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対峙



「ほら、お菓子を沢山用意しておいたんだ。好きなだけ食べると良い」

「わわわ!」


 エリサが用意してくれたお菓子の山を見て、ニナは目を輝かせて震えた。

 生クリームたっぷりのケーキに、いちごジャムのクッキー、マカロン。他にも見たこともない美味しそうなお菓子がたっぷりと置かれている。


「こ、これ」

「ああ、全部食べても良いぞ。イチゴはセームル(この街)の名産品だ。特におすすめはこのケーキで――」

「こんなに食べたら腹壊すだろ。ニナ、自分の腹と相談して食べるんだぞ」


 呆れ顔のカミュに、ハミルトンが笑いながら紅茶を淹れる。

「すっかりニナさんも馴染みましたねぇ。はい、紅茶をどうぞ」

「ありがとう。ハミルトン」


 にこにこと微笑むハミルトンから紅茶を受け取り、ニナはふぅふぅと冷ましながら啜る。

 そんなニナとハミルトンのやり取りを見ながら、カミュがこそりとエリサに囁く。


「まるで、孫と爺さんだな」

「ふっ、お前こそ父親と娘のようだぞ」

「はぁ?! そこまで年離れてねぇって」


 カミュは、ぶつぶつ言いながら裏帳簿に視線を落とし、パラパラとめくる。


「しかし、ニナの魔法は凄いよなぁ」

「ああ、だが……凄いといっても、まだ小さな子供だな」

「ん?」


 カミュがエリサに視線を向けると、彼女はニナから視線を逸らさず続けた。


「夜中に泣いていた。祖父母に会いたいと」


 カミュもニナに視線を戻す。にこにこと笑うニナ。その胸の内を想像して、少し胸が痛む。


「きっと、寂しいのだろう」


 カミュはニナと初めて会った時のことを思い出す。


 『ニナと、トーチャを助けるのを手伝ってください!』


 じっと、ニナを見つめながら、カミュの頭の中では、初めて会った日のニナの言葉が反芻する。ふと、カミュは自分が拳を強く握っていることに気づく。


 「手伝ってください、か……」


 そう、小さく呟くと、カミュは真っ直ぐにニナを見つめ、拳を強く握り直した。

 



「ご足労いただき、ありがとうございます。父上、母上、ボンズ」


 客間に訪れた、エリサの父母達は表情を明るくした。


「エリサが笑顔で迎えてくれるなんて、珍しいじゃない! ようやく私達の想いが通じたのね」


 エリサの母は、高笑いをしながらエリサの手に触れるが、エリサはそれに微笑み返す。

 その反応をみて、エリサの父とボンズはチラリと視線を交わし、同じくエリサに近寄る。


「いやぁ、エリサなら分かってくれると思っていたよ」

「やはりご家族ですから、仲が良いのが一番ですな」


「そうですね。今日お越しいただいたのも、今後の領主一家としての方針についてですわ」


 そう微笑むエリサは、あからさまに口角を上げた三人の前に、一冊の帳簿を差し出す。


「ん? これは……」

「こちらは、写しですので、お手に取ってご覧ください」


 エリサの父母は帳簿を受け取り、そしてすぐに顔が青ざめていく。そうして、ボンズを睨みつける。


「ボンズ! 何故これがここにある?! 話が違うではないか」

「はい……? な、なぜこの帳簿が?! これは私が処分したはず……」

「早速失言をありがとう」


 ニコリと笑うエリサに、ボンズは慌てて口をつぐむ。


「父上、母上、お二人のサインもありましたよ。まさか領主の両親が、街に薬物を蔓延させている張本人だったなんて」


 すぅっと息を吸い込むと、エリサは眉を吊り上げる。


「ふざけるな! 守るべき領民を餌に私腹を肥やすなど言語道断だ! 恥を知れ!」


 ビリビリと体が震えるほどの迫力に、エリサの両親達は喉を鳴らし、苦し紛れに唇を噛み締めるだけで反論が出来ない。

 ニナは、エリサの様子をみて、静かに息を呑む。


「貴方達の処分はこの街の法に則って下します。大人しく地下牢に連れて――」

「ふざけるんじゃないわよ!」


 突然、エリサの母が顔を醜く歪め、叫ぶ。


「アンタみたいな小娘に何がわかるって言うの!? 大体誰のおかげでここまで育ったと思ってるの! こんなことなら、アンタなんか、産むんじゃなかった!」


 そう吐き捨て、尚もエリサを睨みつける女。エリサはほんの一瞬だけ表情を曇らせたが、すぐにグッと唇を寄せ、反論しようと口を開いた。その時だった。


「おいババア! いい加減にしろよ」


 そう言って、エリサとエリサの母の間にカミュが立ちはだかる。こめかみの血管が浮き出るカミュにたじろきつつも、エリサの母は「黙るのはアンタよ! 亜人ごときが!」そう叫ぶ。

 エリサが反論しようとすると、カミュが片手でそれを制し、尚も叫ぶ母親に顔を近づける。


「確かに俺は亜人だ。でもなぁ、それがなんだってんだよ。少なくとも、この領地の為を思って働けてるよ。アンタよりもな」

「なっ」

「それにな……産まなければよかったなんて、絶対言っちゃいけねぇ言葉だ。エリサはなぁ、領民みんなを幸せにしたいだけなんだよ。それには、勿論アンタ達も含まれてる。なのに」


 ぐっとカミュは拳を握りしめ、叫ぶ。


「どうして、そうやってエリサの気持ちを無視するんだ! 家族を罰しなければならない、彼女の気持ちを考えたことがあるのか?! 信じたくないと、泣いていたエリサの気持ちを! 泣かせる為に腹を痛めて産んだんじゃないだろ!」


 ニナは、エリサに視線を向ける。

 エリサは黙って、いつものようにまっすぐカミュ達を見ていた。その目尻からは、一筋の涙が流れていた。

 でも、彼女は表情を変えなかった。それでも、その握った拳は、白く色が変わるほど、強く握りしめられていた。

 

 両親は、バツが悪そうにエリサに視線をやり、うつむいた。

 エリサは、そんな両親に真っ直ぐ向き合い、口を開く。

 

「育ててくれたことには勿論感謝しています。こんな結果になってしまい、本当に残念です。ですが、罪を償い、公正されることを信じています」


 曇りない彼女の瞳に、両親たちは小さく頷いた。そうして、「エリサ、ごめんなさい」と呟き、へたり込んだ。


 エリサはその言葉に、一瞬唇を噛み締め、そうして「ハミルトン、あとは頼みます」と伝えると部屋から出て行った。

 カミュもニナを連れて出て行こうとしたが、ニナはエリサの両親達のところに走って近づいた。

 涙を流す二人の手の甲を、ニナは優しく撫でる。


「悪いこと、ニナもしたことある。でも、ちゃんとごめんなさいしたら、やり直せるよ」

「……そうね、ありがとう」


 そう言って、少しだけ微笑むエリサの両親をみて、ニナは立ち上がりカミュの元に戻った。


 

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