ブレイン王国での逃亡Part5
自爆から数時間後。
辺りはすっかり暗くなっていた。
月明かりだけが、森を照らしている。
テナートは森の中を歩いていた。
「はぁ……」
ボロボロで満身創痍。
煤まみれで髪は少し焦げている。
それでも、持ち前のタフネスだけで前へ進んでいた。
「流石に……きっついな」
身体は重いし、全身が痛い。
しかしながら、動けないほどではない。
何より
「これで追手は来ない」
それだけでも十分の成果だった。
「辺りも暗いし、今日は野営するか…」
そう考えてはいるが、爆発のせいで荷物はすべて吹き飛んでいた。
残っているのはレガリアと少量のお金。
そして懐にしまっている保険の煙玉。
「……もう少し歩くか」
野営できそうな場所を探す。
しばらく歩いてていると…
「……お?」
木々の隙間から月明かりが開けた場所。
そして森を抜けた。
「…………」
思わず言葉を失う。
辺り一面の幻想的な景色。
緑に淡く光る虫や草花。
波の音が響く、美しい海。
夜なのにどこか暖かい優しい光。
「綺麗だな……」
ここ数日、ろくなことがなかった。
追われて、爆発して、死にかけて。
でも。
「この景色を見れただけでも収穫か……」
少しだけ笑う。
「まぁ、もう二度と見ることもないだろうけどな!」
「よし、今日はここで野営しよう」
座り込もうとした時。
背後から。
「四日間のブレイン王国逃亡ツアーは満足していただけましたか?」
優しい声。
聞き覚えしかない。
「…………」
「…………は?」
ゆっくりと振り返る。
すると、暗闇から一人の女性が歩いてくる。
長い白髪。整った顔立ち。
「……その声は」
「はい、迎えに来ましたよテナート様」
メイラルド王女だった。
「…………」
数秒の沈黙。
そして。
「一つ聞いていいか?」
「ええ、どうぞ」
テナートが真顔で言う。
「俺は死んだことになってるはずだが?」
「もちろん聞いてますよ」
メイラルドは平然としていた。
「部下が泣きついてきましたから」
「……死んだとは思わなかったのか?」
すると、メイラルドが少し笑う。
「いいえ?」
即答。
「テナート様のことですもの」
「自分大好きな御方が、自爆を選ぶなんて一ミリも思いません」
「……確かにな」
テナートが苦笑する。
「最初からすべて、お前の筋書き通りだったのか?」
「いえ?」
意外にもメイラルドは首を振る。
「私の予定では二日目で捕まえるつもりでしたから」
テナートが理解する。
「それでも万が一を考えて、後の対応は全て準備していましたと」
「はは……」
乾いた笑い。
「流石はブレイン王国が誇る完璧王女様だ」
テナートが空を見上げる。
「俺はまんまと掌で踊らされてたわけか」
「さぁ」
メイラルドが手を差し出す。
「帰りましょう、テナート様」
「…………」
テナートは俯く。
「まぁ一応、抵抗してもいいですけど」
そして腰へ手を添える。
抜かれたのは聖剣
《アストラクトレイン》
光り輝く刃。
辺り一面が一瞬で昼のように照らされた。
「わー…凄い…()」
テナートの顔から色が消える。
もはや絶望のあまり片言だった。
「でも、メイラさんよぉ」
「まだ勝ち誇るには早計なんじゃないか?」
テナートはレガリアを抜く。
「ふふふ」
「やはり、そう来ると思っていました」
メイラルドもアストラクトレインを構える。
「こんな絶望的に勝ち目のない勝負をするなんて、私には理解できませんけどね」
呆れ混じりの声。
「言ってろ」
テナートが前へ出る。
「そこに希望がある限り俺は抗い続ける!!」
キィィィン!!
