衣・食・住で豊かな暮らし
ウォールがゴブリンナイトへ進化し、アースドラゴンの群れを村に引き入れた日から数日が経った。
「できたわ!」
ユキは夜な夜な作っていたゴブリン達の服を全て完成させた。
「随分と時間がかかったけど、やっと完成させられたわ。これでこの村の暮らしももっと豊になるはずよ」
ユキは作った服をゴブリン達に私に行く。
「コーティアス、みんなを集めてもらってもいい?ウォールたちはまだ帰ってないのかな」
「ウォール達なら先ほど帰ってきて、作業を手伝ってくれていますよ。すぐに集めますので少々お待ちく
ださい」
コーティアスが一声かけると、作業をしていたゴブリン達は手を止め、あっという間に集まった。
「ごめんね、作業の途中で集めちゃって。みんなに渡したいものがあって」
ユキの背後には大量の布が山盛りなっている。
「まずはアーネストとフェイトフル、こっちに来て」
ゴブリン達の後ろに立っていたアーネストとフェイトフルを前に来させる。
「はい、二人には腰布と長の証である首飾りを作ってみたの」
二人は早速身に着ける。
「うぉー!」
腰布と首飾りをつけたアーネストとフェイトフルの姿に周りのゴブリン達が盛り上がっている。
金色の首飾りが二人の強靭な肉体に映え、腰布のサイズもぴったりだ。
「サイズもばっちりね」
「ありがとうユキ!とても気に入ったぞ!」
「金色の首飾りが俺様の強靭な肉体にぴったりだぜ!」
二人もとても気に行ったようだ。
「次はコーティアスとマーリンとマギ。あなた達にはローブを作ったの」
背の高いコーティアスには中に着るシャツとロング丈白色のローブを、マーリンとマギには全身をすっぽりと包み込む大き目のローブと、とんがり帽子を用意した。
白く清潔感のあるロング丈のローブとシャツがコーティアスをより知的に見せている。
マーリンとマギのローブは赤色と青色の対になっており、魔法使い感が増した。
「さあ!どんどん行くわよ!次は、ウォールとアースドラゴン達!」
ウォールには鉄ので覆われた胸当てと腰布を、アースドラゴン達には金色の装飾が施された鞍と手綱を手渡す。
ユキはその後も、ホブゴブリンのケールとマグスとマグスに金色の刺繍が施された腰布を渡したり、他のゴブリンやコボルト達にも次々と服を配っていく。
「ユキ様!みてみて!オレ!似合ってる?」
ファインにはルノが来ている服の色違いをプレゼントしていた。
二人が並ぶと双子のようでとても微笑ましい。
「こんなに沢山作るのは大変だったでしょう?」
「そうね、正直とても大変だったけど、服を変えただけでも随分と豊かになったように見えない?」
ゴブリンとコボルトたちは色とりどりの服を身にまとい、村に彩りが増えたように見える。
「確かに、前よりも村が鮮やかになったように感じます」
「たかが服、されど服。身につけるものが変わるだけで暮らしも豊かになるのよ」
みんな新しい服にはしゃいでいる。
「その通りですね」
コーティアスも微笑ましくその光景を見ている。
「さて!衣・食と揃ったら次は住ね!」
ユキは両手をパチンと叩いて立ち上がる。
「住、つまり住処ということですね」
「さすがねコーティアス、その通りよ!」
ユキが設計した長屋はもう完成寸前まできている。
「お任せください!完成はもうすぐそこまで来ていますから!」
コーティアスははしゃいでいたゴブリン達を落ち着かせ、作業に戻るように促した。
ユキはウォール達が狩ってきた魔物の解体をすることにした。
しかし、ユキが解体をし始めたすぐのことだった。
解体場のドアが勢いよく開き、ファインが飛び込んできた。
「ユキ様!問題発生!すぐに来て!」
「ファイン!ここは危ないから入っちゃダメだって言ったでしょ!」
「でっでも、みんな困ってて、早くユキ様に伝えなきゃと思って」
ファインは怒られてシュンとしている。
「それで?なにがあったの?」
ユキはしゃがんでファインと目線を合わせる。
「え、えっと、大人たちが、何かがなくて家を完成させられないって言ってて」
「足りない?」
「うん」
「とりあえず行ってみましょう」
ユキはファインに案内され、長屋の建設をしていた場所へと向かった。
「コーティアス、何があったの?」
「ユキ様!どうしてここに?」
「ファインに呼ばれたのよ。大人たちが困ってるって」
