表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/15

エリサの両親


 翌朝、ニナとエリサが朝食をとっていると、何やら騒がしい声が聞こえた後、扉が勢いよく開かれた。

 そこには中年の男女が立っており、一人はでっぷりとした男、もうひとりは神経質そうな女性で、エリサを見ると急に笑顔をつくった。


 「あら、エリサったら今日も可愛らしいこと」


 猫なで声で近づいてきた女性は、ニナに気が付くと嫌悪を露わにする。


 「まぁみすぼらしいこと。何なのこの子は」


 冷たい声に、ニナはびくっと肩を揺らし、不安そうに隣に座るエリサの裾を掴む。その様子を見て、エリサは女性に声をかける。


 「私の客人に無礼な発言はおやめください、母上。父上もご一緒に朝から何の用でしょう」


 エリサの母らしい女性は、エリサのひどく冷たい声に、少し上ずった声で返す。


 「ほほ、ごめんなさいねぇ、まさか客人とは思わず。それでね、今日来たのは以前話したことの続きよ。ほら、貴方」


 エリサの母が、父に目くばせをすると、彼は少しどもりつつ続けた。


 「ああ、エリサも立派に領主としての仕事をやっていると思うが、やはりまだ若いからな。補佐に丁度良い人材を見つけてきたんだ」

 「またその話ですか、それは断ったはずですが」

 「会うだけでもどうかしら? いくらお爺様が決めたからって、あまりにも貴女は若すぎて経験だって……」


 エリサは大きくため息をつき、父母を睨みつける。


 「それは、私に任せるとしたお爺様の判断を疑うということですか。現状特に問題も起きていないどころか財政も回復しつつある、この状況で」

 「そ、それは……」


 

 その時、乱暴に扉が開き、カミュが入ってくる。


 「カミュ!」


 ニナが立ち上がると、カミュは「はようさん」と片手を上げる。

 そして、エリサの両親に気が付くと、じろりとにらみを利かせる。

 

 カミュの視線に縮こまる二人から視線を逸らすと、エリサはハミルトンに声をかける。


 「父上と母上がお帰りだ。丁重に見送るように」

 「かしこまりました」


 二人は文句を言いつつも、執事に連れられ扉から出ていく。カミュを睨みながら「亜人無勢が」と呟く声がして、ニナはむっとする。

 エリサは短く息を吐いてから、ニナに向き合うと頭を撫でる。


 「すまない、私の両親が君に失礼なことを言った」

 「ううん、大丈夫。あの、エリサ怒ってくれて、ありがとう」

 「それは、当然だ。何より君はみすぼらしくない、強い女性だ」

 「あ、ありがとう」


 少しはにかむニナに、カミュは「照れてるのかニナ」と笑う。

 エリサもふっと笑った後、カミュは向き直り「何か、薬の件でわかったことあるか?」と聞く。

 

 「ああ、どうもあの薬の精製工場は領主が私に代替わりして、しばらくたってから人の出入りが始まったらしい。亜人を薬の実験にするのもその頃からのようだ」

 「ほぉ」

 「今までは、お爺様の目があったから動けなかったが、私になったことで動き出した、といったところか。舐められているな」

 「なるほどな。クソっあの時の帳簿さえ燃えていなかったら……」


 エリサとカミュが真剣な表情をして話しているのを、ニナはじっと見つめ、話に割り込んだ。


「ニナも、何かやりたい!」


 ニナの声に、エリサとカミュは顔を見合わせ、「あ」と言う。


「ちょっと試してほしいことがあるんだ。この帳簿を君の魔法で戻せるか」

「ちょうぼ?」

「ああ。裏帳簿っていう、悪いことをした証拠なんだが、燃やされてしまって、この通り一部しかなくてな」

「やってみる」


 

 ニナは手を翳し、「再生」と唱える。

 しかし、何も起こらない。


「どう、直したら良いかわからない」


 そう呟くニナに、エリサは帳簿をみせる。


「これが帳簿というものだ。こう、ページがあって――」


 エリサに説明してもらうと、ニナは頷く。

 そうして、再度手を翳し「再生」と唱える。


 バチっと緑の閃光が走り、光が消えると、そこには元通りになった裏帳簿が現れる。

 エリサは直ぐにそれを手に取ると、中をパラパラとめくり、「中身も、そのまま戻ったようだな」と言葉をこぼす。

「まじか、すげぇなニナ!」


 カミュはニナの頭をワシワシと撫で、ニナはカミュを見上げてニコッと笑う。


「しかし、聞いていた以上の能力だな……お陰で証拠が集まった。感謝するよニナ」

「うん! よかった」


「中身はどうだ? エリサ」

「父上の推薦で採用したボンズのサインに、父上母上のサインもあるな。これで、尻尾を掴めたぞ」


 エリサは満足げに口角を上げ、カミュも「よし!」と声を上げる。

 

「しかし、予想通りではあったが……まさか領地の経営に加え、風紀までも悪化させている原因が、領主の家族とはな」

 

 エリサは片目を引くつかせ、唇を噛む。力を入れすぎたのか、唇からは血が滲んでいる。

 そんなエリサを見て、ニナはおどおどして、エリサの手の甲を擦る。


 「エリサ、痛いの?」


 そう言われ、エリサは眉を下げ、ニナを強く抱きしめる。

 

 「ああ、少しな。でも、ニナのおかげでもう、大丈夫だ。だが、すこしだけ、このままでいさせてくれ」


 ニナは微笑み、エリサの小さく震える背中をそっと撫で続けた。

 エリサの声は少し涙ぐんでいるようで、掠れている。早く痛みが治まることを祈るように。

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