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ブレイン王国での逃亡Part4

8話の続き。

逃亡生活三日目。


ガタゴトと荷馬車に揺られながら、テナートは久々に少しだけ休息を取れていた。


「……ん」


ゆっくり目を開ける。


朝日が昇り始めている。


「眩しいな……」


身体は重い。


疲労。筋肉痛。爆発のダメージ。


全てがまだ残っていた。


「少し休めたのは不幸中の幸いか……」


残り二日。


荷馬車が森道へ差し掛かった頃。


「よっと」


テナートは見計らって飛び降りた。


ドサッ。


「さて……」


周囲を見渡しても完全に森。


「……ここどこ?」


正確な位置はもう分からない。


「まぁ、ここなら追跡はされづらいか」


だが問題は別にあった。


「……腹減った」


ぐぅぅぅ。


この二日、まともに食べていない。


「食料を見つけるしかないか……」


周囲を探すと。


「あった」


見たことのない果物の木々を見つける。


「はえー……」


見渡すまでもなく、木にたくさん実っていた。


「ブレイン王国は環境までチートかよ……」


よじ登り、果物を切り落とす。


見たことのない果実だったが、背に腹は代えられない。


「いただきます」


沈黙末…。


「……うっま」


「なんだこれ……!」


想像以上に美味い。


テナートは感動していた。


「こんなのがあるんだな、ブレイン王国……」


知らなかったと感心をしていると。


「お気に召していただけたようで何よりです」


という声が聞こえる。


「……幻聴?」


「いや」


違う。


テナートは果物を齧りながら言う。


「今回は少し遅かったじゃないか」


すると、木陰から黒衣の女が現れる。


「律儀に待っててくれたのか?」


もう驚かない。


完全に慣れていた。


「このままボロボロのテナート様を捕まえても味気ないですし」


「ぜひ我が国の特産品を味わっていただこうかと」


「うん」


テナートは素直に頷く。


「気に入った」


「で?」


「お前は昨日の奴らとはまた別人なのか?」


すると、女が一礼する。


「お初にお目にかかります」


「《月華》所属」


「アヤメと申します」


「……また違う奴か」


もはや反応リアクションすらしなかった。


アヤメが首を傾げる。


「あら、逃げないんですか?」


テナートは立ち上がる。


「いや」


「流石に考えたんだよ」


少し冷静だった。


何故、ここまで即座にバレるのか。


テナートは静かにナイフを抜いた。


アヤメが構える。


だが、テナートが向けた先は。


アヤメではなく、近くの木。


ブンッ!!


全力投擲。


「ひぃっ!?」


木の陰から、女が転がり出た。


「あ」


「見つかった」


「やっぱりいたか」


テナートがため息をつく。


「へぇ……」


「仮に気づいたとしても、見破るのは難しいのですが」


少し感心した顔でアヤメが言う。


「私の王子様に対する偏見を、改める必要があるかもしれませんね」


「そりゃどうも」


「伊達に逃亡生活してないんでね」


テナートが木にもたれながら笑う。


「つまり、そこにいる女が隠れながらずっと俺を追跡していたってわけか」


指差された女がびくっと肩を跳ねさせた。


「非常に優秀なことで」


テナートが拍手する。


「さぁ、名を名乗れ」


ニヤリ。


「お前は一体何者だ?」


すると。


「え……ぇと……」


小さな声でもじもじ目線を逸らす。


「…………」


「……えぇ…」


テナートが戸惑う。


「俺を追跡していた一番優秀な奴が、コミュ障ってどういうことなんだよ」


呆れた声。


すると隣のアヤメが割って入いる。


「私が代わりに説明します」


「彼女は《月華》所属のボタンと申します」


「最年少ゆえ、人見知りなのです」


「ご容赦いただけると幸いです」


「へっ」


テナートが鼻で笑う。


「無理な頼みだな」


レガリアを肩に乗せる。


「この嬢ちゃんが俺をつけ回してたんなら」


「落とし前つけてもらわねぇとなぁ?」


笑顔ではあるが目が笑っていない。


「ひっ……!」


ボタンが怯える。


テナートは一瞬で察した。


(なるほど、こいつ諜報専門か)


(戦闘はできないタイプだな)


ならば、潰すべきは考えるまでもない。


「悪いな、お嬢ちゃん」


テナートが地面を蹴る。


「まずはお前からだ!」


ガキィン!!