ユキはファインの頭を優しくなでる。
「そういうことでしたか。実は、建設に必要な金具が足りなくなってしまったのです。代わりになりそう
なものを探していますが、そうなると家の強度も落ちますし、どうしたものかと思いまして」
「なるほどね。金属か、武器や工具の修繕にも使ったから数が合わなくなったのね」
ユキは足りなくなった金具をどう補充すればいいか、真剣に考える。
「残念だけど、金属や鉱物に関しては何の手掛かりもないのよね。明日、朝一で町に行って何か手掛かり
を探してくるわ」
「お願いします」
作業ができない状態になったのでゴブリン達を集落に帰した。
次の日、ユキは朝一で町へ向かい、ギルドマスターのオルベムの元を訪ねた。
「ふむ、鉱物か。当てがないことはないんだが」
事情を聞いたオルベムは鉱物が手に入る場所に当てがあるようだが、歯切れが悪い。
「早急に手に入れたくて、当てがあるなら教えていただきたいのですが」
ユキの思いが伝わったのか、オルベムはフーとため息をついて話し始めた。
「鉱石は基本的に市場には出回らない。商人ギルドから直接取引することもできるが、数倍の値段で売り
つけられるからおススメはしない」
オルベムはまだ言葉を濁そうとしている。
「しかし、冒険者や一般市民が自由に鉱物を手に入れる方法が一つだけある」
「教えてください」
少しの沈黙の後、オルベムは口を開いた。
「ダンジョンだ」
「ダンジョン?」
「ああ、ダンジョンとは大昔にエルフが作った建物で、中では魔物や宝箱などが無限に生成され続ける」
(なるほど、探検アトラクションみたいなものね)
「この町にも中型のダンジョンがあるんだが、1階層から15階層まであり、今はまだ10階層までしか報告
が上がっていないが、7階層のあたりが鉱山エリアになっていて、そこで手に入れた鉱物は自由に持ち
帰ることができるのだ」
「そのダンジョンはどこにあるのですか?」
「教えてもいい、教えてもいいのだが」
オルベムは渋っている。
「お願いします!教えてください!」
「ダンジョンには魔物がうじゃうじゃいるし、トラップだってあるんだぞ」
「Aランクの魔物を一人で狩れるんですから。それに、従魔も連れていくつもりです」
「お前の強さを心配しているわけではない。俺が心配しているのはダンジョンを攻略されないかどうか
だ」
「?攻略してはいけないのですか?」
あまりにも無知なユキにオルベムは頭を抱える。
「ダンジョンはすべて攻略されると、消えてしまうんだ。今までは、大した冒険者がいなかったから心配
はしていなかったが、お前は最後まで攻略してしまいそうで、心配なんだ」
「?ダンジョンは攻略するものでしょ?なにがダメなんです?」
「ダンジョンはこの町の観光資源でもある。そのダンジョンが消えてしまうと、この町の観光資源が減
り、収入源も少なくなってしまう」
「今までに攻略されたダンジョンはみんな消えてしまったのですか?」
「いや、今までダンジョンが全て攻略されたことは一度もない」
「ならなぜ、攻略されたダンジョンは消えるなんてことがわかったのですか?」
「この国で一番古い古文書に記されていたのだ。攻略されしダンジョンは消え去るとな」
「なるほど、実際はどうなるかわからないということですね」
「まあな」
「大丈夫ですよ、今回の目的はダンジョン攻略じゃなくて鉱石を手に入れることですし、全て攻略するよ
うなことにはならないと思いますから」
「そういうことなら仕方がない。待っていろ、地図を持ってきてやる」
ユキはオルベムから地図を受け取り、いったん村へと帰った。
「お帰りなさいませユキ様。鉱物は手に入りそうですか?」
「手がかりは手に入ったわ。ダンジョンよ」
「ダンジョンですか?」
「ええ、町の近くにあるダンジョンの7階層に鉱物エリアがあるらしいの。明日はそこに行ってくるわ。
アーネストとフェイトフルにはついて来てもらうから、準備しておいてね」
「ああ」
「りょーかい!」
「あと、ダンジョンに入ったら何日か戻れなくなるかもしれないから、私がいない間コーティアスはこの
村にとどまって、ルノ達の面倒を見ててくれる?」
「畏まりました」
「さあ、明日の朝は早いわよ。今日は帰って明日に備えてちょうだい」
ユキはダンジョン攻略に向け、準備を整えた。