刃が激突する。
意外にも切り合いは互角。
メイラルドが少し感心する。
「アストラクトレインと正面からやり合えるなんて、流石はアスカテシア王国の秘剣ですね」
必死なテナートと違いメイラルドは余裕そうだった。
全部完璧に受け流される。
攻撃が通らない。
近距離特化のレガリアと違い、本来アストラクトレインは遠距離特化。
近距離戦で互角時点で勝敗は見えていた。
「いつものキレがありませんよ!テナート様」
完全に煽られている。
「くっ……!おのれぇ…!」
満身創痍のテナート。
対するメイラルドは万全。
条件が違いすぎる。
テナートは一度距離を取った。
(まだ勝機はある!)
懐へ手を入れ、煙玉を取り出す。
だが。
ヒュン!!
「なっ!?」
飛来物。
パシン!!という音と共に煙玉が弾かれる。
「小細工をしても今のテナート様では無駄ですよ」
メイラルドは靴を蹴り飛ばしていた。
「てめぇ……!」
「王女とは思えない戦い方しやがって……!」
気づけば海沿い。
完全に追い詰められていた。
後ろには海。逃げ道がない。
するとテナートがレガリアを下ろした。
メイラルドが首を傾ける。
「あれだけ意気込んで、もう降参ですか?」
そして沈黙の末。
「……参った」
テナートが肩を竦める。
「俺の負けだ」
いつも通りの白旗宣言。
まだ何かある。
そう警戒しているとテナートが笑った。
「でも、どうやら神様は俺を見捨ててないらしい」
そして振り返り。
そのまま。
ザバァァン!!
海へダイブ。
「なるほど、そう来ましたか」
海面を泳ぐ影。
「なんたる執念」
「もはや尊敬に値しますね」
テナートは泳いで逃げようとしていた。
すると後ろから。
「メイラルド様!」
ボタンが現れる。
「追わなくていいんですか!?」
「なんなら私が…」
だが、メイラルドは首を振った。
「落ち着きなさい」
静かな声。
「アストラクトレインだと誤って、テナート様が死んでしまうかもしれませんし」
「それに」
服を見る。
「この格好では泳げません」
「帰るわよボタン」
そのまま歩き出す。
「???」
ボタンには全く理解できていなかった。
逃亡生活四日目。
最終日。
辺りはすっかり明るくなっていた。
岸についたテナートが這い上がる。
「はぁ……はぁ……!!」
全身ズタボロの塩まみれ。
でも生きている。
「やり切ったぞぉぉぉ!!」
大の字。
「もうこの俺を止められる奴なんて存在しない!!」
海を越えた別の国。
追手は来ない。
そう思ったが…
「お待ちしておりました、テナート王」
「……あぁん?」
顔を上げる。
そこには大量の兵士。
そして見覚えのある男。
「お……お前!?」
「久しぶりですね」
「なんでおまえがここに!?」
そこにいたのはヘルガディア王国第一王子レオガルド・ヘルガディアだった。
レオガルドが不思議そうに言う。
「なんでって……」
「ここはヘルガディア王国ですよ」
「…………」
「…………なにぃ?」
そうだった。
ヘルガディア王国とブレイン王国は隣国。
つまり泳いだ先は…。
「では拘束させていただきます」
テナートはあっさり捕獲された。
「おい!!」
テナートが暴れる。
「属国の立場のお前らが王であるこの俺に、こんなことをして許されると思ってるのか!?」
その問いに
「ええ、もちろん」
レオガルドがにっこり笑う。
「メイラルド王妃様より」
「捕まえろと正式に大義名分を得ていますので」
「王妃様だとぉ!?」
予想外の答え。
「お、おい!」
テナートが慌てる。
「あの時のこと根に持ってるなら謝る!!」
「だから見逃してくれ!」
その言葉にレオガルドは無言で笑顔を突きつけた。
「あ」
悟ってしまった。
「ちっくしょぉぉぉぉぉ!!!」
こうして、四日間に渡る子テナートのブレイン王国逃亡生活は幕を閉じた。
9話の続き




