ブレイン王国での逃亡Part2
6話の続き
テナートが逃亡を開始して半日。
今、テナートがどこにいるかというと。
王都から少し離れた隣町に来ていた。
「ふっ……完璧だ」
人気の少ない路地裏。
変装したテナートが腕を組む。
普通なら遠くへ逃げたと考えるはずだ。
だからこそのあえて隣町。
遠すぎれば捜索範囲に引っかかりやすい。
かと言って近すぎれば見つかった時に逃走が困難になる。
「だからこその隣町……!」
「どうだ!絶妙な塩梅だろ!!」
「そして見よ!」
マントを翻す。
「この完璧な変装!!」
怪しすぎる帽子。
妙なサングラス。
どこからどう見ても怪人物。
「近くを通っても気づかれるわけがない!」
そして尾行対策も徹底した。
残り四日。
見つけるなんて不可能だ。
「勝ったな!」
テナートは笑う。
「ははははは!!」
その思ったのもつかの間。
テナートは殺気を感知する。
「っ!?」
咄嗟に身体を捻る。
ヒュン!!
刃が頬を掠めた。
「あれ?一撃で仕留めたと思ったのにやりますね」
そこにいたのは。
黒衣を纏った女。
「ま……まさか!」
「そのまさかですよ」
嫌な笑顔。
「あ……ありえない」
テナートが後ずさる。
「俺の命を狙う敵国の暗殺者じゃないと説明がつかない」
「あながち間違ってませんよ?」
「何!?」
女は一礼した。
「私はメイラルド様直属暗殺部隊」
《月華》
「シグレと申します」
「おい!!」
テナートが叫ぶ。
「聞いてねぇぞ!」
「なんちゅう物騒な部隊引っ提げてやがるんだアイツ!」
「しかも、何故ここがバレた!?」
完璧だったはずだ。
変装も。尾行対策も。
だが。
シグレは少し引いた顔をした。
「……それ本気で言ってます?」
「は?」
「逆に目立ってますよ」
辛辣だった。
「それに」
シグレが鼻を鳴らす。
「全然オーラを隠しきれてませんし」
シグレが嘲笑する。
「くっ…!馬鹿にしよって…!」
テナートは相当傷ついていた。
「あと匂いですね」
「匂い?」
「事前にメイラルド様から、王子様の匂いを覚えさせられましたから」
沈黙。
「えぇ……引くわ」
ちょっと本気で引いた。
だが。
シグレは続ける。
「冗談はさておき」
「冗談に聞こえなかったんですけど…」
「貴方、発信器付けられてますよ」
「……は?」
テナートが身体中を探る。
そして。
「あ」
あった。
腰の辺り。
超小型発信器。
「ホンマや」
「おのれぇぇ!!」
テナートが握り潰す。
「メイラの奴!だからあんなに余裕そうだったのか!!」
「さぁ」
シグレが短剣を構える。
「開始早々、ゲームオーバーですよ」
だが。
テナートは笑った。
「おいおい」
懐から取り出す。
聖剣。
《グレン・レガリア》
小型ナイフ。
「何言ってんだ」
「勝負はここからだろ?」
シグレの目が細まる。
「なるほど……そうきましたか」
テナートは構える。
「条件は捕まらなきゃいいんだ」
逃げなくてもいい。
「正面から叩きのめせば問題ない!」
最初に仕掛けたのはテナート。
町中にもかかわらずそのまま切り合いへともつれ込む。
キィィン!!
