表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/15

背負う覚悟



 「エリサ! 待てよ」


 追いかけてきたカミュに、手首を掴まれ、エリサはゆっくりとカミュのほうを向く。その目は少し充血している。

 彼女はふうっと大きく深呼吸をしてから、いつものように微笑み、「心配かけたな。覚悟はしていたから、大丈夫だ」と言って続ける。


 「カミュ、ありがとう。それに、ニナも。これで、ようやく領地の膿を出すことが出来た。まだ、氷山の一角にすぎないかもしれないけれど、大きな一歩よ」


 そう言ったエリサの表情は晴れやかで、ニナとカミュはほっとした表情を浮かべる。


 「亜人を差別していたのは、両親の派閥が中心だった。彼らの失脚に併せて、無くしていく事を約束する」


 そう言って、カミュに片手を差し出すエリサ。じっとエリサの手を見つめるカミュの瞳が、心なしかうるんでいるように、ニナには見える。


 「……ありがとう。必ず、やり遂げよう」


 力強く握手をする二人を見て、ニナは笑顔で拍手をする。そんなニナを見て、二人の表情がほころぶ。


 「それもこれも、ニナのおかげだ。今まで終わりの見えなかった領地改革に、光が差し込んだんだから」

 

 そう言って、カミュはニナを抱きかかえ、高く掲げる。

 ニナは、嬉しそうに、えへへと照れ笑いをする。なんだか、胸がじんわりと温かくて、ぽかぽかして、誇らしい。

 

 

 その日の夜は、小さなお祝い会が執り行われた。

 美味しそうな食べ物の山に、ニナはまた感動で震えている。

 そんな中、カミュがエリサに話しかける。


 「話がある」

 「夜風にあたりたい。バルコニーに出ようか」

 「ああ」


 二人がバルコニーに出ていく姿を見つめるニナに、ハミルトンが囁く。


 「大人のお話です。少し、二人だけにしてあげましょう」

 「うん」


 そうして、ニナは目の前にある骨付き鶏にかぶりついた。


 「それで、話とはなんだ?」


 カミュは、ばつが悪そうに頭を掻き、意を決したように口を開く。

 

 「こんな時に悪い。少し暇が欲しい」

 「ニナのためか?」

 「……ああ。アイツに沢山のものを貰った。だから、今度はアイツの願いをかなえてやりたいんだ」

 「友達を救う、ってやつか」

 「ああ。どれぐらいかかるのかわからないが……」


 エリサは、カミュの背中をバシッと叩く。あまりの勢いに、カミュは「うっ」と鈍い声を漏らす。


 「私も、ニナに恩返しがしたい。私の分も、ニナを助けてやってくれ」

 「すまねぇ、エリサ」

 「なぁに、膿は出した。あとは私とハミルトンでも、どうとでもなる。派閥がひとつ消えた混乱に乗じて、上手くやるさ」

 「……ありがとうな」

 「こちらこそ。帰ってくるのを待ち望んでいるよ」

 「ああ」


 そうして、二人は持っていたグラスを交わし、音を鳴らした。




 ニナの元に戻ると、カミュがニナの目線にしゃがむ。

 むしゃむしゃとパンをほおばり、頬をぱんぱんに膨らますニナを見て、笑いながらカミュは言う。


 「なんつう顔してんだよ。まったく……ニナ、待たせたな。お前の友達、一緒に助けよう」

 「ぱみゅ!」


 ニナは慌ててパンを飲み込み咳き込むと、ハミルトンがジュースを渡し、それを飲む。


 「カミュ! いいの? あの、トーチャ捕まえたの、すごく、怖い人達なんだけど」

 「問題ねぇ。俺はこの街の副団長だ! 皆が恐れおののくドラゴニュートのカミュ様だ!」

 「おおお!」


 ニナは、カミュの言葉に拍手をする。そうして、カミュはニナの頭を撫でる。


 「だから、ニナは安心しろ。お前の友達も、お前も、絶対に俺が守ってやるから」


 そう言われて、ニナは一瞬固まる。

 そうして、じわじわと目が潤み、ぼろぼろと涙をこぼす。

 その様子に、カミュは大慌てし、ハミルトンがハンカチを渡す。


 「よろしく、おねがいしますっ」


 泣きじゃくりながら、そう言うニナを、「任せとけ」と言って、カミュは抱きしめる。

 ニナは、その背に手を回し、力いっぱい抱きしめ返した。

 


