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王子、何も考えずに突撃する

3話の続き

こうして


アスカテシア王国とヘルガディア王国の戦争が始まった。


兵力差は圧倒的。


ヘルガディア軍八千に対するアスカテシア軍はわずか二千。


普通に考えれば勝負にならない。



ヘルガディア王国・前線陣営。


「レオガルド王子、準備が整いました!」


「そうか」


報告を受けた青年―


ヘルガディア第一王子、レオガルド・ヘルガディアは静かに頷いた。


金髪を後ろへ流した端正な顔立ち。


若くして数々の戦場を勝ち抜いてきた、知略の王子である。


「アスカテシア軍の状況は?」


「はっ。《グラム峡谷》に陣を張っています」


「……そうか」


レオガルドは地図を眺める。


グラム峡谷。


狭く、険しい一本道で有名な渓谷。


守る側には絶好の地形だ。


「この峡谷で粘られると厄介だな」


しかも相手は、武力で成り上がった国。


さらに、アスカテシア軍は戦略に長けている国としても有名だった。

決して侮れない。


「アスカテシアが正面から来る可能性は低い」


レオガルドは即座に判断する。


「左右に軍を展開。伏兵と奇襲を徹底警戒しろ」


「はっ!」


「挟み込み、じわじわ削る」


それが最善。


勝率は九割といったところか。


「さぁ、どう出るアスカテシア……」




一方その頃。


アスカテシア軍陣営。


「お前たちぃ!!」


テナートが叫ぶ。


「覚悟はできているかぁぁー!!」


「おおおおおお!!」


兵士たちの歓声が響く。


なお。


本人は勢いだけで喋っていた。


「……というか」


テナートが隣を見る。


「なんで執事のお前がいるんだよ、ステファニー」


「私は坊ちゃまの側付きですので」


当然のように答える。


(くっ……!)


姉セイラも婚約者メイラルドも戦場には来れない。


(これで自由に逃げられると思ったのに……!)


だがステファニーは普通に来ていた。


想定外である。


「まぁいい……」


テナートは咳払いする。


「これから作戦を伝える」


兵士たちに緊張が走る。


建国の英雄ヴァルディオスの息子。


その初陣。


どんな奇策が飛び出すのか。

誰もが息を呑む。


そして。


「全軍、正面から突撃。以上だ」


沈黙。


「…………」


「…………は?」


誰かが間抜けな声を漏らした。


当然である。


「ぼ、坊ちゃま……正気ですか?」


ステファニーですら若干引いていた。


だがテナートは堂々としている。


何故なら。


何も考えていないから。


王子は自分が逃げることしか頭になかったのだ。



「なんだ貴様ら!」


テナートが声を張り上げる。


「武力で成り上がったアスカテシアの兵でありながら、たかが数千差ごときで臆したのか!?」


兵たちがざわつく。


「臆病者はついて来なくてもよい!」


テナートは小型ナイフ化したレガリアを掲げた。


ちっちゃい。


めちゃくちゃちっちゃい。


なのに何故かカッコよく見えるのが聖剣グレン・レガリア


効果は絶大である。


「私はとっくに覚悟を決めている!!」


もちろん逃亡の覚悟。


「さぁ――」


テナートは叫んだ。


「ヘルガディア軍に、アスカテシアの魂を刻み込めぇぇ!!」


王子が先陣を切って突撃する。


「「「うおおおおおおおおお!!」」」


兵士たちが沸く。


「王子に続けぇぇぇ!!」


そのまま。


アスカテシア軍二千は真正面から突撃した。


それはヘルガディア軍の意表を突くものだった。


「なにぃ!?」


報告を受けたレオガルドが立ち上がる。


「アスカテシア軍が正面から全軍突撃してきています!」


「馬鹿な……!」


左右へ軍を散らしていたヘルガディア軍は完全に虚を突かれた。


「まさか……」


レオガルドの額に汗が流れる。


「こちらが奇襲を警戒することまで読んでいたのか……!?」


実際は何も考えてない。


だが結果として最適解だった。


分散していたヘルガディア軍は対応が遅れる。


そして。


武力特化のアスカテシア軍が突き刺さった。


「ぐあああ!!」

「押し返せぇ!!」


だが止まらない。


アスカテシア軍はそのまま戦線を突破。


ヘルガディア軍は撤退を余儀なくされた。


撤退から数日。



「くっ……!」


レオガルドが拳を握る。


「こんなはずでは……!」


被害は明らかだった。


アスカテシア軍は勢いを維持。


対してヘルガディア軍は大損害。


「王子……」


部下が恐る恐る口を開く。


「ここは撤退を……」


「ふざけるな!!」


レオガルドが怒鳴る。


「このまま帰って負け犬の醜態を晒せというのか!」


「しかし…」


レオガルドは必死に策を練る。


まだ兵力はこちらが上。


ならば。


「次で決めるしかない」




一方その頃。


アスカテシア軍陣営。


「……なんか普通にうまくいってるな」


テナートがぼそりと呟く。


「さすがは坊ちゃまです」


「てめぇ絶対そんなこと思ってないだろ!嘘こくな」


「本心ですよ」


めちゃくちゃ嘘くさい。


「まぁいい……」


テナートは腕を組む。


(ここで撤退されたら困るんだよなぁ……)


逃げるタイミングを失う。


そんなことを考えていると。


「テナート様!」


伝令が駆け込んできた。


「どうした?」


「ヘルガディア軍が…正面から全軍突撃してきます!」


「なんだと……!」


ステファニーの表情が変わる。


だが。


テナートは。


「おお!」


むしろ笑った。


「そうこなくっちゃなぁ!!」


「……坊ちゃま?」


「さぁ!」


テナートはレガリアを掲げる。


「ここからが本当の勝負だ!!」


こうしてテナートvsアスカテシア軍vsヘルガディア軍の真の戦いが幕を開けた。

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