刃がぶつかる。
「キャーー!!」
街がどよめく。
優勢なのは武器の差でテナート。
だが優勢だったテナートが距離を取る。
「一撃一撃が急所ばかり」
「本当に俺を殺すつもりか?」
シグレがその問いに答える。
「えぇ、殺してしまってもいいかもしれませんね」
疑問に思ったテナートが問いかける。
「そんなことメイラが許すと思ってるのか?」
テナートはジョーク混じりで話していたがシグレは違った。
「貴方が悪いんですよ…」
「私たちのメイラルド様が…何故こんな粗大ゴミ以下のクズ如きに…」
「ちょっと!言い過ぎですよ貴方」
すると。
「…羨ましい!」
「は?」
いきなり予想外の答えが飛んでくる。
「私たちですらあんな表情しないのに…!」
「コイツもヤバいタイプだったか!」
「私は貴方を絶対に許しません」
「私がここで始末します」
そのまま、また切合にもつれ込む。
でもやはり、武器の差でテナートが有利なのは変わらない。
「おいおい!!」
余裕そうに笑う。
「さっきまでの威勢はどうした、ヤンデレ女!!」
「……っ」
「お前の王女様への愛はそんなもんなのかぁ!」
ここぞとばかり煽る。
シグレの眉がぴくりと動かす。
「……いいでしょう」
懐へ手を伸ばす。
「私のメイラルド様への愛をお見せしましょう」
(来る!!)
毒針か。
煙玉か。
睡眠薬か。
「何だ?」
だが。
シグレは笑った。
「警戒しすぎですよ、王子様」
「……は?」
何も出していない。
その瞬間。
後ろから殺気。
「っ!?」
反射で避ける。
斬撃を回避。
しかし、反動で前方への対応が遅れた。
「隙ありです」
ドゴォォ!!
「ぐぇぇぇ!!」
痛烈な蹴り。
テナートが吹き飛ぶ。
ドシャァァ!!
そのまま果物屋の屋台へ激突する。
「ひぃぃぃ!?」
果物屋のおばちゃんが怯える。
「お初にお目にかかります」
そこには。
もう一人の黒衣の女。
「《月華》所属のサユリと申します」
「以後お見知りおきを」
「一対一だと思って油断しましたね王子様」
「てめぇら!!」
テナートが叫ぶ。
「王女直属の部隊なのに、正々堂々のせの字もないのか卑怯者!!」
「「貴方だけには言われたくありませんわ」」
二人同時。
「ぐっ……!」
――だが。
テナートはここからの判断が早かった。
「…おばちゃん」
「ひぇ!?」
果物屋のおばちゃんが震える。
ドサッ!!
金袋を渡す。
「店借りるぞ!!」
「えぇぇ!?」
そして。
果物を大量に投擲。
「小賢しいですね」
「この状況で逃げ切れると思ってるんですか」
テナートは蹴りをもろに喰らっているため、普通なら逃げ切れない。
だが、テナートの狙いは別にあった。
「お前らぁぁぁ!!」
民衆へ叫ぶ。
「この金欲しかったら――」
ジャラァァ!!
金貨ばら撒く。
「そこの不審者女二人を止めろぉぉぉ!!」
「「なっ!?」」
民衆の目が光る。
「金だぁぁ!!」
「怪しい奴捕まえろ!!」
「うおおおお!!」
群衆雪崩。
「くっ…!シグレ!」
「一次撤退よ!!」
その隙に。
テナートは。
「へっ」
笑った。
「この俺を甘く見すぎなんだよ、馬鹿どもが」
逃亡に成功した。
数時間後。
ブレイン王城。
優雅なお茶会の一時。
「――とのことです」
月華の一人が頭を下げる。
「申し訳ありません、メイラルド様」
メイラルドは静かに紅茶を口にした。
「そう」
表情は変わらない。
「まぁ……予想はしていましたけど」
カップを置く。
「流石に一日目では捕まりませんでしたか」
むしろ少し嬉しそうですらあった。
「流石です、テナート様」
ふっと微笑む。
「逃げることに関しては、右に出る者がいませんね」
褒めているのか不明。
「引き続き続行なさい」
「はっ!」
部下たちが消える。
すると、向かい側で紅茶を飲んでいた別の王女様が笑った。
「貴方も大変ねぇ」
「いえいえ」
メイラルドは優雅に微笑む。
「こうでもないとテナート様の妻は務まりませんから」
少し楽しそうに笑った。




