王子、誘拐されるpart2
17話の続き
そしてPart1の冒頭へ至る。
「あー愉快愉快」
テナートは馬車の座席に深く腰掛ける。
向かい側。
敵大将の男が無言でこちらを見ていた。
「一つお聞きしたい」
「何故、貴方様は自軍を潰してまで我々へ協力を?」
「…逃げたかったから?」
即答。
「…………」
テナートが脚を組む。
「で、お前らはどこの国なんだ?」
男が軽く頭を下げる。
「申し遅れました」
「私の名はイグジフ、サディール皇国の者です」
「サディール皇国?」
テナートが眉をひそめる。
どこかで聞いたことがある。
「そのサディール皇国の奴が俺に何の用だよ」
イグジフが静かに答える。
「貴方様に個人的にお会いしたいと仰っている御方がおりまして」
「このような手段になってしまったこと、誠に申し訳ありません」
「いいぜ」
「むしろグッジョブ」
親指を立てる。
「…………」
(何を言ってるんだコイツは)
「それで、その御方って誰なんだ?」
「申し訳ありません」
「それについては、まだお伝えできません」
男は首を横に振る。
「ふーん、まぁ何でもいいや」
「にしても、よくうちの兵相手にあそこまでやり合えたな」
イグジフが苦笑する。
「これでも、我々が集められる精鋭を揃えたつもりでしたが…想定外の強さに驚かされました」
「あー」
テナート頷く。
「うちの兵、味方だと頼もしいけど敵だと恐ろしいもんな」
そしてふと思う。
「今頃、うちの奴らが血眼になって探してそう…」
少し嫌な予感がする。
だがイグジフが安心させるかのように言う。
「ご安心ください」
「わが国へ入ってしまえば、追手が来ることはないでしょう」
「あとどれくらいで着くんだ?」
「半日程度です」
「それまでに追いつくことは不可能かと」
「素晴らしい!!」
テナートが拍手喝采。
「大義名分を得て逃げられるなんて」
「棚から牡丹餅とはこのことだな!!」
「よっしゃ!」
「俺は安心してくつろいどくわ!」
そしてイグジフの予想通り何事もなく進んだ。
「まもなくです」
「いいねぇ」
テナート上機嫌。
――その時。
「敵襲!!」
怒号。馬車が停止する。
「…………」
「…………」
デジャブ。
テナート固まる。
「おぃぃぃぃぃ!!」
「いつもならご褒美イベントなのに!!」
「これほど嬉しくない敵襲ある!?」
「安全じゃなかったのか!?」
「そんなはずは……!」
イグジフも困惑。
「馬車でお待ちください!」
即座に戦闘態勢。
外は剣戟に怒号。
「くそぉ……」
テナートが頭を抱える。
「今回は楽に逃げ切れると思ったのに」
「なんでこうも上手くいかないんだ……!」
チラッ。
外を覗く。
「やっぱりか」
見慣れた面々。
「一匹たりとも逃がすな!!」
「生け捕りにしろ!!」
指揮しているのはミツバ。
「終わった」
明らかに押されている。
当然だ。
しかも奇襲。
鬼に金棒どころの話じゃない。
「くっ…このままでは……!」
(まずい)
「強制送還からの、メイラルド様直々のきつーーいお仕置き祭りが目に見えている…」
テナートが爪を噛む。
「……かくなる上は」
――
一方その頃。
「化け物共が……!」
「あとでたっぷり尋問してあげますわ!!」
ミツバがイグジフを追い詰めていた。
その時。
――ヒュン。
「!!」
後ろから気配。
「誰だ!?」
そこにいたのは覆面の男。
「てめぇら」
「このまま敗走が許されると思ってんのか!」
サディール皇国側に喝を入れる。
次の瞬間。
ボンッ!!
炸裂弾。
「「何!?」」
敵味方関係なしの無差別爆撃。
「「ぐぁぁぁぁ!」」
辺りは混乱に包まれる。
「何という奴だ……!」
イグジフ、ミツバと共に唖然。
「安心しろ」
「死なない程度には調整してある」
覆面男が笑う。
さらに怒涛の連続爆撃。
戦場崩壊。
「これで戦況は五分だ!」
「くっ…この程度で勝った気になるなよ!!」
そこから激しい剣撃が繰り広げられた。
――
数時間後。
兵士を引き連れたメイラルドが到着する。
「……ひどい有様ですわね」
周囲には敵も味方も関係なく倒れている。
「メイラルド……様……」
「申し……訳……ありま……せん……」
ガクッ。
瀕死のミツバが一言言い残し、気絶する。
メイラルドは周囲を確認する。
無惨に破壊された馬車や爆撃の跡。
そして気づく。
当たり前のようにテナートだけがいないことを。
「………」
少しの沈黙のあと。
「ここに倒れている兵は全員回収するとして」
「まぁ、今回は収穫があるだけマシですね」
「ボタン」
呼ばれたのは《月華》最年少のボタン。
「はい、お呼びでしょうか」
「行くところができましたわ」
「ついてきなさい」
「はい!」
犯人は一体誰なのか。
テナートの行方はどうなったのか。
次回に続く。




