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王子、敵将をわからせる

5話の続き

「なるほど……」


テナートは腕を組み、深く頷いた。


「これがヘルガディア軍の起死回生の一手というわけか」


「兵を至急集めろ!」


「はっ!!」


命令は即座に飛ぶ。


兵たちの士気は異様に高かった。


「皆の者、よく聞け」


集められた兵士たちを前に、テナートが声を張る。


「案ずることはない!」


静まり返る戦場。


「正面衝突で我軍に勝てる軍など存在しない!」


兵士たちの目が変わる。


「いかに無謀な戦いであるかを、ヘルガディア軍に刻みつけろ!」


「「「おおおおおおお!!!」」」


歓声が響く。


なお本人は。


(勝ってるうちに逃げたい)


それしか考えていない。


そして始まる正面衝突。


「押し込めぇぇ!!」


「ひるむな!!」


数ではヘルガディア軍が上。


だが。


アスカテシア軍は異常に強かった。


建国以来、武力だけで成り上がった国。


兵一人一人の強度が違う。


「ぐあああ!!」


「ば、化け物かこいつら!!」


数の差をものともせず押し返していく。


「はは!我軍は圧倒的ではないか!」


ならもう安心だ。


「あとはステファニーがなんとかするだろ」


丸投げである。


そして。


「――頃合いか」


テナートは懐から取り出した。


煙玉。


彼の十八番。


パンッ!!


白煙が広がる。


だが。


アスカテシア軍は誰も動じない。


何故なら。


王子が煙玉を使う=何か策がある


そう認識しているからだ。


決して逃げたとは誰一人も思わない。


「へへ……」


その隙にテナートは馬へ飛び乗る。


「今度こそ作戦勝ちだ」


そして。


戦線離脱。


だが。


「……っ?」


違和感。


何かが迫る。


次の瞬間。


ヒュンッ!!


「なっ!?」


矢が飛ぶ。


馬の脚を正確に射抜いた。


ヒヒィィィン!!


「あ、おい!!」


暴れた馬に振り落とされる。


ドサッ!!


「つー……いてぇ……」


立ち上がりながら睨む。


(まさかステファニーにバレたか?)


そう身構えていると。


「貴様がテナート王子だな」


現れた男がいた。


金髪を後ろへ流した端正な顔立ち。


鋭い目。


明らかに一般兵ではない。


「……ほんまに誰?」


見知らぬ顔だった。


「私はヘルガディア第一王子」


男は剣を抜いた。


「レオガルド・ヘルガディアだ」


「おいおい、なんで王子が最前線にいるんだよ!」


「それは貴様も同じだろう!!」


「……たしかに」


そういえばそうだった。


味方から逃亡阻止され続けたせいで、敵に逃亡を邪魔されるという発想がなかった。


「最初の敗北で撤退すればよかったものを」


「わざわざ傷口広げに来たんですか!王子!」


「黙れ!!」


レオガルドが怒鳴る。


「貴様の首を持ち帰るまで、私は退かん!!」


レオガルドが剣を抜く。


「ほーん…立派な剣なことで…」


テナートも小型レガリアを抜く。


対するレオガルドは見事な大剣。


最初は少しびびっていたテナートだったが。


(聖剣じゃないっぽいな)


ちょっと安心したのか、小物のように強気になる。


「今なら見逃してあげますよ」


「ほざけ!!」


激突。


キィン!!


キィィン!!


大剣と小型ナイフ。


普通なら勝負にならない。


だが。


「なぜだ……何故押し切れない!?」


レオガルドが目を見開く。


押し切れない。


どころか。


弾かれている。


《グレン・レガリア》


それは使用者に応じて姿を変える聖剣。


テナートに与えられた力は速度と技巧特化。


軽さは羽のよう。


なのに。


威力は大剣級。


「すげぇ!!」


テナート本人が一番驚いていた。


「なんだこのチート武器!」


たまらずレオガルドが後退する。


「はぁ……はぁ……!」


力量差は歴然。


主に武器性能。


「もう勝負はついてます」


テナートが水を得た魚のようにここぞと煽り散らかす。


「今なら降伏で被害抑えられますよ?」


「うるさい!!」


レオガルドが歯を食いしばる。


「私は退けん!!」


「はぁ……」


テナートはため息をつく。


「聡明な王子って聞いてたんですけどね」


「……何?」


「思ったより頭固いことで」


ピキッ。


「国に帰れば私は終わりだ!!」


レオガルドが叫ぶ。


「敗北した王子など父上は許さない!」


「それに国に帰って生き恥を晒し、惨めに死ぬくらいなら戦場で散った方がマシだ!!」


振り下ろされる一撃。


だが。


キィィン!!


レガリアが軽々と弾き飛ばす。


そしてレオガルドそのまま膝から崩れ落ちる。


「くっ……殺せ!」


だが…


「くっ殺いただきましたー!」


テナートは嬉しそうに言う。


「いやでもさ、それは女騎士が言うから良いんですよ」


「貴様は何を言っている!」


テナートはしゃがみ込む。


「なぁレオガルド君」


「君は勘違いしてる」


「なんだと?」


「国で死ぬか、戦場で死ぬか」


テナートはニヤリと笑う。


「その二択だと思ってるのが間違いだ」


「……何?」


「俺なら――」


満面の笑み。


「国を捨てて逃げるを選ぶ!」


沈黙。


「……は?」


「さぁ君に素晴らしい提案をしよう」


懐から紙を出す。


「俺と一緒に逃亡しないか!」


「…………」


「君も国家の被害者だ」


「ここにサインするだけだから!」


レオガルドが紙を見る。


亡命希望書


「なんでこんなもの持ち歩いてるんだ!?」


「だって生活に欠かせないものだろ?」


「なわけあるか!」


「相打ちで戦死したことにしようぜ」


「……そんな馬鹿げたことが許されると…」


「なぁ?このまま生き恥を晒して国に帰りたくないだろ?」


悪魔の囁き。


レオガルド気持ちが少し揺らぐ。


本当に少しだけ。


「さぁ!早く」

「何をもたもたしているんだ!」

「早くしないと…」


そう焦っていると。


「早くしないと、なんですか?」


後ろから声がする。


「………、」


「……その声は…」


振り返るとそこには。


満面の笑みのステファニー。


ただし。


目だけ笑っていない。


「あ」


次の瞬間。


ゴッ!!


「ぐぇぇ!!」


テナートはレオガルドを殴って気絶させた。


そして。


「全軍よく聞けぇぇぇ!!」


テナートが叫ぶ。


「貴様らの大将は討ち取った!!」


「速やかに降伏しろ!!」


辺りに響く。


「レオガルド様が……!」


「そんな……」


象徴を失ったヘルガディア軍は崩壊。


戦争は終結した。


アスカテシアの圧勝で。


帰国後。


王都はお祭りだった。


「テナート王子万歳!!」


「英雄王ヴァルディオスの再来だ!!」


「次期国王は安泰だな!!」


国中がお祭り騒ぎ。


だが。


当の本人は。


「くっ!こんなはずでは……」


逃亡に失敗し、挙句の果て次期国王として盤石の体制を自ら整えてしまった。


「なんでこうなるんだよぉぉぉ!!」


引きつった顔で叫んでいた。

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