけて」
ユキはダンデたちと別れ、散策を再開した。
しかし、休憩場を出てからというものアーネストとフェイトフルの機嫌がよくない。
「二人とも、どうかした?さっきから全然喋らないけど」
二人はしばらくだんまりを決め込んだが、フェイトフルが口を開いた。
「ユキは、人間の方がいいのかよ」
声は小さかったが、しっかりと聞き取れた。
ユキがダンデ達と楽しそうに話していたのを見て、不安になったのだろう。
「確かに、ひさしぶりに人間に囲まれて話をして楽しかったけど、私は村のみんなとワイワイやってるほ
うが楽しいかな」
ユキは二人に笑いかけながらそう言った。
二人は安心したのか顔に笑顔が戻り、喋り始めた。
三人は気を取り直して、五階層の散策に戻った。