だが、アヤメが割って入る。


「流石にそれは見過ごせません」


「おいおい」


「暗殺部隊なのに正面から俺と戦うとか、勝つ気あるのか?」


「くっ……!」


そのまま切合になるが、近接戦でテナートに勝てるわけもなく。


「遅い」


キィン!!


ナイフを弾く。


「しまっ――」


その瞬間。


強烈な蹴り。


アヤメが吹き飛ぶ。


「ぐっ……!」


地面を転がっていく。


「ははは!」


テナートが笑う。


「これで詰み《チェックメイト》だ!」


ボタンへ向き直る。


「さぁ嬢ちゃん」


しかし。


「……あれ?」


いない。


さっきまでいた場所にボタンの姿がない。


その瞬間。


後ろに影が映る。


「なっ……!?」


シュン!!


ナイフでの突き。


テナートは間一髪回避するが。


「捕まえた」


「っ!?」


手首を掴まれる。


次の瞬間、身体が浮く。


「合気か!?」


ドシャァ!!


地面へ叩きつけられる。


「ぐぇぇ!!」


追撃のナイフが飛ぶが…。


「ぐっ……離れろ!!」


レガリアで横薙ぎ。


咄嗟にボタンが後ろに下がる。


その光景に、テナートが顔を引きつらせた。


「おい……」


「さっきまでのか弱い少女はどこ行ったんだ」


さっきまでとは別人のようにボタンが笑う。


「まんまと騙されましたね、王子様!」


「♡」


饒舌に煽る。


完全に別人格。


「なんですと」


テナートが呆れる。


「メスガキ系だったのか……!」


つまり、さっきまでのコミュ障は俺の油断を誘うための演技フェイク


「今更気づいたところで遅いですよ!」


お手本のような小物ムーブを晒し、慢心しきっていたテナートに騙し討ちは効果的だった。


「さぁ、王手チェックです」


状況は二対一。


普通ならここで詰みだが。


テナートは笑っていた。


不敵な笑み。


「そうか」


「だけどよぉ」


「アスカテシア王国の王子を舐めちゃ困るぜ」


その瞬間。


二人が目を見開いた。


「――なっ!?」


テナートの服の内側。


そこに巻かれていたのは大量のダイナマイト。


アヤメが固まる。


ボタンの笑みも消えていた。


「ちょっと待ってください!」


「それは洒落になってません!」


テナートが笑う。


「俺もよぉ」


「お前らの自爆女をリスペクトしようじゃないか!」


ミツバから回収していたマッチを取り出す。


シュボッ。


着火。


「「!?」」


「ま…ままままってください!!」


「本当に頭おかしくなっちゃったんですか!?」


即座に離脱するしかなかった。


「ボタン!」


「はい!」


二人が距離を取る。


――次の瞬間。


ドゴォォォォォン!!!という音とともに森が揺れた。


爆煙。轟音。爆風。


「きゃっ!」


「ぐっ……!」


軽傷で済んだ二人。


だが、煙が晴れた先。


そこにテナートの姿はなかった。


ボタンが青ざめる。


「ほ、本当にやっちゃったんですか……?」


アヤメも顔が引きつる。


「これ……遺体すら残ってないんじゃ……」


「ど、どどどどうしましょう……!」


二人は挑発はしていたものの、殺す気はなかった。

そのため、この状況に呆然と立ち尽くすしかなかった。




一方。


少し離れた木陰。


「いてぇぇぇぇ……!」


テナートが転がり回っていた。


ボロボロで満身創痍。


身体に巻いていたダイナマイトは全部無事。


何故なら、中に火薬が入っていなかったから。


ただのハッタリ。テナート最後の奥の手。


だが、別で仕掛けた本物の爆弾はしっかり喰らっている。


なので普通に瀕死。


「もうこれ以上は……無理!!」


しかしながら、テナートは笑みを浮かべる。


「へっ……」


「これで追跡からは逃れたな」


勝ち誇った顔で空を見上げる。


「俺の粘り勝ちだ」


「メイラさんよぉ」


ニヤリ。


最終日へと続く。


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