 出発は明日の朝にしようと、カミュと約束をして、その日もニナはエリサの家に泊まることになった。

 ベッドに入っても、高揚感が抜けず眠れずにいると、エリサが話しかけてくる。


 「眠れないか」

 「うん、なんか、ドキドキしてる」

 「そうか。じゃあ、少しだけカミュの昔話をしてやろう」

 「聞きたい!」


 がばっと起き上がるニナを、エリサはクスクスと笑いながら、ゆっくりまた横にさせる。


 「カミュには妹が居たんだ。ニナと同じくらいのドラゴニュートの子だ」

 「ニナと同じくらいの子」

 「そうだ。笑った顔が似ているらしい。カミュはその子をすごく大事にしていたんだ。でも、ある日その子は病気にかかってしまってな。薬さえ飲めばよくなる病気だ。だけど、その子は薬を買わせて貰えなかったんだ」

 「何で……?」

 「亜人だから、さ」

 「……」


 ニナは、ぎゅうっとブランケットを握りしめる。彼女のその手を、エリサは優しくなでる。


 「カミュは何度も訴えかけたそうだ。金ならいくらだって払うからと。でも、当時のカミュはまだ若かったし、二人は孤児だった。亜人は嘘ばかりつくと言われ、そうして妹は亡くなったそうだ」


 エリサは小さく息を吐き、続ける。


 「その後、カミュは堕落していった。暴力沙汰を起こし、そうしてまた亜人だからと言われ、その繰り返しだったそうだ。そこで、私はカミュと出会った」


 ニナは、じっとエリサを見つめる。


 「丁度腕っぷしの強い人物を探していたんだ。亜人だろうが、誰でもよかった。信頼のおける人物かどうかが大事だったんだ。カミュに初めて会った時、彼に問うたんだ。もし、この街を改革するとしたら、どんな場所にしたいかと。彼は言った。差別のない場所にしたいと」

 「カミュ、悲しくない場所にしたかった?」

 「ああ、もう妹のような子供が現れないようにと。私の信念と同じものを感じて、私はカミュを仲間として招きいれたわけだ」


 そう話し、エリサはニナに微笑みかける。


 「カミュは、腕っぷしの強い人間が二十人襲ってきても、負けないぐらい強いぞ。だから、ニナは安心していい。きっと友達のことも助けてくれる」

 「カミュ、強い!」


 目を真ん丸にして驚くニナに、エリサは笑い、続ける。

 

 「ニナも、カミュが悲しい顔をしていたら、いつもみたいに撫でてやってくれ。意外に繊細だからな」

 「ニナ、撫でる!」

 「ああ、そうしてくれ。そうすれば、私も安心だ」


 ニナは、少し瞼をこすり始め、エリサは頭を撫でる。


 「そろそろ寝よう。お休み、ニナ」

 「おやすみ、なさい」


 ニナの寝息を聞き、エリサは微笑み、瞼を閉じた。

 



 次の日の朝、ニナとカミュは出発の準備を整えた。


 「まずは、もう少し大きい街に行ってみて、情報収集をしてみようと思っている」

 「であれば、ナヴァールはどうだ? 港町だし、色んな情報が集まっているからな」

 「いいな。ニナ、海に行くぞ」

 「海ってなに?」

 「でーーっかい、水たまりみたいなもんだ」

 「なにそれ! すごそう!」


 興奮するニナを横目に、カミュとハミルトンは握手をする。


 「ハミルトン、エリサのこと頼むな」

 「はい、お任せください。どうか、無事に戻ってこられますように」

 「ああ」


 「よし! 行くかニナ」

 「うん! ばいばい! またねエリサ! ハミルトン!」

 「またね! 怪我には気を付けるのよ」

 「また会いましょう」


 ぶんぶんと手を振るニナを乗せて、カミュは馬を走らせる。

 暖かい日差しと、草の匂いが、これからの旅を見守ってくれているように、穏やかな日だった。






 ――その頃、ナヴァールの地下では、一人のエルフが捉えられていた。


 「はぁ、はぁ。クソ、早くここから出せ! 外道!」

 「まったく、口が悪いですねぇ。ただでさえ、目の周りの怪我が商品価値を落としているのに、口まで悪いなんて」

 「黙れ!」

 「まぁ、腐ってもエルフ。そこは物好きが買ってくれるでしょう。でも、脱走などされては困りますから、貴方の自慢の脚は、片方頂いちゃいましょうか」

 「は……?」


 男は、手に大きなのこぎりを持って、ニヤリと笑う。


 「誇り高き、エルフの戦士なら、耐えられますよね?」


 そう言って、エルフの右足にのこぎりを当てる。


 「やめろ、やめ……!」


 地下室に、エルフの絶叫が轟き、やがて、ほとんど聞こえなくなった。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