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ブレイン王国での逃亡Part1

5話の続き

ヘルガディア王国との戦争から数週間。


戦勝ムードも落ち着き始めた頃。


テナート・アスカテシアは絶賛胃痛に苦しんでいた。


「がははは!!」


豪快な笑い声が響く。


「まさかあのヘルガディア王国をいとも容易く退けるとはな! 流石はテナート君だ!」


「あはは……たまたまですよ、たまたま」


愛想笑い。いつも通りの完璧な営業スマイル。


テナートな現在、休暇としてブレイン王国に来ていた。


目の前にいるのはライモンド・ブレイン。


ブレイン王国現国王だ。


父ヴァルディオスの友人であり、メイラルドの父親である。


(なんでこんな気に入られてしまったんだ俺……)


無駄にいい顔だけして接待してきた結果。


気づけば国王のお気に入りポジションに収まっていた。


非常にまずい。


(何を言っても謙遜になってしまう…)


もう取り返しがつかないところまできてしまっている。


しかも、隣に座っている婚約者のメイラは全部知っていて静観を貫いている。

(何考えてるんだ?コイツは…)


「それでどうかね?」


(やべ、聞いてなかった!)


テナートは即座に営業モードへ切り替える。


「はい、何でしょうか?」


「いい機会だ」


ライモンドが笑う。


「アスカテシア王への即位と同時に、娘との結婚式も執り行ってはどうかね?」


(なんだとぉぉぉ!?)


テナートの笑顔が固まる。


「へ、陛下!」


「娘さん本人の意思も尊重すべきではないかと…」


「だそうだが?」


ライモンドがメイラルドを見る。


「それは名案ですわね、お父様!」


メイラルドはにっこり笑った。


どうやら満更でもない様子だった。


(くっ…!馬鹿な!)


テナートは慌てて言い訳を考える。


「し、しかし!」


「大事な跡取り候補の娘さんを、こんな小国の王子如きに嫁がせてよろしいのですか!?」


「何を言う」


ライモンドは笑う。


「もはや、テナート君以外に嫁がせる気など微塵もないぞ」


「他国の王子など論外だ」


(どこから来てるんだ…その過大評価は…)


「それに跡継ぎは長男のフラクタルに継がせる故、問題はない」


「安心したまえ!」


(お、終わった…見る目がなさすぎるぞこの王様!!)


「…………」


(畜生!)


心の底から理解できなかった。


ライモンドが肩を叩く。


「楽しみにしているぞ!」


「あ、あはは……そうですね……」


隣を見る。


メイラルドは笑っていた。


すごく良い笑顔。


だが悪意を感じる。



数分後。


王城を出たテナートは。


「……はぁ」


深いため息をついた。


「お疲れ様です、テナート様」


隣でメイラルドが笑う。


「お前……本当にいいのかよ」


「結婚の件ですか?」


「ああ」


普通に考えて理解不能だ。


「冗談であんなことは言いませんわ」


「けっ」


テナートは鼻を鳴らす。


「お前なら国王だって余裕で狙えただろ」


「こんな無能王子に嫁ぐとか頭おかしいのか」


メイラルドは首を傾げた。


「でも、テナート様は何が不満なんですか?」


「は?」


「テナート様どストライクの童顔清楚美少女と結婚できるのに」


自分で言うか普通。


「……それは、そうだけども」


思わず本音が漏れた。


「え?」


「あ、いや」


テナートは視線を逸らす。


「釣り合ってないんだよ」


「俺じゃ、お前を扱いきれない」


「お前、頭良くて強くて顔も良くて……なんでもできるだろ」


「俺なんかより、もっとまともな奴の方が――」


「却下です」


即答だった。


「私、テナート様以外に嫁ぐ気なんてありませんので」


メイラルドは笑顔のまま言った。


(なんでメイラは俺にこだわるんだ…)


「それに大丈夫ですよ」


「私がその気になればブレイン王国なんて裏から操れますので」


「おぉ怖い怖い」


聞かなかったことにした。


しばらく歩いていると


「おぉ、久しぶりだね」


爽やかな声。


現れたのはフラクタル・ブレイン。


ブレイン王国第一王子。


次期国王候補だ。そして厄介なやつ2号。


「お久しぶりです、殿下」


「聞いたよ。ヘルガディアを圧倒したそうじゃないか!」


「はは……たまたまですよ……」


「謙遜なんてしなくていい」


フラクタルは穏やかに笑う。


「困ったことがあれば何でも言ってくれ!力になるよ」


(今絶賛困ってるんだよ!この野郎…!)


フラクタル殿下は人格者だった。


でも…。


テナートは隣のメイラルドを見る。


「?」


(こういう善人が裏で悪女に操られるんだな……)


世の中は残酷だなと常々思った。


「ありがとうございます、殿下!」


愛想笑い。今日も完璧である。


しばらくして


「……もう無理だ」


小声で呟く。


「そうですね」


メイラルドが頷く。


「まぁでも自業自得ですよ」


「くっ……」


結局は俺もこの女の手のひらの上か。


所詮は道化ピエロ。メイラの兄貴と何ら変わりない。


であれば答えは一つ。


「逃げる、ですよね?」


「おい、心読むな!」


「そんな顔してますもの」


しかしここはブレイン王国。


敵地アウェイだ。下手に動けば即捕まる。


どうするべきか――


そう考えていた時。


「……はぁ」


メイラルドが小さくため息をついた。


「しょうがないですね」


「?」


「私も鬼ごっこに付き合ってあげたいのですが、生憎予定が詰まっていまして」


「鬼ごっこ言うな」


「ですのでチャンスを差し上げます」


「……何?」


「半日逃げる期間をあげます」


「テナート様の休暇である残り四日」


メイラルドが指を立てる。


「その間、私が送り込む刺客から逃げ切り、捕まらなければ――」


「結婚の話は、なかったことにしてあげましょう」


沈黙。


「…………本当か!?」


「ええ」


メイラルドは微笑む。


「私は嘘はつきません」


(勝った)


テナートの脳内でファンファーレ。


「後悔しても知らないからな!」


「ええ」


メイラルドは微笑む。


その笑顔はどう考えても罠だった。


だがテナートは気づかない。


こうして


小物王子 vs メイラルドによる


四日間のブレイン王国での逃亡劇が始まった。

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