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ブレイン王国での逃亡 after

10話の続き

後日談。


テナートが逃亡を開始した夜。


ブレイン王国王城地下。


「メイラルド様」


「《月華》全員、揃いました」


「ご苦労様」


メイラルドが微笑む。


集まったのは《月華》。


メイラルド直属暗殺部隊五人。


シグレ、サユリ、ミツバ、アヤメ、ボタン。


「今回はどのような任務ですか?」


シグレが問いかける。


「今回は暗殺ではないわ」


その言葉に空気が変わる。


「ではどういった任務で?」


メイラルドが紅茶を置く。


「今私、テナート様と賭けをしていまして」


そこから。


事の経緯を説明する。


「なるほど……」


サユリが腕を組む。


「しかし四日とはいえ、この広大なブレイン王国から探し出すのは不可能かと」


普通なら不可能。


「問題ないわ」


「もう居場所は割れているから」


「――!」


メイラルドが地図を指差す。


「王都の隣にある小さな街よ」


「いかにも小賢しいテナート様が考えそうなことですわ」


全員が納得した。


「あぁ……」


「確かに」


「小賢しいです!」


月華はテナートに対する評価が低い。


「なら簡単に捕まえられそうですね」


だがメイラルドは首を振る。


「侮っては駄目よ」


少し真剣な顔。


「逃げることに関しては、一流」


「まして《グレン・レガリア》を持っている以上、一対一では勝てないでしょう」


全員が姿勢を正す。


「では、どうすれば?」


メイラルドが地図を指す。


「最初はシグレとサユリ」


「隣町へ向かいなさい」


「「御意」」


「ミツバとアヤメは私が指定した場所に先回りして待機すること」


「「御意」」


そして。


メイラルドの視線が止まる。


「ボタン」


びくっ。


「貴方が一番重要よ」


「……わ、私ですか?」


メイラルドが優しく頭を撫でる。


「ええ」


そう言って差し出したのは小型の発信器。


テナートに付けたものと同じ。


「最初はシグレたちに同行して」


「そこからテナート様の追跡をお願い」


「で、でも……」


ボタンがおどおどする。


「すぐバレませんか……?」


「大丈夫」


メイラルドが微笑む。


「逃げることに夢中で、余程のことがない限り気づかないから」


「わ、わかりました!」


メイラルドが立ち上がる。


「今回は今までで一番重要な任務よ」


「貴方たちに期待しているわ」


「「お任せください!! メイラルド様!!」」



そして一日目の夜。


「申し訳ありません、メイラルド様……」


シグレとサユリが頭を下げる。


市民に追われ、ボロボロだった。


「まぁ、予想はしていましたけど」


メイラルドは紅茶を飲む。


「それで?」


「テナート様の誘導は?」


「はい」


サユリが頷く。


「抜かりなく」


メイラルドが笑う。


「上出来ね」


逃げた先は全部予想通り。


立ち上がり、窓の外を見る。


「私も動かないとですね」


すると


「あら、随分苦戦してらっしゃるの?」


そう尋ねたのはサディール皇国第一王女。


リリアーナ・サディール。


略してリリア。


金髪ゆるふわの可愛らしい見た目。


列強国家の姫君である。


「少し急用ができてしまいまして」


「今日のお茶会はここまでにしましょう」


「あら、そう?」


リリアーナが紅茶を置く。


「せいぜい頑張ってね」


意味深な笑み。


そして、去っていくメイラルドの背中を見る。


「ふーん……」


少しだけ面白そうに笑った。



逃亡が逃亡を始めて二日目。


メイラルドが向かった先。


「それで?」


「ブレイン王国の姫君が、何故我が国へ?」


そう問いかけたのはレオガルド・ヘルガディア。


少し前にテナートへ敗北した王子。


「今日はブレイン王国の王女としてではなく」


「アスカテシア王国の王女として参りました」


レオガルドの眉が動く。


「ほぅ」


「確か……あの忌々しい王子の婚約者だったか」


「ええ」


「その忌々しい王子様の件で、少しお願いがありまして」



事情説明後。


レオガルドが眉をひそめる。


「つまり」


「貴様ら夫婦の鬼ごっこのために動けと」


「私を馬鹿にしているのか?」


当然の反応。


「確かに属国にはなった」


「だが」


立ち上がる。


「そんな陳腐なことにまで従う義理はない」


「失礼する」


去ろうとするレオガルドにメイラルドが静かに言った。


「レオガルド様」


「本当にこのままでよろしいのでしょうか?」


「……何だと?」


メイラルドが笑う。


「散々、テナート様にコケにされたと聞いていますが」


「仕返しするチャンスではなくて?」


「…………」


さらに追撃。


「それに、アスカテシア王国ではなく」


「ブレイン王国の王女に貸しを作れると思えば、悪くない話だと思いませんか?」


長い沈黙。


「くっ……」


レオガルドが顔を逸らした。


「……話だけは聞こう」



テナートが逃亡を始めて三日目。


ヘルガディア王国から帰還した直後のブレイン王城。


「今の状況は?」


「はい」


サユリの報告。


「ミツバが仕留め損ない医者送りに」


「現在、アヤメの付近にいます」


「なるほど」


メイラルドは窓を見る。


「何事も思い通りにはいきませんね」


少し笑う。


「ちゃんとルミナフルーツ付近まで誘導できましたか?」


「空腹で倒れられては困ります」


「はい、ご心配なく」


立ち上がる。


「そろそろ私も向かいましょう」


「馬車を準備なさい」


「御意」



現地に着くとアヤメとボタンが大混乱していた。


「ど、どどどどうしましょう……!」


「ねぇさん気絶しちゃって……!」


恐怖のあまり、アヤメが失神していた。


「落ち着いてください」


メイラルドが静かに言う。


「何があったんです?」


説明。


そして。


「なるほど」


「安心しました」


「え?」


3人が固まる。


メイラルドが森を見る。


「そこまで遠くには行ってませんね」


「……えぇ?」


何故そんな冷静なのか。


しばらく探す。


そして


「――本当にいた」


月明かりが照らす海辺にテナートの姿があった。


「ここは我々が…」


「いいえ」


メイラルドが前へ出る。


「最後の締め《フィナーレ》は私一人で十分です」


そのままテナートの背後から現れる。


そして思惑通り、テナートがヘルガディア王国に逃げてから現在に至る。


「無事に捕まったそうで良かったです」


「はい、非常に手強い相手でした」


するとシグレとサユリが不思議そうに聞く。


「しかし……」


「メイラルド様は、あの男のどこが良いのでしょうか」


「貴方たちには、彼の良さがわからない?」


「正直、一ミリも分かりません」


メイラルドは少し考え、笑った。


「そうね」


「テナート様の良さは、私だけが分かっていれば良いですから」


シグレとサユリが首を傾げる。


「貴方たちが、私について来てくれるのと同じよ」


「……まぁ」


「その話はまた今度してあげるわ」


「さぁ、明日から忙しくなるわよ!」


「「は、はい!」」


こうして4日間に渡る、ブレイン王国逃亡ツアーが幕を閉じたのであった。

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