王子、誘拐されるPart5
20話の続き
検問を突破した後。
テナートは
数日に渡る野宿生活を強いられていた。
「はぁ……」
焚き火の前でため息を吐く。
「どこの町に入るにも検問だらけかよ……」
以前なら適当に潜り込めたが今は違う。
サディール皇国総出による大捜索。
「アスカテシア王国でもないのに何故だ…」
「これもメイラの仕業なのか?」
おかげで町へ入ることすら難しい。
「かといって野宿も限界だしなぁ……」
頭を抱える。
まず考えなければならないのは脱出経路。
サディール皇国は、ブレイン王国とヘルガディア王国に挟まれている。
つまり、この国から抜け出すにはさらにその先にある第三の国アルヴェイン王国。
そこまで自力で辿り着かなければならない。
「俺一人じゃ流石に厳しいか……?」
協力者が欲しい。
だがそんな都合のいい人材がいるはずもない。
「くそぉ……」
捕まるのも時間の問題かもしれない。
「難しいことはやめだ」
「明日は明日の俺がなんとかしてくれる」
テナートはそのまま横になる。
数秒後。
「くかー」
秒で眠りに落ちたテナートだった。
深夜。
ドスッ!!
「ぐぇぇぇぇぇ!!」
何かが上から降ってきた。
慌てて飛び起きる。
「やばい!!」
「見つかったか!?」
反射的にレガリアへ手を伸ばす。
だが、
目の前にいたのは見覚えのある顔だった。
「……エアリアルか」
「驚かせるなよ…」
胸を撫で下ろす。
しかし、いつもなら速攻で飛びつくはずのエアリアルが、抱きつくどころか全くと言って返事がない。
「……」
「おい、エアリアル?」
少女は静かに首を振る。
「私はエアリアルじゃありません」
「……何?」
よく見ると髪型も雰囲気も少し違う。
少し考えたあと
「あー!」
ようやく思い出した。
「あの時の妹のほうか!」
双子の妹のほうだった。
「珍しいな、お前が来るなんて」
妹は小さく頷く。
「何しに来たんだ?」
「……」
少しの沈黙後。
恥ずかしそうに目を逸らした。
「一度会ってお話してみたかった…じゃダメでしょうか…?」
「……?」
(妹の方はこういうタイプなのか……)
エアリアルとはまるで真逆の大人しい性格。
「まぁ別に構わないが」
「名前はなんて言うんだ?」
「名前…ですか…」
すると妹は少し考えた後。
「では、お父様が名付けてください」
「はぁ?」
テナートが変な声を出す。
「なんでだよ」
「お前にはもう名前あるだろ?」
少女は静かに言う。
「エアリアルはお母様が名付けた名前です」
「私の名前はお父様が名付けてくれました」
「だから、私の名前はお父様に決めてほしいです」
「……そうか?」
全く意味は分からなかったが納得はした。
「俺、ネーミングセンス皆無だぞ」
「大丈夫です、私はどんな名前でも受け入れますから」
しばらく考える。
(やべぇ、全然思いつかん…)
「………」
ふと夜空を見上げた。
その日は満月だった。
綺麗な月明かりが辺りを照らしている。
「……よし」
「じゃあ、《ルミナス》なんてどうだ?」
「古代語で光っていう意味だ」
「………」
すると無表情だった妹が初めて笑った。
「変だったか?」
少女は横に首を振る。
「いえ、ありがとうございます」
「素敵な名前です」
そして丁寧に一礼する。
「申し遅れました」
「私、ルミナス・アスカテシアと申します」
テナートは頷く。
「気に入ったか?」
「はい!」
「姉からは愛称でルナと呼ばれていますが」
「是非、ルミナスとお呼びください」
「わかった、よろしくなルミナス!」
テナートも珍しく嬉しそうだった。
少しした後、ルミナスが尋ねる。
「それで、お父様はこんなところで何をされていたのですか?」
「……」
テナートは考える。
(正直に話すべきか?)
(危険だな、軽くあしらっとくべきか?)
(いや、もしかしたら協力してくれるかもしれない…)
テナートはダメ元で話してみることにする。
「実はな、今お母様と勝負をしているんだ」
「勝負?」
メイラルドとの勝負で現在追われていること。
本当と嘘を混ぜながら都合よく説明する。
ルミナスは最後まで黙って聞いていた。
そして一言。
「なるほど」
「協力してくれるか?」
テナートが身を乗り出す。
するとルミナスは即答した。
「もちろん、いいですよ」
「本当か!?」
「はい」
「お父様はお母様に勝ちたいんですよね」
「そうなんだよ!!」
(おぉぉぉ!!話の分かる娘だ!!)
(エアリアルとはひと味もふた味も違う!!)
テナートは感動していた。
(頭のいいメイラタイプかと思ったが、まだ純粋な子供って感じだな)
「じゃあよろしく頼むなルミナス!」
「はい!」
月明かりの下、楽しく談笑する二人。
こうして、
テナートは新たな協力者を得たのだった。
次回へ続く。




